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第24話 夏向

気づけば あっという間に椿さんの撮影が終わって、 うっすら汗をかいた椿さんが笑いながらこちらに来る。 「お疲れさま」 「ん。お疲れ」 すると目の前で、 カズに手渡されたその一本の大輪を、 今度は椿さんが座ってるカズに手渡そうと腕を伸ばして、 なぜかそのシーンにドキリとした。 「ありがと」 「ってかそれはアンタにあげたの」 「そうなの?」 「そうでしょ」 その黒い花はどうみても椿さんに似合っていて、 そうして そんな会話をする二人になぜだか自分は 居場所がないような気分になる。 「・・カズ、つぎオレの番なんだけど、オレにもある?」 なぜか二人の邪魔をしているような気分になりつつもカズにきいてみると、 カズは一瞬こちらを見て立ち上がる。 無言でダンボールのある場所に行った。 「藤野にはこれかな」 カズが両手いっぱいに抱えるようにして持ってきた花たちは、 さっき椿さんに手渡した、どこかめずらしい黒い花とは違って、 オレでも名前をよく知る、世間的にも有名な黄色い花だった。 「出来るだけたくさん持っていって」 「出来るだけたくさん?」 「うん」 カズからその抱えた花たちを受けとりながら、 どうして 椿さんは一輪でよくて 自分はたくさんお花を抱えなければならないのか、 その理由を知りたくなる。 「なんで・・」 言いかけたオレに知らんぷりで、 カズはスタッフさんにもその花を持たせて 周りに飾るように伝えていた。 ーーーお願いしま~すーーー オレはどこかモヤモヤを抱えつつ、 それでも言われた通り、その花を出来るだけたくさん抱えて カメラの前に立つ。 それは大好きな花だ。 それなのに・・・ どうしてだかその花を抱えて カメラの前でオレはどうしても・・・ 笑うことが出来ない。 こんなことははじめてで、 心ん中でいったい、自分はどうしちゃったのだろうと焦っていた・・・ ーーー・・・ 「夏向(かなた)ちゃん、大丈夫?」 「っ・・うん・・・へーきです」 花を抱えて笑えない自分はそのまま、 どうしたらいいかわからないままで撮影は終わってしまって、 なんだかぼーっとする。 見ればカズは段ボールを片付けていて、 「・・っ待ってカズ」 帰ろうとしているカズを花を抱えたままで慌てて呼び止めた。 「なに?」 「あ・・・っと・・・あ、昼飯一緒に行かない?」 「いや、これから尊流さんトコ行かないとだから」 「え・・あ・・・そっか・・・っ、じゃあ一緒に行く」 「え?」 「すぐに着替えるからちょっと待ってて!」 「あちょっ・・」 なんだかグルグルする。 頭ん中に得体の知れないモヤモヤがあって、 オレはどうしてもカズと話したいと思った。 抱えてた花をカズに押し付けると、 椿さんに挨拶もしないで慌てて着替えに飛んで行った。 ーーー・・・ 「尊流さんに行くって言ってあんの?」 「ん。メッセしてある」 カズが運転する車の中で、 どこか会話がぎこちなく感じるのは自分だけだろうか。 今日は午後からお店を空けることを知っていたので、 朝、バイトが終わったらお店に行くとめずらしく、 ももちゃんにはメッセージをしていた。 携帯を取り出せば、そこには 【12時には店にいる】 ももちゃんからのメッセージが返って来ている。 それはなんてことないいつもの文面だ。 その短い文章を、頭ん中で勝手にももちゃんの声にして読んでみる。 拒否られたわけでもなく、 いつものももちゃんらしいそのメッセージに、 どうしてだか冷たさを感じてしまう。 自分はいったい、どうしてしまったというのだろうか。 「藤野?どうかした?」 「あ、ももちゃん12時には店にいるって」 「うん。知ってる」 「・・っそうだよね」 ぎこちなく笑って、なぜだかひとり、気まずい空気を抱える。 「ねぇ・・」 「はい?」 「あのさ・・・」 なにかを聞きたいのに、 いったい、自分は「なにを」聞きたいのかがわからなくて 言葉が上手く出てこない。 「なんすか」 「ん・・・っと・・・あの~・・・撮影どうだった?」 「どうって・・別に」 たいして興味がないって顔で、声で、そう言われて、 なんだか納得がいかない。 「別にって・・なんかないの?感想」 「ん~・・・」 たぶん、 自分が本当に聞きたいことはそんなことじゃないのだけれど、 ほかに言い方が思いつかない。 「あれだけ撮って、実際使うのが数枚ってすごいなってくらい?」 「それだけ?」 「ん~まぁ、あとは・・・」 「なに?」 カズを見る。 それはよく知ってる横顔のはずなのに、 オレはどこか緊張して、カズの言葉を待っている。 「いや、いいや。 俺は写真のことなんてわかんねーから」 落胆した。 その言葉は本当だろうか。 椿さんに花を渡すときもオレに選んだときも、 カズに迷いはなかった。 なにより椿さんが撮られているトキのカズのカオ。 あれはなんだか、 「なにもわからない」なんてカオじゃない気がするのだ。 「藤野」 「え?」 「着いた」 「ぁ・・」 気づけばもう、ももちゃんのお店の前に車が止まっていた。

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