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Ready to fight ⑧
「まあ、そんなことはどうでもいい。要件に入る」
「さっさと入って、さっさと帰って欲しいんだけど」
尚人が父親を睨み付けて言い放った。そんな言葉も無視をして、父親は話を続けた。
「婆さんが死んだ。先週のことだ」
その一言に、尚人が息を呑んだのが分かった。数秒の沈黙の後、尚人が小さく呟くように聞いた。
「……なんで?」
「1年くらい前から体調悪かった。体が思うように動かなくなって、最後は風邪こじらせて肺炎だ」
「……母さんは?」
「……婆さんが調子悪くなってから完全看護の病院に移った。症状は相変わらずだ」
「…………」
視線を床に落としてじっとしている尚人の肩に、晃良は手を伸ばしてそっと触れた。
「尚人……」
「……婆さんは特別お前を可愛いがっていたから。一応報告しとこうかと思ってな」
「……あんたは平気なわけ?」
「何がだ」
「自分の母親が死んで、なんでそんな淡々としてんだよ」
きっと睨み付けるように尚人が父親を見た。
「婆さんも歳だったからな。こうなるのも別に不思議じゃないだろ」
「あんたは少しでも婆ちゃんが倒れた時に労ったのか? 母さんの時と同じように我関せずでお金使って人に任せて、自分は仕事だって言って接待ゴルフでもしてたんだろ??」
「……随分な言われようだな」
「図星だろ」
「お前の母親や婆さんに使った金を稼いでいるのは俺だ。文句を言われる筋合いはない」
ふっと馬鹿にしたように笑った尚人の父親に、晃良の中でも苦々しいものが広がっていくのが分かった。その感情を出さないように拳を握ってぐっと耐える。
しばらく沈黙が続いた。が、やがて尚人が静かに口を開いた。
「……俺はあんたが嫌いだった」
「…………」
尚人の父親は何も言わずに尚人を見た。
「こんな最低な人間は他にいないだろって憎んでた」
「尚人……」
尚人が真っ直ぐに父親を見返して、話を続けた。
「だけど。その反面、どこかであんたには敵わないって思いもあった」
「…………」
「父親としては最低だったけど。あんたの引率力や判断力。そういうのは凄いなと思ってた。俺の中でそれはコンプレックスみたいになって。あんたに対する憎しみと一緒に嫉妬も生まれた」
でも。そう言って尚人がふっと笑った。
「気づいた。俺は最初から敵わないって諦めてた。努力することも止めて、同じ土俵に立つこともしなかった。それは違うなって」
「…………」
「チャレンジしてないと分かんないじゃん。何でも。勝てないって思ってた相手にも勝てるチャンスがあるかもしれない。最初から諦めてたらそのチャンスさえ逃してしまう」
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