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No matter what ⑭
うわぁ。めちゃくちゃ嫌なやつっぽいじゃん。
クリス・イノウエの第一印象は、周りに聞く通りだった。豪華なスイートルームの高級そうなソファにどかっと座りながら、アジア系の血が混ざった、整ってはいるがどこか愛らしい感じのルックスを不機嫌に歪 ませて、なぜか晃良をじっと睨むように見る男を真正面から眺める。
確かに、晃良と同じ系統の顔かもしれない。目は自分でも似ているような気がした。ただ、自分は生粋の日本人だし、向こうは先祖が日本人かもしれないが、西洋系の血も混ざっているので白人特有の目鼻立ちも少しは見られた。
「ミスター・イノウエ。交代の時間ですので、ここからは新しいチームが護衛致します」
前任のBGに紹介されて、1人1人挨拶を済ませる。晃良も最後に挨拶をした。
「国際ボディーガード協会から派遣されました、乾と申します」
他のBGが挨拶しても完全に無視した状態で、晃良の挨拶が終わってもそれは変わらず、ただ晃良をじっと睨んでいた。
なんだよ、こいつ。
あまりの挑戦的な視線に、俺の顔が好みだからとか絶対違うだろ、と自分が選ばれた理由に尚人が上げていた予想を早々と消去する。他のBGたちも内心苦笑いしているのを感じた。
クリスはしばらく晃良を舐め回すように見ると、ふいっと顔を背けた。そして、近くにいた男前のスタッフの1人に笑いかける。媚 びたような笑顔。
「ねえ。喉渇いた。なんかない?」
「パーティー前なので、何か軽いお飲み物でも用意します」
そう言って、男前スタッフはきびきびと部屋に設けられているバーから高級そうな炭酸水を取り出してグラスに入れ、運んできた。すると、顔をしかめてスタッフへと文句を言い出した。
「それ、嫌いなんだけど」
「申し訳ありません。昨晩はお気に入りの様子でしたので……」
「今それの気分じゃない」
「かしこまりました。別のものをお持ちいたします」
そう言うと、男性スタップは急いでバーへ戻り、今度は甘ったるそうなレモネードをグラスに注ぎ持ってきた。それを、お礼も言わずに受け取るとごくごくと子供のように飲み出す。この時点で、晃良のこいつ非常識で嫌いだわ~フラグが立つ。下手をすると黒崎よりもお説教が必要なタイプかもしれない。
その後もクリスがいちいち色んなことにケチを付けながらパーティーの支度が完了し、ようやく出発の時間となった。
やっと出られるな。
クリスの我儘振りを目の前で見て耐えていた晃良は、心の中ではあっと溜息を吐く。自分たちの仕事は護衛だけなので、クリスの世話までしなくて済むが。周りのスタッフ(特に何人かいる男前ではない)たちの酷い扱われようには同情せざるを得なかった。
「アキラ、前方確認して」
「了解」
出発前に廊下、エレベーターに先回りして確認しようと部屋を出ようとした時。晃良は、客室の一部にピカピカに磨かれたガラスの仕切りがあることに気が付かなかった。振り向きざま足早に出口へ向かおうとして、思いっきり正面からぶつかった。
「うわっ!」
ばいん、と鈍い音を立ててガラスが震える。
「アキラ、大丈夫か?」
「ほんと、そういうとこ抜けてるな」
クスクスと笑いながら仲間のBGたちが晃良に声をかけてきた。晃良へと集まって怪我がないか確認してくれる。
「……ごめん」
恥ずかしさのあまり、顔を赤くして晃良は謝った。そこにいた、クリスのスタッフたちも笑みを浮かべてこちらを見ている。その時。突き刺すような視線を感じて、そちらに目を向けた。クリスだった。こちらをただじっと見ている。
「…………」
その瞬間。晃良はあることに気が付いた。
「アキラ、確認行って。時間ない」
「ああ、うん」
今気が付いたことはとりあえず保留にし、部屋を出て急いで確認へと走った。
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