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Just the way it is ⑯
ゆっくりと目を開けた。見慣れた寝室の天井が目に入る。まだ頭が重くてぼうっとしていたが、昼間よりは随分楽になっていた。
段々と状況が見えてくる。確か、風邪でふらふらしながらリビングまで辿り着いたところで倒れて気を失ったのだった。でもその後、誰かに運ばれた気がする。そこではっと意識がはっきりとした。左手に違和感がある。
目だけでその方角を確認した。そこに存在を認めて、晃良はゆっくりと口を開いた。
「……やっぱり……来てたのか……」
そう声をかけると、黒埼は晃良の手を握ったまま、軽く微笑んだ。
「アキちゃん、調子どう?」
「……だいぶ楽になった……」
「まあ、ウイルス性の風邪だと思うから、いっぱい休んで、栄養あるもの食べたら良くなるよ」
とりあえず、栄養剤注射しといたから。そう言いながら黒埼が晃良の額へと手で触れた。そのまま首筋に触れ、晃良の口を開けさせて喉をチェックする。その仕草が医者みたいだな、と思い、そういえば黒埼は医師免許あるのだったと思い出した(アメリカのだが)。そこで、注射、という言葉にひっかかる。
「おい。お前が注射したのか? 違法だろ?」
「え? うん、そうだけど。黙ってたら分かんないし」
「注射器どっから調達したんだよ」
「ジュンに頼んだらどっかから持ってきてくれた」
「……どんなルートだよ……」
以前の銃の件といい、注射器だって現在日本では医療関係者(黒埼の医師免許はアメリカのものなので日本での医療行為は認められていない)でもない限り、針付きのものは手に入れることは難しいはずだ。有栖のルートは絶対にまともなルートではないことは確かだろう。
「まあいいじゃん。アキちゃん、意識飛んでたし、病院つれてくより家で安静にしてた方が体力消耗しないしさ」
ほら、飲んで。そう言って、黒埼がサイドテーブルに置いてあった、水分補給用の飲料が入ったボトルを取って差し出した。晃良はもぞもぞと起き上がると、そのボトルを受け取った。キャップを開けて、数口飲む。その様子を黒埼がじっと見ていた。
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