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第5話

僕は流に家の衣類は勝手にしてくれて構わないからと言い残して、駐在さんを訪ねた。 「あれ、先生早速困りごとですかい?」 とても愛想の良い駐在さんで何でも話せそうだった。 「困りごとと言うか、事件と言うか……」 なんと言ったら流が傷付かず事が言えるだろうか、取り敢えず名前だけでも出してみるかとそう思い 「実は流という男の子が……椎の木の下で襲われたらしくて」 「流か。もう先生も手ェ出したんですかぃ」 「手を出した……?」 一体どういうことだろうと、僕は黙って聞いていることにした。 「流は村一番の美人で、それに寺の稚児だ。住職が亡くなってからは流は寺に一人、手を出したい男はそりゃ沢山いるさぁ」 やはりどう聞いても『稚児』という意味は両方に一致するようで、僕は流にどう接するべきか更に分からなくなっていた。 「駐在さん、僕は襲われた後の流を助けただけなんです。……流はそんな不憫な子だったんですね」 「先生は、流を助けたんですかい!?」 ……どういう意味だろうか? 「助けたというか、全身が泥だらけだったので風呂と服を貸して家に帰そうとしてるだけです」 すると駐在さんは驚いた顔をして、次の瞬間僕の背中を叩いた。 「いやぁー、先生色男だ!!不精だと聞いていたけど、そこは綺麗だ!!」 うん、まぁ僕は不精だし、否定はしないが。 「先生、流は不憫だが腐ってない。優しくしてやってください」 『稚児』は両方の意味だった。 寺には他の坊主はいないだろうか、こんな不憫な子供は東京にいただろうか。 いやそもそもこの戦争の最中育つことも難しい東京の子供と比べるのは間違いだが。 僕が首を突っ込んでいい問題だったのだろうか。 宜しくされてしまった僕は、これからどう接したら良いだろうか。 そんなことを考えながら、流がいる僕の新しい家に帰った。

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