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調べもの

 これは単に星座の本だな。  こっちは小説……。  なかなかいい本がないな。  心の中でぶつぶつ言いながら大きな書棚から本を抜き出してはめくり、抜き出してはめくり、中身を確認していく。  穏やかな小春日和のある日、ノアは久方ぶりに街へ出ていた。  入ったのは本屋。街で一番大きな本屋だ。  本を探そうと思ったのだ。  月についての文献。  それも単に月のことだけではない。狼男の性質との関連に関するものを知りたい。  あのときのコリンは大変不安定でつらそうであったから。  自分がなにか力になってやれるのであれば。  また一冊本を手に取った。  しかしこれもどうやら的外れ。月に関する伝承の本だった。  溜息をついて棚に戻す。  ノアとしては、コリンのためにここまで尽力することになろうとは半年ほど前には想像もできなかった。  あれほどオオカミ少年だと恐れていたのだ。今となってはそんな時期があったことが嘘のようだ。  一夜、眠っていくような。  おまけにノアの肩にもたれて寝ていくような。  そんな近しい関係になってしまった。  そしてそれだけではなくあのときのこと、コリンとの関係が違ったものになった明らかなきっかけ。  『お出掛け』の際のキスを思うとノアの胸の奥はくすぐったくなってしまうのである。  キスをされたことは、まぁ不本意だがある。  暴漢に襲われたときのことだ。  そんなことでファーストキスを奪われてしまったことについては大変腹立たしいのだが、それよりも不快感しかなかったことのほうが問題で。  キスというのは幸せなものであるべきだろう。  ノアはそう思っていた。  そしてその『幸せなキス』。  コリンから不意にされた、あのキス。  あれは確かに『幸せなキス』に近かったと思う。  嫌悪感などなかったし、驚いたものの拒絶する気にもならなかった。  それどころか「ノアが綺麗だったから」と、普段とはまるで違う、大人の男のような顔で言われたら。  意識しても仕方がないだろう。  毎回のように、誰が聞いているわけでもないのに胸の中で言い訳をしてしまうのであった。  本を見ていたはずが、いつのまにか思考は逸れていた。  駄目だ、あまりのんびりしている時間はないんだから。  ノアは自分に言い聞かせて棚にまた手を伸ばした。  別に決まった用事があるわけではない。  が、魔女業としてはなるべく家に居たかった。  不意の客に対応できるように。  ノア一人で魔女業をしている以上、誰かがきて家が留守であったらがっかりするだろう。  優しいノアはそう思うのだった。  留守番のひとでも雇ったらいいのだろうか。  たまにそのようなことを思うが、そう大きな問題でもないので、考えるだけにとどまっている。  それはともかく、ノアは切り口を変えてみようと違う種類の本を置いてある本棚へ移動した。  人種についての本だ。  世界には肌の色が違ったり、使う言語が違ったりと、さまざまな人種がいる。  ノアは外の世界の者、つまり異人種については詳しくなかったが。  なにしろ会ったことがない。知識を得る必要はあまりない。  ノアが見たかったのは、『人種』の中に、ひとならざるものを取り扱っているのではないかと期待したからだ。  自分は『魔女』。  純粋な人間とは少し違う。  魔女というのは職業の名前ではあるが、生まれが関係してくる。魔女としての血筋が。  そしてコリンは『狼男』。  狼男のほうが、より純粋な人間とは離れているのだが、一応ヒト型を取り、基本的に人間に近い生活もしているので、一種の異人種ともいえるだろう。  だからそういうものを扱っている項目の本があれば。  そう踏んだのだ。  何冊か抜き出して、ノアはちょっと目を細めた。  求めていた本に近いような気がする、と思った。  狼男。人魚。吸血鬼。  あまり目にする機会のない、ひとならざるものについての記載がある。  これは一読の価値がありそうだ。  ぱらぱらとめくってノアは判断し、この本を買うことにした。  そのほか、普段よく見る薬学の研究書のコーナーもざっと見て、新しい本を見つけたので購入することにする。  基本的に古来から伝わるレシピで魔女の薬は作られているのだが、常に新しい知識を取り入れることも必要。  人間も時代が進むにつれて少しずつ変わっていくし、求められる薬も変わっていくだろう。  二冊を購入し、本屋を出る。  そのあと雑貨屋や服屋などを何軒か回って帰路についた。  良さそうなものがあって良かった。  今夜読もう。  夜は読書に充てるつもりだったが、その夜も来客があった。

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