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第21話 夏向

今日の撮影は遅くともお昼までには終わるだろうから、 二人分のお昼を買って、 ももちゃんのところに行こうと決めている。 たくさん泣いて・・・ それでも結局はなにもかわらない。 どうせ気持ちはなくならないんだし・・・ 今朝、今日はちゃんと仕事して、 会いたいという気持ちに素直に、 午後にはももちゃんトコに行こうって決めたのだ。 何も知らないももちゃんはきっと、 今日もあの笑顔で迎えてくれるだろう。 「あれ、ちょっと目、腫れてますか?」 メイクさんに言われてドキリとする。 「っすみません。やっぱわかっちゃうかな・・」 焦って視線を泳がすオレに 「ん~、ちょっと待ってくださいね」 いつものメイクさんはとくに理由も聞かずにニコリとすると、 おそらくカメラマンのもとへ行ったのだろう。 だめだ・・みんなに迷惑かけてる。 これからは泣く日も決めとかなきゃ・・・ とっさにそんなことを思って、なんだかひとりで笑けてきた。 そんなこと、出来るわけがないのに。 オレはなに考えてんだろう・・・ 「夏向(かなた)くん、衣装チェンジで」 「え?」 戻ってきたメイクさんは衣装さんを連れてやって来くると、 オレはさっき着たばかりの衣装をまた、着替えることになった。 目のまわりが少し赤いし、 顔もどこかまだむくみがとれてない。 そうして、それを効果的に活かそうと、 衣装からチェンジすることになったのだった。 ーーー・・ 「あれ?なんでいんの?」 慌てて衣装を着替えてメイクを仕上げてもらうと、 急いでスタジオに入った。 するとそこには 「・・よぉ」 カズがいたのだ。 カズがどうしてここにいるのかまったくわからずにいると、 「ってかお前誰だよ」 「え?」 オレをオレと認識しているくせに、 どこか冷たくそんな風に言われてびっくりする。 「すげーかっこだな」 「ああ・・」 無意識に下を向くとまばたきを何度もする。 カズの言っている意味がわかったからだった。 腫れた瞼を上手く活かすためではあったみたいだけど、 衣装とメイクがいつもより・・・ 「わぁ~夏向(かなた)ちゃん可愛い!」 「え?」 今度は背後からそう言われて反射的に振り向けば、 そこには満面の笑みを浮かべる椿さんがいた。 「すごい似合ってる」 「そ・・っそうかな?」 そうして椿さんをよく見れば 「あれ?もしかして椿さんも衣装変わった?」 「うん。なんか変更になったみたい」 さっきとは違う衣装を着ていることにようやく気が付く。 瞼の赤みを活かすメイクに合わせて突然、衣装チェンジをした。 そして現れた椿さんも、 なぜかさっきとは違う衣装に変更されていた。 椿さんが身に着けているのは 黒いシフォンで覆われた、 少しフワっとした丈の長いジャケット。 そこにキレイな光沢のかかったスラックスを合わせている。 品のあるその形状は、 椿さんの細い脚が余計に際立っているようにも映った。 そうして、カズが怪訝な顔をしたオレの衣装は、 それとはまったく逆で全身が真っ白だった。 「夏向(かなた)ちゃん白、似合うね」 「そ、、、そう?ちょっと派手じゃない?」 「そんなことないよ。  髪型もメイクもなんか可愛い。ね、カズくん」 突然はなしを振られたカズは 「はぁ、、、」 なんともとらえどころのない、曖昧な返事をした。

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