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月と愛が満ちる夜(R18)

 くちびるは熱かった。  昨日触れて感じたようにコリンの体自体が熱を持っているようなのだ。  狼男として興奮しているようだ。  狼男そのままでいい、とノアが言ったことで安心したようで、コリンの動きにはもう迷いがなかった。  くちびるを触れさせている間、ノアは目を閉じていた。  元々キスをするときは目を閉じるものだと思ってはいたのだが、ここまで経験してきたものはそんなことを考える余裕はなかったので、目を閉じてきちんとキスをするのは初めてだった。  そして、キスをするのがこんなに心地良いと感じるのも初めてだった。  はぁ、と口元をくすぐるコリンの吐息にぞくりと背中が震えた。  もう一度くちびるを押し付けられて、ん、と小さく声が洩れる。  まるで食べるようなキスを交わしながら、ノアはちらりと薄目を開けて窓を見た。  そこには黄色のひかりが差し込んできている。  満月となって、一ヵ月のうちで一番明るいひかりを放つ月が。  これまではコリンを狂わせるものであったが、今夜は違う。  狼男の本能。  悪いものばかりではない。  それが衝動的であろうとも、正しい相手に向けられればむしろはっきり気持ちを伝える行動になる。 「は……っ、なんか、あまい……」  くちびるをやっと離してコリンは顔を上げる。  そんなことを言われたが思い当たる節はない。飴だの菓子だの甘いものは口にしていないのだから。 「飴なんて食べてないぞ」  そのまま言ったのだが、コリンは首を振る。 「そういう……食べ物の味じゃない。……でも、……美味しい」  言って、もう一度しゃぶりついてくる。  その触れ方も言葉もまるで獲物に対するもので、おかしくはあるのだがちょっと恐れる気持ちも生まれた。  今ここに居るのは子供のオオカミ少年などではなく、確かに大人の狼男なのだと感じさせられて。  一体どうなってしまうのか。  わからないではない。  行為などひとつしかないのだから。  そして知識がないわけでもない。  経験はないが、男同士でこのようなことをする場合、どうするのかということは。  まさか自分が女のように抱かれることになろうとは思わなかったが、嫌悪を覚えなかったのは自分でも不思議だった。暴漢に襲われたときはあれほど嫌悪したというのに。  でも今は違う。  お前が望むなら。  自分でそう言ったように、コリンが自分を食べたいと望んでくれるなら。  どちらだってかまわないと思う。 「はぁ……」  顔を上げてため息をつくコリン。  目は輝いていたがどこかぎらついている。  月に充てられた、興奮衝動。  次はノアの首元に吸い付きだした。先夜と同じように。  おそらくコリンもこういう行為は初めてだろうと思う。そもそも経験があったのならばここまであんなに混乱などしなかったのであろうし。  それでも狼男の本当か、それとも単に男としての本能か。  することを悩んだりする様子はなかった。  首に吸い付き、舐めていく。  ぺろっと舐められて気付いた。舌はざらついている。  ヒトのものより狼に近いのかもしれない。多分牙も鋭いのだろう。  ノアを助けてくれたとき。  暴漢に噛みついたあとは牙を剥き出しにしていた。  でも自分に対してはあんなふうに噛みついたりしない。  ノアには確信があった。噛みついたって甘噛みだろう。  優しく触れてくれる。  興奮していても、大切にしてくれるだろう。 「オレ……ノアが好きだ」  ちゅ、ちゅっと首筋を味わいながらコリンが言った。  ノアは驚いてしまう。  今、言われた『好き』の意味。  以前とは違う意味なのがはっきりわかったから。 「前はわからずに好きって言ってたけど、こういう……衝動? を感じるうちに気が付いた。オレ、ノアを伴侶にしたいんだ。