22 / 26
第21話 夏向
今日の撮影は遅くともお昼までには終わるだろうから、
二人分のお昼を買って、
ももちゃんのところに行こうと決めている。
たくさん泣いて・・・
それでも結局はなにもかわらない。
どうせ気持ちはなくならないんだし・・・
今朝、今日はちゃんと仕事して、
会いたいという気持ちに素直に、
午後にはももちゃんトコに行こうって決めたのだ。
何も知らないももちゃんはきっと、
今日もあの笑顔で迎えてくれるだろう。
「あれ、ちょっと目、腫れてますか?」
メイクさんに言われてドキリとする。
「っすみません。やっぱわかっちゃうかな・・」
焦って視線を泳がすオレに
「ん~、ちょっと待ってくださいね」
いつものメイクさんはとくに理由も聞かずにニコリとすると、
おそらくカメラマンのもとへ行ったのだろう。
だめだ・・みんなに迷惑かけてる。
これからは泣く日も決めとかなきゃ・・・
とっさにそんなことを思って、なんだかひとりで笑けてきた。
そんなこと、出来るわけがないのに。
オレはなに考えてんだろう・・・
「夏向 くん、衣装チェンジで」
「え?」
戻ってきたメイクさんは衣装さんを連れてやって来くると、
オレはさっき着たばかりの衣装をまた、着替えることになった。
目のまわりが少し赤いし、
顔もどこかまだむくみがとれてない。
そうして、それを効果的に活かそうと、
衣装からチェンジすることになったのだった。
ーーー・・
「あれ?なんでいんの?」
慌てて衣装を着替えてメイクを仕上げてもらうと、
急いでスタジオに入った。
するとそこには
「・・よぉ」
カズがいたのだ。
カズがどうしてここにいるのかまったくわからずにいると、
「ってかお前誰だよ」
「え?」
オレをオレと認識しているくせに、
どこか冷たくそんな風に言われてびっくりする。
「すげーかっこだな」
「ああ・・」
無意識に下を向くとまばたきを何度もする。
カズの言っている意味がわかったからだった。
腫れた瞼を上手く活かすためではあったみたいだけど、
衣装とメイクがいつもより・・・
「わぁ~夏向 ちゃん可愛い!」
「え?」
今度は背後からそう言われて反射的に振り向けば、
そこには満面の笑みを浮かべる椿さんがいた。
「すごい似合ってる」
「そ・・っそうかな?」
そうして椿さんをよく見れば
「あれ?もしかして椿さんも衣装変わった?」
「うん。なんか変更になったみたい」
さっきとは違う衣装を着ていることにようやく気が付く。
瞼の赤みを活かすメイクに合わせて突然、衣装チェンジをした。
そして現れた椿さんも、
なぜかさっきとは違う衣装に変更されていた。
椿さんが身に着けているのは
黒いシフォンで覆われた、
少しフワっとした丈の長いジャケット。
そこにキレイな光沢のかかったスラックスを合わせている。
品のあるその形状は、
椿さんの細い脚が余計に際立っているようにも映った。
そうして、カズが怪訝な顔をしたオレの衣装は、
それとはまったく逆で全身が真っ白だった。
「夏向 ちゃん白、似合うね」
「そ、、、そう?ちょっと派手じゃない?」
「そんなことないよ。
髪型もメイクもなんか可愛い。ね、カズくん」
突然はなしを振られたカズは
「はぁ、、、」
なんともとらえどころのない、曖昧な返事をした。
ともだちにシェアしよう!