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Just the beginning ④
「ただいまぁー」
がんっ、と勢いよく玄関の扉が開かれる音がして、機嫌の良さそうな声が聞こえてきた。
その音で我に返る。
「おかえり」
「あれ、章良くん、二日酔い? 凄え酷い顔してんじゃん」
スーツケースをガラガラと転がしながらリビングに入ってきた酉井涼 が、章良の顔を見て開口一番そう言った。
「……そういうお前はえらい元気だな」
「え? うん、そうそう。めちゃめちゃ楽しかったわ」
涼は満面の笑みで章良の隣にどすん、と座った。
「ジュリアは元気だったか?」
「……章良くん、ジュリアじゃない、ケイトだって」
「そうだった?」
「ほんと、章良くんって芸能関係疎いよな。章良くんの中で外国人女優って言ったらみんなジュリアじゃん」
「俺、ジュリア・ロ●ーツしか名前覚えてないからな」
涼が呆れた顔で章良を見たタイミングで、浴室から尚人が出てきた。
「あ、涼ちゃん、帰ってきてたんだ。おかえり」
「ただいま」
「どうだった? ケイトの警護」
「めちゃくちゃ楽しかった」
「そうだよねぇ。なんせ、ご指名だったしね」
「尚人もじゃん」
「そうなんだけどさぁ。あー残念だったな。他の仕事入ってなかったら一緒に行ったのに」
「……俺には指名はなかったけどな」
「章良くんはほら、男からのご指名はダントツじゃん」
「そうそう。やらしいおっさんからの多いよな」
「涼……お前、その言い方……」
「事実じゃん。章良くん、ほんと、男にモテるよな」
男って言っても、本当におっさんばっかりだし。若い男前からは滅多に依頼はねぇし。
そう心の中で文句を言う。
章良たちは、世間で言うところの、所謂『ボディーガード(略してBG)』業を担っていた。世界中に名の通った国際エージェントに所属しており、指名されればどこへでも警護にいく。以前は3人とも警察所に勤めていたのだが、数年前にこの仕事へと揃って転職した。
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