そういう『好き』なんだ」  言われる声は小さかったけれど、確かにノアの耳に届いて、そして胸の奥まで落ちてくる。  その言葉は胸に火をつけた。  体が熱くなる。  興奮にではなく、喜びに。  ただ、ひとつ気になるのは。 「子供は残せないぞ」  言う声は小さくなってしまった。  愛し合うことに抵抗が無くてもそこだけは気が引ける。 「別にいいよ。要らない」  しかしコリンははっきり言った。 「ノアがオレと居てくれたらそれでいいから」  あまりに嬉しすぎる言葉。またじわりと胸が熱くなってしまう。  コリンは首筋から顔を離してノアのシャツに手をかけた。  意外なまでに落ち着いた手つきでぷちぷちと外していく。  流石に羞恥が生まれた。ひとにこういう意味で肌を晒すのは初めてであるゆえに。 「白いね。それにやわらかい」  月の光が差し込んでいるとはいえ暗いのだが、夜目がきくのだ。色までわかるらしい。  コリンはノアの裸にした上半身をしげしげと見て、感嘆したように手で触れた。  手で撫でていたがすぐにそこへ顔が下りた。  胸を舌が這う。首筋を舐められていたときより、強い震えがノアを襲った。  思わず手を伸ばしてコリンの背中に回していた。コリンの上着が手に触れる。  ノアがそうしたことで自分の服に気付いたのだろう。  コリンは、あ、と小さく言った。一旦顔を離す。  そしてノアのあげたオレンジ色の上着の前に手をかけた。ひとつのボタンで留まっているそれを外して脱ぎ、ソファの背もたれに放る。  上着はきちんと、ぽすっと背もたれに着地した。  それを脱げばシャツだけ。  ノアはより、しっかりと背中に掴まれるようになる。  平らな胸を舐められていたが、ぺろりと胸の先を舐められたとき、流石に声が飛び出した。 「ふ……っ」  ぞくぞくと体が震える。  自分がこんなところでこんな感覚を得るなんて思わなかった、とノアは思う。  女性であれば触れられて感じるのだろうが、自分は男だ。  とはいえ、同じヒトなのだからそう変わらないのだろうか、と思わされるような感覚だった。  初めて触れられるのだから、当たり前のようにはっきり気持ち良くはない。  が、これは確かに快感の入り口。  コリンは仔狼が母の乳に吸い付くように、ちゅうちゅうと桃色の芽を舐めていく。  吸われたり、舐められたり、押しつぶされたり。  思いつく限りの刺激を与えているようだ。  やはりはっきり気持ち良くはなかったが、舌が動くたびに小さく声は出てしまう。シャツは『なんとか身に巻きついている』という状態にまで剥かれてしまった。  胸を舐められるうちに、ノアは違うことにぞくりとする。  腿のあたり。  硬い感触が押し付けられた。  ぐりぐりとこすりつけられる。  ここから、しかも暗い中では見えないが、コリンが自身の雄を擦り付けているのはわかった。  そこから行為のこの先を連想させてしまって流石にノアの顔が熱くなる。  コリンのそれははっきり張り詰めていたのだから。  初めてだから、というのもあるだろうが、満月によって興奮が高められているのもあるのだろう。これほど早く反応してしまっているのは。  もどかしげにノアの腿に何度もこすりつけられるので、ちょっと可哀想になった。 「コリン」  声をかけると顔があげられた。ノアは手を伸ばした。  少しためらったものの、コリンの下肢に触れる。擦りつけられていたものが手に当たった。 「う……っ、や、ノア」  張り詰めていたところを触れられてコリンが小さく呻いた。 「つらいだろう。……触っていいか」  まだ入り口なのにこんなになってしまっていては。  思いついたのは先に触ってやることだった。  ノアはコリンと違って過度に興奮を煽られることはないので先に触ってやってもいいだろう、などと思って。 「さ、触るって」  起き上がって、逆にコリンを座らせて脚の間にうずくまる。  ズボンは紐で留められているようだ。  ほどいて前を開けた。  張り詰めたものがノアの視界に晒される。  