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Just the way it is ④
ピンポーン、と間延びしたインターホンの音が朝の清々しい空気の中に響いた。対応に出ようとしたが、俺出るわ~、と尚人が一足先に玄関へと向かう。
「カーネーションだったよ」
尚人が両腕に大きめの花束を持ってリビングに戻ってきた。はい、と晃良に手渡す。
手元を見ると、可愛らしい赤いカーネーションが綺麗にまとめられていた。晃良と再会してから途切れることなく毎週贈られてくる花束。赤いバラが多かったが、時々違う花が届けられることもあった。黒埼が意図的に代えているのか、花屋さんのアレンジなのか定かではなかったが。
「黒埼くん、これだけは欠かさないよね」
「……そうだな」
先月から全く連絡がなくなったのに。花束だけは変わらず贈られてくる。晃良には黒埼の意図がよく分からなかった。予想されるのは、毎週贈るようにすでに手配がされていて、黒埼が単純にキャンセルし忘れているだけなのではということだった。
それでも、こうして花束が届くと、黒埼とのことを思い出して晃良の気持ちがかき乱されるような感覚がした。
「また届いたの?」
自室からスーツ姿で出てきた涼が晃良の手元を見て話しかけてきた。
「うん」
「それ、カーネーション?」
「みたいだな」
「ふーん」
涼はじっと花束を見ていたが、ふと顔を上げて私服姿の晃良を見た。
「晃良くん、今日は休み?」
「そう。尚人もな」
「2人とも予定ないから一緒に買い物でも行こうかってなってさ」
尚人も会話に入ってきた。
「2人でどっか行くの? 俺、仲間外れじゃん」
「だって、涼ちゃん仕事でしょ?」
「そうだけど、なんか寂しい、俺」
「そしたら、また3人の休みが重なったらどっか行くか」
「マジで?? 晃良くん、約束な!」
「分かった。約束な」
子供みたいに喜ぶ涼を微笑ましく思いながら、花束を生けるためにキッチンへと花瓶を取りにいく。その後、出かける準備をして予定どおり尚人と買い物に出た。
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