189 / 239
No matter what ㉘
連れてこられたホテルは、クリスが滞在していたホテルに引けを取らない、超高級ホテルだった。その存在感に圧倒されながら、黒崎に引っ張られて中へと入る。
そのままフロントへと行くと、マネージャーのような年配のスタッフがすぐに気が付いて近付いてきた。
「黒崎様。お久しぶりです」
「ごめん。急なんだけど、スイート一部屋用意してもらえる?」
「かしこまりました。すぐに手配致しますので、どうぞ上階の専用ラウンジでお待ち下さいませ。係の者がご案内致します」
「ありがとう」
男が合図すると、ベルボーイらしきスタッフがすぐに近寄ってきた。
「黒崎様を上階ラウンジへご案内して」
「かしこまりました」
こちらへどうぞ、とにこやかな笑顔で促されそれに従う。エレベーターで最上階より数階下の階へと案内される。そこに、どうやらスイートルーム利用者専用のラウンジが設けられているようだった。そこで、チェックインもできる仕組みらしい。
エレベーターで移動する間、日本語で黒崎に話しかける。
「今更だけど……。お前って、どんだけ力あんの? この国で」
「え? 俺、そんなないよ。ここは、親が気に入ってよく利用するホテルだから。いつも結構融通利かせてくれんの」
「そうなんだ」
そうは言っても。今までの黒崎の言動や、大統領までが黒崎の背後に登場する辺り、なにか晃良には想像もできないような力が動いているような気がした。なんせ、国家機密を握っているわけだし。
「こちらでございます」
ベルボーイに扉を開けてもらい、ラウンジへと足を入れた。
「洒落 てんなぁ」
ラウンジには小さなバーがあり、座り心地のよさそうなソファに、テレビやPCなど、ここで何時間でも時間が潰せそうな設備が整っていた。部屋が準備できるのを待つ間、そこで酒や軽食をいただく。晃良も黒崎もビールを頼み、高そうな器に入ったチーズとナッツのセットを摘まんだ。
「黒崎様、お待たせしました」
先ほどとは別のベルボーイが部屋の準備ができたことを伝えにきた。
「いこ、アキちゃん」
再び黒崎に手を取られて、ラウンジを出てベルボーイの後に続いて歩いた。
「こちらでございます」
ベルボーイがカードキーを差し入れ、部屋の扉を開いた。
「もうここでいいから」
黒崎がそう告げてチップを渡すと、ベルボーイがかしこまりました、とカードキーを専用袋に入れて、差し出した。それを黒崎が受け取ると、失礼致します、と深々とお辞儀をして去っていった。
ともだちにシェアしよう!