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第65話 僕は先生
僕はひとしきり泳ぎ方を披露すると岸に上がった。
拍手のひとつでもしてくれるかと思いきや、なぜか皆一様に黙りこくって僕を見つめている。
あれ…デジャブだ。どうしようかなと、ちょっと見られすぎで恥ずかしくなった僕に、お父様がサッとローブを着せかけてくれた。
「可愛いリオン、ありがとう。とっても上手に泳げてたね。」
お父様、ここで可愛いとか言っちゃダメなやつでは⁉︎
僕は必死にお父様にサインを送るけれど、デロ甘な空気は増すばかりで…無念。僕もう学院生なのにね…。
それから副団長に気を取り直させられた騎士団長は、次々に騎士たちを水の中に叩き込んだ…。おぅ。
僕は岸から泳ぎ方をアドバイスしたり、実際の動きをやってみせた。
めっちゃ騎士が寄ってくるから、ちょっと学院の小さな池にいる魚の餌付けを思い出しちゃったよ。ククク。
…でも僕がクスクス笑っていると騎士達が動きを止めてこちらを凝視してくるのが、怖かったです。
すかさずお父様が盾になってくれたけどね!
そんなこんなで泳法の演習は終わった。
僕は何度か水に入った事もあり、クッタクタに疲れてしまったよ。
簡易テントで制服に着替えた後、お父様と束の間のお茶を楽しんだ。
実は最近お屋敷にも帰れてないので、なかなかの親不孝なんだ、僕は。
演習が終わってホッとした事もあるけれど、お父様にすっかり甘えて僕は結構ふにゃふにゃになってた気がする。
騎士達の怖い様な熱い視線には全く気づかなかったほどに。
王宮からの猛烈なプッシュで、白騎士団にて団長の御子息であるリオネルン君の泳法演習が決まった。
もちろんリオネルン君を溺愛してる事で有名な団長は大事な御子息を人目に晒す事に抵抗したが、いかんせん王命では逃れようもなかった。
当日は副団長である私も、騎士の皆も見たことがない団長の溺愛ぶりに引いた。アレはヤバイ。見ちゃいけないやつだ。
でもそれも仕方がないと思わせるのはリオネルン君の人並外れたその可愛らしさのせいだろうか。
リオネルン君はただ見目麗しいだけではなくて、中身も可愛らしかった。
自己紹介の時に自分の事を人魚ですと言った事もそうだが、振る舞いや言動に天真爛漫な無邪気さが溢れ出ていた。
私の様な朴念仁であるおじさんでさえ、惹かれてやまないのだから、若い騎士達なんぞはすっかり参ってしまっただろうな。
泳法という事でリオネルン君の裸体がさらけ出される事に団長は随分心配していた。
この国は恋愛対象に男女の区別が特にないので、リオネルン君の泳法着を邪な目で見るかもしれないと。
というか、実際あいつらは顔を赤くして身を縮こませて居たが…、団長に見つかったら殺されるから必死で耐えてたに違いない。
…ともかく団長の逆鱗に触れる様なことが起きることなく無事終わって本当に良かった。
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