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Ready to fight ⑨
尚人が笑顔で晃良を見た。
「それは晃良くんや、涼ちゃんが教えてくれたんだよ」
「え?」
突然自分の名前が出てきて晃良は驚いて尚人を見返した。
「晃良くんも、涼ちゃんもやり方は違うにしてもいつも真っ直ぐじゃん。可能性が少しでもあったら、とにかくやってみるし。俺は冷めてるとこあるから、そういう熱があんまりなかったけど、それじゃあダメだよなって」
「尚人……」
尚人が再び父親を見た。
「俺はどんな形にせよ、いつかあんたを越える」
勝ってやる。
尚人の心の声が聞こえた気がした。その声が晃良の胸の奥をぐっと揺り動かした気がした。
自分は。何か大事なことを忘れていなかったか? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
「……そうか。それは楽しみだな」
半分馬鹿にしたような態度で尚人の父親が返した。最初から無理だと思っている態度だった。
「ああ、忘れてた。婆さんの遺言状が見つかってな。残った財産、まあ雀の涙程度だが全てお前に譲りたいそうだけどどうする?」
「……放棄する。弟たちに分けてやって欲しい」
「そう言うと思ったがな」
要件はそれだけだ、と言いながらソファから腰を上げて、さっさと玄関へ向かう父親の背中を尚人と2人で見送った。尚人は、父親を迎えた時とは違う、スッキリした表情をしていた。
そんな尚人を晃良は誇らしげな気分で見ていた。
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