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過ぎていく季節

 それからコリンは、ちょくちょくノアの家に遊びに来るようになった。  恋人関係になったのだ。当たり前だろう。  これまでもことあるごとに訪ねてきていたが、二日にいっぺんは訪ねてくるくらいにその頻度はあがっていた。  ノアのほうもそれが嬉しかった。  想う相手が自分に逢いにきてくれるのだ。嬉しくないはずがない。  そしてコリンの愛情表現はとてもストレートだった。  機会あらばノアに触れてくる。  それは別に性的な行為ではない。  抱きしめたり、くっついてきたり、顔を覗き込んでキスをしてきたり。  ある意味かわいらしい、ともいえるような触れ合いであった。  が、ノアはそれで満足していた。そのようなことだけで充分幸せだ。  コリンはどうやら、『月が大きくなる時期』つまり、発情を誘われる時期以外はそういう欲求は薄いほうであるようだった。  それは何ヵ月か一緒に過ごすうちに、月の満ち欠けを共に過ごすうちにわかってきたことだ。  新月から少しの間は特になにも変わりはない。  が、月のふくらみが満月に近くなってくるうちに、そわそわしだす。  ピークはもちろん満月であるが、その数日前からノアのことを求めるようになるのだ。  初めてのとき、ノアは身体的な快感を得ることはほとんどできなかったが、数ヵ月が経ち、何度もコリンとの行為を続けるうちに体はだんだん変わっていった。  触れられると快感を感じる。直接の性感帯だけではない。  はじめは鈍かった胸も、そしてコリンを受け入れる部分も。徐々に快感を得られるようになっていった。  今ではうしろにコリンのものを受け入れて、いつしか見付けられていた感じる部分を刺激されれば絶頂に至れるようになっている。  自分の体がこんなに敏感に……悪く言えば淫乱になってしまったことについては恥じらいもあるのだが、コリンはノアの体の反応が良くなるたびに喜んでくれるのだ。  それは「オレだけが気持ち良くなっちゃ意味ないから」と言っていた。  優しいのだ。  確かにこういう行為は単に快楽を得るためだけではないとはいえ、二人で快感を得ることも大切なことだから。  月の満ち欠けが何周もするうちに、当たり前のように月日は過ぎていった。  冬を超え、春が近づいてくる。  もうずいぶんあたたかい。  もう少しでコリンと出会ってから一年が経とうとしているだろう。  うららかな初夏の窓から「こんにちはっ」とやってきたコリン。  あのときはただ無邪気なオオカミ少年であったのに、もうその様子はすっかり抜けていた。  あのときから言っていた。  「あと一、二年もすれば立派な大人の狼男になるんだから」と。  まったくそのとおりだった。  いつしか子供らしさはすっかり抜け、体つきもより精悍になった。  背も伸びておそらくノアより少し高くなったのだと思う。  顔つきも少し変わったようだ。  ただ、無邪気さは多少残っていた。  それは元々の性格というか、性質なのだろう。  今夜はノアの寝室で過ごしていた。  満月の近い夜のことだ。  例によってそわそわしだしたコリンだったが、今夜はノアのほうから誘った。  誘った、といっても体が近づいたときに身を寄せて、目を見つめただけだが。そこまで積極的になるのは恥ずかしい。  しかしコリンとてこういうことにはもうすっかり慣れてしまっている。  自身が興奮を誘われる時期であることも手伝ったのだろう。  すぐにノアを抱きしめ、頬に手を触れてくちづけてくれた。  何度もキスをして、それだけで興奮はじわじわと高まっていく。  キスを交わしながらコリンの手がノアの体に伸ばされる。  シャツの裾から手が入ってきて、さわさわと触れられる。  今ではコリンの手が触れるだけで、快感の予感を拾ってぞくりと震えてしまう。  でも彼の手でなければこれほど感じない、と思う。  そのうちコリンは少し屈んでノアを抱き上げた。  いわゆるお姫様だっこであり、こうされるのは少し恥ずかしいのであるが抵抗するのもはばかられる。  よってノアはただコリンの首に腕を回してそのまま受け入れた。  コリンが向かったのはノアのベッド。  もう二人で過ごすのにも馴染んだ場所。  今では行為はもっぱらノアのベッドになっていた。  ソファでは狭いし不便。コリンの体が成長したこともあり。  そしてコリンはそういうことのあったあとは、ノアのベッドで眠っていくのである。  自分のベッドで恋人が一夜、隣で眠ってくれること。  早起きのノアは大概コリンより早く目が覚めるのだが、すやすやと眠る彼を見るたびにあたたかな気持ちを味わうのであった。 「なぁ、ノアは……ずっとここで魔女をし続けるの?」  体を合わせながら、その夜ふとコリンが聞いてきた。  ノアはそれに不思議を覚える。  一体どうしてこんな質問をしてきたのか。 「そのつもりだが……?」  この先のプランなど特に無い。  ずっと魔女業を続けていくつもりだった。  それは魔女として生まれて育てられたので当然のことだと思っていて。 「……そう」 「それがなにか?」  コリンの声がなんだか固かったので、ノアは尋ねた。  どういう意図でこんな質問をされたのか。 「ううん。なんでもないよ」  街のひとたちもノアが居ないと困るものね、とコリンは笑った。  が、それは明らかに『無理をして笑った』という顔であった。  コリンの質問の意味がわからずとも、ノアの心のその質問は引っかかった。  しかしコリンとひとつになり、快楽を与えられてしまえばその思考は簡単に吹っ飛んでしまう。快楽に溺れてしまうことで。  コリンの首に腕を回して喘ぎながら、そのときは快感を享受したのだが。  翌朝目が覚めたとき。  例によってまだ眠っているコリンを見ながら、妙な不安を覚えてしまった。

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