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No matter what ⑮
パーティーはかなり大きな規模のものだった。いつもは劇場として使われている建物が貸し切られ、そこのホール全体がパーティー仕様に装飾されていた。
晃良すらも知っているような有名人も何人かいた。しかし、晃良たちはそれに気を取られている暇はない。常に不審者がいないか、邪魔にならぬ程度にクリスが見える範囲に待機して周りに注意を走らせる。
遠目でクリスの様子を眺める。先ほどの不機嫌な顔はどこへやら。可愛い笑顔を全面に押しだし、ベテラン俳優やお偉いさんたちに愛嬌を振りまくっている。触れ合う仕草や表情から見て、その内の何人かとは大人の付き合いがあるのは明らかだった。
晃良には到底理解できない世界だった。しかし、自分たちの仕事はこういった輩の身を守ることで成り立っていることは否めない。平等に警護できればいいが、結局は金や権力を持っている者の方が守られる権利をより持っている。それは晃良がこの仕事で最も不満に思うところの1つであるが、自分の力ではどうすることもできないのも事実だった。
今回は、クリス自身が誰かに狙われているというわけではなく、公に出る際の念のための身辺警護なので少しは気が楽ではあった。こういった人がごったがえしている場所は狙われやすそうに思えるが、それだけ警戒も強いので、可能性からしたらそれほど高くもない。一番狙われやすいのは、会場やホテルに出入りする瞬間だったりする。
「アキラ、休憩10分な」
「ああ、ありがとう」
休憩なしで警護することもよくあるが、会場内は危険が少ないと判断し、仲間内で時々交代しながら警護することになった。
仲間と交代し、休憩に入る。今のうちにとトイレを済ませ、立ちっぱなしの体を休ませるために廊下に設けてあるソファへと腰かけた。自動販売機で買ったミネラルウォーターを一気に飲み干す。腕時計で確認すると、パーティーが終わるまで残り1時間ほどだった。
そこでふと、出発前に気になっていたことを思い出した。携帯電話を取りだして、目的の番号へと電話をかける。
『もしもし? 晃良くん? お疲れ』
「お疲れ。尚人、まだ寝てたか?」
『ううん。もう起きてたよ。今日、集合早いから。どうしたの? 今、仕事中でしょ?』
「休憩中」
『そっか。なんか1日晃良くんがいないだけでもう寂しいよ~』
「はいはい」
『本当だって。涼ちゃんもなんか落ち着かないって言ってるし』
「1週間したら帰るから」
『ほんとに~? そのまま黒崎くんとこにずっといたりして~』
「んなわけないだろ」
『黒崎くんとは連絡取った?』
「うん。なんやかんやで電話がくるし」
『晃良くんと会えるの楽しみなんだね、きっと』
「そうか?」
『そうでしょ。1週間、ずーっと一緒なの、初めてじゃん』
「そう言われればそうだけど……」
『一体何するんだろうね、1週間』
「……なんか、やらしい言い方だな」
『だって、いよいよじゃん』
「何が?」
『え? 晃良くん、心も受け入れたんだから体も受け入れるんでしょ? っていうか今まで体を受け入れてなかったのがびっくりだけど』
「……じゃ、さよなら」
『ちょっと! 晃良くん!! もう言わないからっ。怒らないでっ! なんか用事あってかけてきたんじゃないの?』
「ああ、そうだった。ちょっと調べて欲しいことがあんだけど」
晃良は、そこで本来の要件を尚人に説明した。
『分かったけど……。なんかあるの? 大丈夫なの? 晃良くん』
「ん。まだ、勘の段階だから。裏付け取りたいだけだし」
『すぐ調べる。また連絡するね。電話出なかったらメールするから』
「頼む」
休憩が終わる時間になったので、急いで電話を切った。立ち上がってゴミ箱にペットボトルを捨てると、足早に会場へと戻った。
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