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Just the beginning ⑪

 男は、少し離れたところに待機していた章良の存在に気づくと、一瞬驚いた様な顔をして足を止めた。その顔がゆっくりと笑顔に変わっていく。  は?  その不可解な笑顔を章良が疑問に思っていると、その男が突然、前触れもなく突進してきた。身構える隙も与えられなかった。気づくと、章良の体はすっぽりとその男の腕の中に収まっていた。  はあ??  ぎゅうぎゅうと抱き締められて身動きが取れない。 「ちょ……あの……」  空港のスタッフたちの驚きと好奇心の目にさらされながら、章良は何もできずに焦る。 「可愛い……」 「はあ??」  ボソッと呟かれた一言に、章良は耳を疑った。  何言ってんだ??こいつっ。 「ガッちゃん。びっくりさせてるってば」  そう色白男の後ろから声が聞こえてきて、拘束される中、なんとか顔だけ動かして男の後方を確認する。  そこには、ニコニコ顔の小さな男が立っていた。  章良も、168cmの身長と、今でも大学生ぐらいに間違えられる童顔が、地味にコンプレックスだったりするのだが、この男は章良よりもさらに身長が低かった。165cmぐらいだろうか。顔も章良に輪をかけて童顔だ。しかし、きちんとスーツを着て、色白男とは対照的に頭が良さそうな印象だった(でもネクタイだけは派手なピンクの水玉柄で浮いていた)。 「だって、ジュン。やっぱ実物、可愛いし」 「そうかもしんないけど。段階踏まないと、失礼だから」  そう言われると、色白男は渋々章良を解放した。ニコニコ顔のピンクタイの男が章良へと近づいてきた。 「初めまして。有栖純平(ありすじゅんぺい)と申します。助手をしています」  そう丁寧に挨拶してぺこりと頭を下げた。章良もそれに応じて自己紹介をする。 「国際ボディーガード協会から派遣されて参りました、乾と申します」 「存じております。先に乾さんの資料を読ませていただいたので」 「そうですか」 「あ、こちらが、今回、警護をお願いしている、黒崎です。黒埼氷雅(くろさきひょうが)」 「黒崎さんですね。乾です。宜しくお願い致します」  日本名を使ってんだな。と思いながら、黒崎のほうを向いて頭を下げる。すると、黒崎は片方の口角を上げて章良に微笑んだ。 「宜しく、アキちゃん」 「…………」  今度こそ、絶句した。なぜ黒崎が、章良すらも忘れていた、遠い昔の自分の愛称を知っているのか。『アキちゃん』などと自分のことを呼んでいたのは、施設時代の教員や子供たちだけだ。

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