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This is the moment ⑯

 翌日は、朝から土砂降りの雨が降っていた。昨日までの気持ちの良い5月晴れが嘘のようだった。施設のある都外へ向かう車内には、微かに雨の気配を含んだ湿り気が漂っていた。 「アッキー、この冷凍みかんおいしいよ。一個食べる?」 「食べる」 「ガッちゃんは?」 「要らん」 「……黒崎。いつまで()ねてんだよ。ジュンが可哀想だろ」 「いいよ、アッキー。俺が悪いし。2人のデートの邪魔しちゃったし」 「何言ってんだよ。そんなわけないだろ。俺が誘ったんだし。尚人が今日は仕事だからジュン暇だろうと思って」 「……子供じゃないんだから1人で時間潰せるだろ。お得意の服屋めぐりでもしてたらいいじゃん」 「なんだよ、その言い方は。お前だって子供じゃないんだから、いつまでも膨れるのやめろ」 「なんなの、アキちゃん。さっきからジュンの味方ばっかして。彼氏は俺やろ??」 「彼氏とか関係ないっ!」  黒崎がぐっと黙った。膨れっ面をしたままハンドルを握り続ける。  ったく、もう。  今朝ホテルを出て、施設のある都外へ行く準備をするため一旦自宅に戻った。その際、すでに尚人が仕事に出ていて(涼も)寂しそうに1人留守番をしていた有栖が可哀想に思え、晃良がこの日帰り旅行に誘ったのだ。  有栖は最初遠慮して断ったのだが、晃良が半ば強引に連れてきた。今日は尚人も涼も遅くなるのは知っていたし、せっかく日本にまで来たのに、朝から夜まで放ったらかしなのは晃良がなんとなく嫌だったのだ。ただ、黒崎がこんなに()ねるとは思ってもなかったが。  晃良とこういう仲になって以来、黒崎の中の嫉妬心やら独占欲やらが更に増したようだった。尚人、涼、そして有栖の3人は、どうやら黒崎にとって晃良との限られた(イチャイチャできる)時間を奪う邪魔者と認定されたらしい。そんなわけで、2人の時間に誰かが入ってくることに前よりも拒否反応を見せるようになった。

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