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第4話

僕は息苦しさを感じて目を開けた。 「……ふえ?」 目の前には先ほど椎の木の下で襲われた彼女が僕の鼻を摘まんでいた。 「……ぷっ、あはは変な顔っ!!」 「……」 彼女はまるで何事も無かったかのように、無邪気に笑っていた。 「アンタがこの家に入れたのか。ってことは皆が言ってた先生かぁ」 ……話がよく分からなかった。 襲われたのあとなのに、何故この子はこんなに元気に僕と話しているのかすら分からない状態だった。 「キミ!!襲われたのに大丈夫なのか?」 「そんなの毎日だし、慣れてる」 慣れてる……? それとどういう意味か分からなかったが、そんな場合ではなかったことを僕は思い出した。 「とりあえずキミは風呂に入って身体を洗って、……その、綺麗にしないと!!そんな幼い身で子供が出来たら大変だから」 「え?出来るわけないじゃん。あ、でもオッサンが風呂貸してくれるんならそれはそれで助かるかも!!」 ……僕はオッサンか。 「まぁ、キミからしたらオッサンかもしれないけど、僕はまだ二十六才なんだけどな」 「二十六?三十六の間違いじゃなくて?!」 そこまで僕は老けて見えるだろうか。 確かに僕は不精だから、髭も髪もボサボサだけど。 けれどそれはかなり失礼な言い方で、女の子の使う言葉ではない。 「キミ、女の子なんだからもう少し言葉に気を付けたほうが良い。それでは彼氏が出来ないよ」 「彼氏?いらないよ。抱かせろって寄ってくる男なんか。俺、男だもん」 ……はぁ?! 今何て彼女は言ったのだろうか、僕には理解が出来なかった。 「キミ、今何て言ったんだ?」 「何が?んーと、俺は男だし?」 それではキミを襲ったのは、男?! 「キミは男に襲われたのに……キミも男なのか?」 「そー。余所者には分からないんだ、稚児ってそんな扱いだもん」 稚児……祭事の為の子供、それとも男色の相手の子供。 どちらの意味の稚児だろうか。 僕は凄く不安になった。 前者だったら良いが、後者だったら……この子は気の毒だ。 「風呂、ホントに貸してくれんの?」 「あ、ああ。使っていくといい」 「……オッサンは優しいな」 彼はキョトンとした顔で僕を見ていた。 「僕はオッサンじゃなくて、白石 結生だ」 「ゆーせい?」 「ゆ・う・せ・い、だ」 「ありがとな、ゆうせい」 とても子供っぽい可愛らしい笑顔を見せてくれた。 どうやらこの子はこんな子らしい。 「キミの名前は?」 「ながれに身を任せるの流だよ。よろしくな、ゆうせい」 どうやら僕はこの男の子、流に『流される運命』らしい。

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