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Ready to fight ⑦

 玄関のチャイムが鳴った。尚人は意を決したかのように立ち上がると、玄関へと向かって行った。しばらくすると、尚人に雰囲気の似た、大柄の男が尚人に続いてリビングに入ってきた。  尚人の父親は、晃良の存在を認めると表情を変えずに口を開いた。 「乾くん、久しぶりだな」 「はい。お久しぶりです」  晃良は立ち上がると深く一礼した。そんな晃良に目もくれず、尚人の父親はさっさと晃良の向かいにあるリビングのソファへと腰を下ろした。  晃良は心の中で苦笑いをする。随分と嫌われたものだなと思う。まあ、息子を民間ボディーガードなんていうわけの分からない職業に誘って、キャリアどころか警察官としての道から外れるのに一役買ったと思われているのだから仕方がないか。そう思いながらソファに再び腰を下ろした。  尚人は、そんな父親の態度に不快感を露わにしながら晃良の隣へと腰かけた。いつもなら客には必ずお茶を用意するような気遣いを見せるのだが、どうやら父親にはそうする気はないようだ。 「どうなんだ、乾くん。警備員の仕事は順調なのか」  尚人の父親は尚人ではなく晃良に向かって尋ねてきた。 「はい。有り難いことに今のところ生活に困らない程度には上手くいっています」 「そうか。まあ、上手くいっていると言っても、たかが知れてるとは思うがな」 「そうですね……。警察官のような華々しさはないかもしれないですね」 「君も、警察に残っていたら今頃かなりの出世が期待できたかもしれんのにな。こんなよく分からない民間警備だかなんだかに転職してしまうとはな。君には期待していただけに残念だ」 「僕はキャリアでもありませんし、期待だなんて僕にはもったいないお言葉です」 「……君はもっと賢いと思ってたがな」 「晃良くんにそういう態度するんだったら、帰ってくれる?」  尚人が我慢ならないという様子で口を挟んできた。 「大体、民間に移ろうと思ったのは、俺の意志なんだから。晃良くんに俺がくっついて行っただけで晃良くんには何の非もないのに、そんな晃良くんを責めるようなこと言うこと自体お門違いだろ」  そう強めに尚人が言うと、父親は尚人を一瞥した。相変わらず全く表情を変えなかった。 「尚人。いいから」 「だけど」  晃良が尚人を(なだ)めていると、その様子をじっと見ていた尚人の父親が再び口を開いた。

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