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No matter what ⑫

 食事が運ばれてきて、話に花が咲く。しばらくして明日の仕事の話題が上がり、仲間の1人がそういえば、と晃良を見た。 「明日のクライアント、アキラに少し似てるな」 「そうなの?」 「ああ、似てる似てる。目がくりっとしてるとことか。雰囲気も」  もう1人も同意する。 「俺、まだ見たことない」 「え?? ないのか?? 結構、人気のある俳優だけどな」 「日系なんだろ? 日本人の血が入ってるから俺と似てるんじゃないの?」 「そうかもな。アキラよりは若いけどさ。ハンサムというよりは可愛い感じがウリらしいぜ」 「だけど、性格最悪なんだろ?」 「まあな。俺らは何回かあいつに付いたことあるけど、俺たちに対しては可愛くはないよな。BGはいつもあいつ好みのやつばっか付けるわけにもいかないし」 「顔のいい男と、力のあるおっさんにしか愛想よくないからな」 「なんか……会うの嫌なんだけど」 「まあ、一晩だけだしな。これも仕事だし」  頑張ろうぜ、と肩を叩かれた。きっとネットで検索すれば顔写真なんてすぐ手に入っただろうが、急な依頼でバタバタしていたため、確認せずに来てしまった(興味もないし)。そこで当初の疑問を1つ思い出した。 「なあ、今回なんで俺、急遽(きゅうきょ)急遽呼ばれたわけ?」 「ああ、いつも付いてるほら、ポール、覚えてるか? あいつがクビになったんだ」 「酷い理由だぜ。打ち合わせん時、うっかりクライアントの足を踏んじまって、それでクビ」 「は? それだけで??」 「運悪いことに、その靴、クライアントの今一番お気に入りの靴だったんだってさ」 「なにそれ……」 「でも、なんでアキラを指名したかはよく分からないんだ。こっちでも代わりのやつはいたのにな。アジア人がいいって言い出して、写真見せた中からアキラを選んだみたいだけど」 「でも、選ぶならリョウとかナオトの方かなと思ったんだけどさ。あのクライアントの好みからすると」 「そうなのか?」 「ん……大抵、白人かアジア人。綺麗な顔したやつが好きだからな。あ、アキラもハンサムだけどな。ちょっとタイプが違うっていうか……」 「いいっていいって。フォローしてくれなくても、分かってるから」 「いや、アキラはモテると思うぜ。まあ、男からが多いけど」 「さっきのアキラの彼氏もアキラにベタ惚れっぽいし」 「いや、まだそういう関係じゃないんだけど……」 「そうなのか?」 「ん……まあ、ちょっと色々複雑な事情があって」 結局、その複雑な事情は説明すると果てしなく長くなりそうだったので、適当に誤魔化した。 その評判の悪いクライアントは一体どんなやつだろう?と思うが、きっと出会った時の我儘いっぱいだった黒崎よりはマシだろうととりあえず仕事のことは考えるのは止め、目の前の食べ切れそうもないボリュームのバーガーに(かじ)り付いた。

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