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第6話
家に戻ってみると流の姿は見えなかった。
……子供はやはり子供だ、いつも自由奔放に飛んできて、出ていくものだ。
いや待て、僕が勝手に家に上げたんだから勝手にされても仕方がないのだ。
僕は溜め息を吐いてから家に上がり窓を開けた。
すると庭の植木が揺れているのに気が付いた。
風も無いのに何故揺れているのだろうと下を覗いたら……男が流を組み敷いていた。
「こらこらこらーっ!!子供相手に何をしているっ」
僕は慌てて男に、そこにあったイーゼルを投げつけた。
すると男は流から少し離れた。
「先生だからっていい気になるなっ、余所者っ!!」
「ゆうせい、危ない止めなっ!!」
その言葉に僕は気が付いた、男の手には鎌が握られているのが見えた。
だがこのままでは流が不憫過ぎてしまう、僕はそこにあった本、画材手当たり次第に男に投げつけた。
やっと完全に離れたと思い、僕は窓から出て流に近付いた。
「大丈夫か、流っ」
「ゆうせい、なにやってんのっ!!俺は慣れてるから大丈夫だって言ったじゃ……」
痛っ!!
少し熱い痛みが首に走ったと思ったら、土の上に鎌と僕の尻尾……一本に結わいた髪がバサリと落ちた。
「余所者なんて出ていけ!!」
「てめぇっ!!ゆーせいに何しやがるっ」
流は裸のまま駆け出そうとしたので、僕は片手で引き留めた。
「流!追いかけないでいい、キミは服を着なさい!!」
すると、流は僕に向かって不思議そうな顔をしていた。
「……ゆうせい、大丈夫なの?」
「大丈夫な訳がないだろう。首は擦っただけだが、髪!!願掛けしてたのに」
次に絵が売れるまでは切らないと願を掛けていた髪が襟足で切れていた。
もう僕の絵は売れないかもしれない、一応は有望視されて国から軍隊に入るのを免れて、こうして絵を描いていられるけど、希望が……。
「ゆうせい、……なんか悪い。ごめん」
「ん、まぁいいか。流が助かったし、僕は役に立てたわけだ」
この暗い世の中だからって前向きに考えないといけない。
お国のために戦っている人や、助け合って生きている人もいる。
「流はもう一回風呂に入るといい。僕は簡単に消毒をして……」
「駄目、ゆうせい駄目だ!!」
「え?」
「どんなに軽い傷だって死ぬ可能性があるってじいちゃんから聞いた!!俺が消毒するから先に風呂に入って」
その『じいちゃん』はきっと亡くなった住職のことだろう。
だがその可能性も無くはない、鎌は色んなものを切っている。
毒のある草だって切っているかもしれない。
「有難う、流。でも僕は汚れてはいないから傷口を洗ってオキシドールで消毒すればいいんだ」
「ゆうせいは、俺からお礼貰いたくない?」
お礼だって?
何かあるのか。
「髭でも剃ってくれるのか?」
「うん、剃ってやる!!……でもさぁ、それだけじゃ俺が気が済まないから。一緒に風呂入って」
何故か僕は汚れてもいないのに、流と風呂に入ることになってしまった……。
意気込む流からは嫌な予感しかしないのだが、気のせいだろうか。
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