月明かりだけではノアにはうっすらとしか見えないのだが。 「う、……なんか、恥ずかしいよ……」  ノアが見ているのは鮮明に見えるのだろう。コリンの声は濁った。  きっと顔も赤いのだろうと思う。  他人のこういうところは初めて見るのでノアのほうもどきどきしてしまう。  しかしためらっていても仕方がないので、はっきりと反応したものをやわく掴んで擦っていった。  男の身だ、自分のものを扱いたことは何度もある。  むしろ定期的におこなっているのだから。  それと同じにすればいい。  擦って扱いて、撫でてやるとコリンの甘い声が零れた。 「ふぁ……っ、は、ぁ……、の、あ……っ」  ノアの髪が掴まれる。力を入れないように耐えているのがわかった。  こういうときは口でしたらいいのだろうか。  ふと頭によぎったが流石にそれは抵抗があった。  初めてなのだしとりあえず手だけでということにして、ノアはコリンのものを刺激していく。  コリンが押し上げられるのはすぐだった。  興奮しているうえに慣れていないのだ。当たり前だろう。 「あ、ノア……っ、はな、し……」  達しそうだと髪を軽く引っ張られたが、ここで離しては意味がない。  ノアはむしろ手を速めた。 「いいぞ。このまま」 「え、あ……、だ、め……っんん!」  びくびくっとそれが跳ねて、液体を吐き出す。  同時に快感の声が上から降ってきた。  ちゃんと達してくれたことにほっとする。 「はー……っ」  息がつかれて、それは満足した、という気持ちが全開だったのでなんだかかわいらしかった。 「ん……次は、ノア……」  目を開けて、見下ろして見つめられる。  一度達したからか余計にコリンの目はとろんとして見えた。 「ん」  受け入れる返事をしてもう一度コリンに覆いかぶさられる。ベルトに手をかけられた。  しかしはずし方がわからないようだ。  コリンは普段からベルトをしていないようなので当たり前かもしれない。  引っ張って、どうしたものか、というようにもどかしげな様子。  羞恥心はあったがノアは身を起こして自分で手をかけてほどいていく。ホ ックまで外すとコリンがほっとした、という顔をした。  中に手を突っ込む。コリンに施された愛撫と、コリンのものを握って刺激したことでノアも煽られてすっかり反応してしまっていた。  コリンの手がそれを掴む。しゅるしゅると扱かれた。 「はぁっ、あっ、……ん、ん……あ……っ」  コリンの手つきも上手かった。  抜くことは知っていたらしい。そういう手つきだ。 「かわいい」  おまけにそんなことすらいい、顔を近付けてきた。  もう一度くちづけられる。  コリンのくちびるに塞がれてしまっては満足に喘げない。  ノアの息は苦しくなっていく。 「ん……っ、は……、ちょ、はな、し……」  くちびるが離れたときに肩を押したがコリンはびくともしない。  それどころか愛撫の手は更に激しくなっていって、ひとからされたことのないノアもあっというまに押し上げられてしまう。 「う、んん……っ、あ、あぁーっ!!」  ぶるるっと体が震えて達したのがわかった。  ぱたたっと液体が腹に落ちてくる。  一瞬の快感を味わって荒くなった息を吐いた。 「かわいいね」  もう一度繰り返して、コリンはノアの首筋にもう一度吸い付いてくる。  ちりっとした痛みが跳ねた。噛みつかれたのではなく、吸いあげられたことで。  キスマークとやらがついたかもしれない、と思う。  コリンがそんなものを知っていてそうしたのかなどわからないが、本能的なものかもしれない。好きな相手に所有印をつけたいという。 「えっと……こっち、いい?」  そろっと手が動いてうしろを探られた。  コリンの目はお伺いを立てるようで、その通りのことを言う。 「ああ……その、したことがないから……ゆっくりしてくれ……」  ノアの言葉にコリンがごくっと唾を飲んだ。 「う、うん。