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Out of control ⑨
(彼氏だと勝手に主張する)黒埼の運転で大きな商業施設へと向かった。晃良は買い物にあまり興味がないので、この施設へ来るのは随分と久しぶりだった。平日の昼間だったせいか全く混んでいなかった。入り口近くの駐車スペースに車を停めて、中へと入る。
「どれにする?」
映画館まで来て、案内板を見ながら観る映画を相談する。
「言っとくけど、ホラーは観ないからな」
「アキちゃんは昔から嫌いだったもんね。お化け」
「そうだったのか?」
「うん。あの施設、よく出たからな」
「……マジか……」
その記憶は蘇らなくてもいいな、と密かに思う。
「そしたら、あれにする? アクション系みたいだし」
「そうだな」
「チケット買ってくるから。アキちゃんは待ってて」
「金払うよ」
「デートだから。出させるわけないじゃん」
「いや、でも……」
「いいから。行ってくる」
「うん……じゃあ、ありがとう」
有無を言わせない勢いで断られ、晃良は黒埼の好意に甘えることにした。しかしながら、いつも黒埼に出させてばかりで申し訳なくなる。プレゼントだって一度もしたことないし。
「行こ」
チケットを購入して黒埼が戻ってきた。一緒に入り口まで向かう。黒埼がそのまま2人分のチケットをスタッフに見せて、案内された番号のシアターを目指した。ポップコーンと飲み物も事前に購入した。
「がらっがらだな」
「そうだね。平日の午前だからじゃない?」
シアターへ入ると。もうすぐ上映するというのに、座っている人はまばらだった。というか、真ん中辺りにカップルが1組、隅の前の方に中年の男が1人座っているだけだった。確かかなり大がかりに宣伝していたアクション映画のはずなのに、シアターも小さめだし随分人気がないんだな、と思った。2人で一番後ろの真ん中へと腰かける。
この時。晃良は気づくべきだった。これが、黒埼による策略だったということを。
映画開始10分。
おかしい。
スクリーンいっぱいに広がる、アクション映画の華やかな雰囲気とはかけ離れている不気味な描写が続く中、さっきから恐怖にひきつった顔をして何かから逃げている白人女性を観ながら、晃良は思った。
「おい、黒埼……『きゃあああああっ!!』」
黒埼に本当に観るはずの映画が合っているかどうか確認しようとしたタイミングで、画面からその女の人の叫び声が響き、体がびくりと跳ねた。
なになに??
反射的に黒埼の左腕を掴んでぎゅうっと抱き締める。ちょうど女の人が追いつかれた『何か』に惨殺されるシーンだった。
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