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第22話 夏向

椿さんは髪型はふわっとしてるけど ハッキリとした、どこかかっこいいメイクをしてる。 とくに目が。 本来、目じりが優しい椿さんは、 いまはくっきりとした瞳でなぜだかカズを見ている。 そんなカズに「誰だよ」なんて言われたオレは、 全身がふわっとした薄いシフォンを何枚も重ねた真っ白い衣装をまとって、 正直ちょっと恥ずかしい。 おまけにオレは、 全体に少し伸びかけている髪を8対2くらいで横に分けて 少ないほうは耳にかけるとピンでとめて、 もう片方はふわっとなびかせた感じにした いままでしたことのない髪形をしていて、 そうして、 なにより全体的にちょっとピンクがかった優しい、 それはまるで・・・女の子みたいなメイクをしているのだ。 なんというかちょっと・・・すべてが乙女チックな感じがして、 カズの言ってる意味がよくわかる・・なんて思う。 「なんか、天使みたいだね」 「え?」 けれども椿さんにそう言われて、 恥ずかしさと共にオレはどこか嬉しくもなった。 「目が・・ちょっと腫れてたから・・・」 昨日、ももちゃんを想って泣いた、自分を思い出す。 自然と瞼が伏し目がちになった。 「逆だろ」 「え?」 すると、ぼそっとカズが独り言みたいにそんなことを言った。 思わずカズを見つめるけど、その瞳はこちらを見てはいない。 「カズくんはよくわかってるんだね」 すると今度は椿さんがそう言って、 椿さんを見ればまた、その瞳の先にはカズを捕えている。 「・・・」 なんだか話しがまるで見えなくて、 オレは無意識に二人を交互に見つめた。 「ってか、なんでカズがいんの?」 目の前の会話がよくわからなくて、 思ず自分から話題を変えた。 「・・・花持って来たんだよ」 すると明らかに不機嫌そうにそう言って、小さくため息をつく。 見れば、確かに今日の撮影では花を使うようだった。 けれどもなぜ、わざわざカズが直接、スタジオに花を持って来るのだろうか。 「カズがわざわざ持って来たの?」 「そうだよ」 そうして、その返事もやっぱり、とても不機嫌そうだった。 「アンタが呼んだの?」 すると、 小さいけれど迫力のあるその真っすぐな瞳を、ギロリと椿さんに向ける。 「そう。来てくれてありがと」 そんな視線にはおかまいなしって感じで 椿さんはいつもの笑顔でサラリとカズにお礼を言うと、 カズは黙って視線を逸らした。 ーーー・・・ カズが持って来てくれた花に囲まれながら 椿さんと2人の撮影が始まった。 花の中でそれぞれポージングをしていく。 今日はカメラマンからはとくに指示はなくて、 二人して様子を見ながら自然と身体のフォームをつくっていった。 どこか対照的な衣装とメイクは、 自然とそのような二人の位置関係をつくりだす。 向かい合っている状態でもなんだか、 オレは椿さんを見上げるような気持になっていた。 撮影では具体的にポージングを指示されることもあるけど、 何も言われないことのほうが多い。 そして、最初のころは何も言われないと不安で仕方がなかった。 自分が上手くできているか・・・それはいまだにわからないけれど、 今日は椿さんがいるおかげでずいぶんと気分が楽だ。 どこか、任せておけばいいって気持ちがあって、 自然と身体が動いてくれる。 そしてふっと、 それはもしかしたら、花のおかげもあるのかもしれない・・・なんて 気持ちにもなった。 チラリとカズのことを思う。 【カズくん、よかったら撮影みていって】 さっき、珍しく椿さんはそんなことを言った。 きっとカズは興味ないとかなんとか短く返事をして さっさと帰ってしまうだろうと思ったのに、 さらに珍しいことに、いま、この現場にはまだカズがいるのだった。 ここからカズの姿は見えない。 けれど自然と目に入る花たちを見るだけで、 カズという存在は オレと椿さんのいま、二人の世界のどこかしらにいるような気がする。 「ーーーはい、じゃ次ーーー」 あっという間に二人同時の撮影は終わった。

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