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Just the beginning ①
「章良 くんっ!」
大きな声で自分の名前を呼ばれて、はっと目が覚めた。視界の中に見慣れたリビングの天井が飛び込んでくる。乾 章良は、ぼうっとした頭を微かに振りながら体を起こした。
「大丈夫? またうなされてたけど」
ソファの傍から久間尚人 が章良の顔を覗いていた。そこで、ああ、またか、と自覚する。
「またあの夢?」
尚人がキッチンへと向かいながら聞いてきた。
「ん……」
小さくそう答えてリビングテーブルを見ると、ビールが数缶、空になったまま置いてあった。デジタル時計で時刻を確認すると、9:27という文字が見えた。どうやら昨晩酒を呑んでいて、そのままソファで寝落ちしてしまったらしい。
尚人がグラスに水を注いで戻ってきて、はい、と章良に差し出した。
「ありがとう」
そのグラスを有り難く受け取って、一気に飲み干した。ふうっ、と一息吐いたところで、スーツ姿のままの尚人に気づいた。
「尚人、今、帰ってきたとこか?」
「ん? うん。ちょっと長引いてさ、今回」
「そうか……お疲れ」
「うん」
「涼は?」
「まだ帰ってきてないよ。予定どおりだったら、そろそろ帰ってくるんじゃない?」
「そうだな」
「章良くんも昨日遅かったんでしょ?」
「ん……遅いって言っても8時ぐらいだったけどな。クライアントのおっさん、寝るの早いし。俺は外出時のみの警護っていう契約だから」
「契約いつまで?」
「今週いっぱい。そんでまた普通の警護に戻すみたいだけどな」
「まあ、会議終わったらとりあえずは反対派の動きも収まるだろうしね」
「そうだな」
シャワー浴びてくるね。そう言って浴室へと向かう尚人の背中を、完全には覚めていない頭でぼうっと見ながら、先ほどの夢を思い出す。
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