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Ready to fight ⑩

 ちょっとジョギングしてくるな、と尚人に言い残して、昼過ぎにマンションを出た。エントランス前で軽くストレッチをして、さて、今日はどこへ走ろうかと考えていると。  ん?  エントランスに近付いてくる人影に気づいた。50代ぐらいに見える中年の男がマンションを伺うようにして見上げていた。  職業柄、どうしても怪しい人物などに注意がいきがちだったが、この男も随分と怪しい感じだった。着古した上着に、汚れが目立つスラックス。鞄もなにも持たずに両手をスラックスのポケットに突っ込んでただじっとマンションを見ていた。晃良が警戒するようにじっと男を見ていると、男がその視線に気づいてこちらを見た。すると、急に愛想の良い顔をして晃良へと近付いてきた。 「お兄さん、あんた、ここに住んでる人?」 「……そうですけど……」 「おおっ、そうか。丁度良かったわ」  そう言って、男が嬉しそうに笑った。その男の面影はなんとなく見覚えがある気がした。どこかで会っただろうかと思い出そうとしてみるが、はっきりとしなかった。 「ここに何か用ですか?」 「ああ、人捜ししてんだけど、お兄さん知らねえ? 酉井 涼っていう奴。このマンションに住んでるらしいんだけどよ」 「……涼?」 「え?? あんた、涼と知り合い??」 「……同居人ですけど」 「そうかぁ。涼の知り合いかぁ。で、涼、いる?」 「いや、今、いませんけど」 「そうなの? それは残念だなぁ。あ! それなら、お兄さん、代わりにお兄さんでいいから」 「代わり?」 「金貸してくれない?」 「は?」 「いや、大金じゃなくていいから。今、手持ちの金だけでも貸してくれねえかなと思って」 「……いやいや、なんでそうなんだよ。大体あんた、涼のなんなの?」 「俺? そういや、まだ言ってなかったなぁ。俺、涼の父親」 「……父親……?」  晃良は目の前の、相変わらず愛想笑いを浮かべている男をじっと見た。なるほど。見覚えがあると思ったのは、どこか涼の面影があったからだ。

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