優しくするから……」  言って、つぷっと指が沈められる。  きっと痛いのだろうと思って硬くなってしまっていたが、意外にも入れられた指はあまり痛いと思わなかった。ただ違和感だけがある。  おそるおそる、といった具合でナカで指が動いていく。  気持ち良くはない。  むしろ気持ち悪い。痛くはないが、違和感は強かった。 「う、ぁ……っ、は……ぅ、ん……」  先程と同じようにコリンの背中に手を回してシャツの背中を握る。 「い、痛い?」  コリンがその様子から不安げにノアをうかがった。 「い、痛くは、ない……ヘンな、感じで……」 「そ、そっか……」  お互い手探りだ、とノアは思う。  が、それも良いではないか。  ひとつずつ進んでいきたい。  こういうことも、二人で居ることも。  そのうちに指が二本に増やされた。  今度ははっきりとした痛みが跳ねる。  普段しっかり閉じているところだ。こじ開けられる痛みが生まれる。 「う……、ん、く……っ」  ノアの声に痛みが混ざったのを知ったのだろう。  コリンが再び心配そうに様子をうかがってくる。 「痛い?」  同じことを聞かれたが、ノアは首を振った。痛いのは確かだけれど。 「だいじょう、ぶ……、だからっ」  痛みよりも、先に進みたかった。  たとえ多少身が傷つこうとも、コリンが望んでくれるなら最後まで進みたい。 「無理、しないでね」  言って、ゆっくりとかき混ぜられる。  これも本能的に知っているということなのか、気遣う様子はあったもののためらう様子はなかった。  ナカを探るだけではなく広げるように刺激される。  やはり鈍い痛みはあって、ノアは息をつきながらシャツを掴んだ手に力を込めた。  どのくらい慣らしてくれていたのか。  ごくんとコリンが唾を飲むのが聞こえる。きっとその下肢は再び反応してしまっているだろう。  待たせたくない。  思って、ノアはコリンを促した。 「もういい、から……っ」  言われたコリンのほうがためらう様子を見せる。まだほぐれきっていないのは指からわかるのだろう。  でもノアのほうももうもどかしかった。  これ以上待てない。 「いいから……はや、く……っ」  ごくんともう一度コリンが喉を鳴らす。  興奮と衝動。  ノアの言葉は大変魅力的なはず。  そのとおりに、ごそ、と動いてノアの脚を持ち上げた。  下肢が剥き出しにされる。心許なさと羞恥を強く感じつつも、確かに望む気持ちをノアは感じた。  コリンがそこへ割り込んで、自分のものを押し付ける。 「痛かったら、言って」  それだけ言って、ぐんっとそれが突き入れられた。  『痛かったら』どころではなかった。  まるで鉄の棒でも突っ込まれたような衝撃。  それほど男のものは凶暴だった。 「うぁ……っ、は、……ん、ぐ……っ」  しかしノアは「痛い」と言うのを、逃げたい気持ちを必死に押し殺す。  痛いと言えばやめられてしまうだろう。  それは嫌だ。  痛覚よりも確かに感じるもの。確かにあるのだから。 「ノア……っ」  じりじりと埋められていたものが、一気に奥まで沈められる。  衝撃に、流石に息が止まった。  は、はっと短い息しかつけない。  そんなノアを覗き込んで、コリンはくちづけてきた。  ノアの意識がそちらへ向かう。  不思議なことだが痛みが和らぐ気がした。  もちろんなくなるわけはない。  が、衝撃は少しずつ引いていく。  代わりに感じた。  自分の身をいっぱいに満たしている存在を。  コリンが顔を離したとき。  見えた顔をノアはまっすぐに見つめて、言う。 「お前のことが好きだ」  コリンが目を丸くするのが見えた。 「……ノア」  声は感嘆するようだった。  しかしすぐにコリンの顔が、ふっとゆるむ。  目はまだぎらついていたけれど、確かに喜びが満ちた。 「嬉しい」  それだけ言って、もう一度くちびるに触れられる。  今度はノアも感じた。  甘い。  飴などとはまったく違う、甘さ。  