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第72話 ある高等生の考察 【高等貴族院編】

リオネルン スペード。スペード家のこの令息の名を知らない貴族は居ないだろう。 私はカフェテリアに現れた彼の姿を見るともなしに目で追いながらコフィを飲んでいた。 そう言えばこのコフィもスペード家の経営するトランプカフェから大流行したんだった。 トランプカフェといえば、そこで提供される流行りものはリオン君が絡んでいるという噂もあるが、本当かどうかは不明だ。 今年貴族高等学院へ進んだひとつ下のリオン君は入学式当日からセンセーショナルだった。 少なくない在校生の見守る中、中心の席へ進む新入生たち。私たちのお目当ては当然というかリオネルン スペード。 リオン君が入り口から登場した時に、少々ザワめいたのはしょうがないだろう。 見慣れた学院の紺色のセーラーを脱ぎ去って、真っ白な騎士服を纏ったリオン君はそこだけスポットを浴びているかの様に煌めいて見えた。 長く後ろでまとめていた髪は肩でばっさり切られていて、キラキラと光を反射するミルクティー色の髪が緩くカールしている。 いつ見ても印象的な深い青い目は子供っぽさが抜けて、涼やかで知的な印象を与える。 惹きつける唇の赤さは相変わらずだが、微笑みを浮かべた瞬間直視できない気がしてしまうのは何故だろう。 学院時代は皆よりひと回り華奢で小柄だった身体は、いつの間にかすんなりと背が伸びていて手足の長さを引き立てている。 リオン君の可愛い、愛らしい、天使のようという形容詞は、この日を境に美しい、艶めかしい、神々しいに変わると思ったが正にその通りだった。 もちろんリオン君を狙っている学生は多いけれど、今も隣でエスコートするユアのせいで中々お近づきになるのは難しい。 ユアはタクシーム侯爵家嫡男で、幼馴染のリオン君と同級生になりたいがために飛び級したというのは有名な話だ。 学院寮でも同室で、2人の纏う空気感は何というかアレだ。目に毒という感じだ。 もっぱらユアがリオン君を溺愛している感じだが、あの人並み以上に大きい身体で、常に厳しい顔をしている近づき難いユアを翻弄しているという噂もある。 学院時代の人魚伝説はもはや懐かしい思い出だが、リオン君をとりまく噂、話の類いは尽きることがない。 それだけリオン君は皆の注目を集めるに値していて、ただ可愛いや美しいだけではない魅力に溢れた令息なんだ。 近々人魚伝説の当事者であるキリウム第三王子とリオン君を溺愛する兄君らが留学から帰国するはずだ。 リオン君の婚約の話が出てもおかしくない年齢になったことも大きな関心事だ。 面白がって、あるいは少ないチャンスにかけて、ある意味皆がソワソワするのはこの春ならではなのかもしれないな。

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