151 / 239

Ready to fight ⑨

 尚人が笑顔で晃良を見た。 「それは晃良くんや、涼ちゃんが教えてくれたんだよ」 「え?」  突然自分の名前が出てきて晃良は驚いて尚人を見返した。 「晃良くんも、涼ちゃんもやり方は違うにしてもいつも真っ直ぐじゃん。可能性が少しでもあったら、とにかくやってみるし。俺は冷めてるとこあるから、そういう熱があんまりなかったけど、それじゃあダメだよなって」 「尚人……」  尚人が再び父親を見た。 「俺はどんな形にせよ、いつかあんたを越える」  勝ってやる。  尚人の心の声が聞こえた気がした。その声が晃良の胸の奥をぐっと揺り動かした気がした。  自分は。何か大事なことを忘れていなかったか? そんな疑問が頭の中を駆け巡る。 「……そうか。それは楽しみだな」  半分馬鹿にしたような態度で尚人の父親が返した。最初から無理だと思っている態度だった。 「ああ、忘れてた。婆さんの遺言状が見つかってな。残った財産、まあ雀の涙程度だが全てお前に譲りたいそうだけどどうする?」 「……放棄する。弟たちに分けてやって欲しい」 「そう言うと思ったがな」  要件はそれだけだ、と言いながらソファから腰を上げて、さっさと玄関へ向かう父親の背中を尚人と2人で見送った。尚人は、父親を迎えた時とは違う、スッキリした表情をしていた。  そんな尚人を晃良は誇らしげな気分で見ていた。

ともだちにシェアしよう!