なんの味かはわからないが心地良くて、自分からもくちびるを押しつけてしまう。  そのうちコリンが動きはじめてまた痛みが生まれたが、先程よりはずっと苦痛は少なかった。 「はぁっ、はぁ……う、く、ぅ……っあ、」  声はまだ痛みが滲んでいたけれど、じりじりと身の奥からなにか違う感覚を感じる。  コリンのものが奥を抉るたびに、それは強くなっていく気がした。 「ノア、のあ……っ、は、きもち、い……っ」  コリンは純粋に快感を感じてくれているようだ。  とろりと蕩けた、満足げな息をつきながら夢中になっている。  はっきり快感はなかったが、ノアはむしろコリンのその様子に心満たされた。  自分にこれほど夢中になってくれること。  自分の体で快感を得てくれること。  そのすべてが嬉しくてならない。 「う、ノア……オレ、もう……っ」  どのくらいそうしていたのかもわからない。  時間の感覚すら曖昧だ。  そのうちコリンが呻いた。ナカでコリンのものもびくびくと震えるのを感じる。  それを身で実感できることに喜びを覚えつつノアはそのまま受け入れた。 「ああ……、んっ、この、まま……」 「ん……っは、あ、ぅ……っ」  びくびく、とコリンの身が打ち震える。  どぷっとナカに熱い液体が注がれた。  その刺激にノアの身もふるりと震える。  快感と言えるかも怪しい感覚しか感じられなかったので、自身が達することはできなかったが、コリンが終わりを迎えてくれたことで、身の奥がぞくぞくとした。  心が快感を感じているのだ。 「はっ、は……ぁ……」  コリンの身から少しずつ力が抜けていって、やがてノアの上に突っ伏した。  重いが文句など言うつもりなどない。  むしろノアのほうからぎゅっと抱き着いていた。 「ごめ……オレ、だけ……」  申し訳なさそうに言われたが、そんなことは最初から覚悟していた、というか予想していた。  初めてなのに、うしろだけで達せるはずがないと。 「いい……、オレも気持ち良かった、から……」  ノアの言葉には多分、よくわからない、という顔をされただろう。  そういう空気が伝わってきた。 「お前と繋がれたことが、気持ちいい」  なのでちゃんと言葉にする。今度は届いたらしい。 「……っうん!」  嬉しそうな声が返ってくる。  今ばかりは烈しさを持つ大人の狼男というよりは、無邪気な彼の気質そのままの声だった。  ソファは狭かったがそんなことは気にならなかった。  ただ身を寄せ合っているだけで満たされる。  窓の外。  月はもう沈んでしまいそうだ。  空も白みかけている。  満月はおしまい。  これからは欠けていって、そして真っ暗な夜、新月となる。  でも月の満ち欠けよりも大切なこと。 「満月でなくても、来てくれるか」  ノアがぽつりと言ったことには、当たり前のように即答された。 「うん!」  無邪気すぎる声だったが、すぐにそれは一転した。  ぎゅう、とノアを抱きしめて今度は大人の声で言う。 「もう月も怖くないよ。ノアが傍に居てくれるなら」 「それは嬉しいな」  いつのまにか大切な存在になっていたコリン。  その彼が大人になる日を一緒に迎えられたことを嬉しく思う。  そして、やっと心通じさせることができたことも。  誰かを好きだと思う気持ちが実ったのは初めてだったが、思っていたより何倍も素敵なことだった、とノアは思う。  寄り添う体があたたかいだけではない。  心まで温めてくれる温度と気持ちだ。  あまりにあたたかくてなんだか眠くなってきた。  ここしばらく色々と考え込んだりあわただしくて睡眠不足気味だったことも手伝って。 「ノア」  コリンの手が髪に触れた。優しく梳かれる。  うとうとしている中で、確かに声が届いた。  自分の名前を呼んでくれる声。  きっとこれから、呼ばれるのが一番嬉しい声になるのだろうと思えた。

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