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Just the beginning ②

 章良が中学生になる頃からずっと見続けている夢だった。少年と川へ行って、2人とも溺れてしまう夢。会話や情景はとても鮮明なのに、あの少年の名前や顔はいつももやがかかったみたいに不鮮明だった。なぜ自分が同じ夢を何度も見るのかもわからなかった。  あの夢が実際に起きたことだと知ったのは、高校生になって、たまたま施設で自分の経歴書を目にしたときだった。  章良はまだ物心もつかないような頃、両親を交通事故で失っていた。駆け落ち同然で一緒になった両親には、頼れるような親類は誰もおらず、1人残された章良は児童養護施設へ入れられた。小学生のある時期まで、緑の多い田舎の施設にいたらしいのだが、その頃の記憶が一切抜けていた。自分が覚えている記憶は、小学校高学年から入った次の施設からのものだけだった。  不思議だった。どうして自分には小学校前半以前の記憶がないのだろうか。疑問には思っていたが、誰かに聞く機会もないまま、時間だけが過ぎていった。というより、その疑問を真剣に考えられるほどの余裕が章良にはなかった。  高校に通いながら、バイトをいくつもこなした。施設のルールで、習い事をしたり、携帯などの娯楽品を手に入れたりするには、自分でバイトをして稼いだ金でまかなうことが条件だった。ただ、章良は別に娯楽に使うために懸命に働いていたわけではなかったが。  どうやら自分が人並み外れた身体能力を持っているようだと気づいたのは、中学3年生ぐらいのときだった。大抵のスポーツはほとんど練習しなくても要領さえわかればなんなくこなせた。そうすると様々なスポーツに挑戦したくなった。  自分はどこまで、どのくらい上達できるのだろうか。  色々なスポーツを試す内に、武術に夢中になった。柔道、剣道、空手、合気道、習えるものは全て習った。章良の出費はほとんど武術への投資に使われた。

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