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第97話 ユアの騎士的学院生活

「デプリオン殿下に拝謁したんだって?」 ランチを食べながら、キースが聞いてきた。 「うん。とっても素敵な方だったよ。オーラが半端ないというか。 たまたま数術研究室の教授が殿下に僕のことをお話しして下さっただけで、お会いできて幸運だったよ。」 キースは呆れた様に僕を見るとアーサーの方を見て言った。 「ほんとこの坊ちゃんは、色んな事が分かってない。いいか、リオン。 まず、殿下に拝謁なんて事は高等院の学生では滅多にない名誉だ。 しかもお前は貴族院の頃から数術の考え方に嵐を巻き起こしていて、今や研究室の教授の秘蔵っ子として扱われている。 とんでもなくすごい事なんだぞ? ああ、しかしこうなって来るとユアも飛び級で進学してるとはいえ、益々頑張る必要が出て来るな。 既にリュード様は第三王子殿下の補佐官という実績を出してるし。 いくら学生でもリオンがこれじゃ普通じゃ居られないよ。」 僕はキースの言う事がどうもピンとこなかった。 「ふふ。リオンはピンとこないみたい。まぁそこがリオンの良いとこでもあるけど。 要は、ユアは益々武にも学にも邁進して結果を出さないといけないって事。リオンのためにね?」 アーサーはそう言って僕の頭を撫でた。 「…僕はお兄様もユアも、自身が成し遂げた喜びで満たされるならば、何かを得たりしなくても嬉しいんだけどな。」 「時々リオンて随分大人っぽくなるよね…。」 アーサーとキースは顔を見合わせて頷きあった。 それから僕は何となく気になって、ユアの事を注視していた。 ユアは恵まれた体格を活かして、武に重きを置いたカリキュラムを選んでいる。 頭も良いので、武の中の戦術的な授業を取ってるようだ。 僕はユアの武術の授業を覗いてみたくなった。 そう言えば、貴族院になってから僕はすっかりそっち方面から遠のいていたんだ。 武の授業も選択しているアーサーに頼んで情報を得た僕は、キースを誘って観覧席から下の戦闘場を覗き込んだ。 丁度剣術の訓練だったユアは、こなれた身のこなしで次々と相手をねじ伏せていった。 とはいえ、ユアはまだ高等生一年。流石に三年の強者相手では歯が立たない様だった。 しかしユアは何度打ち負かされても立ち上がり、先生が止めるまで食らい付いていった。 僕は見ている間中、胸がドキドキと煩く、握った手の中はじっとりと汗で湿っていた。 僕はその時まで何も気づいていなかった。 僕とユアが婚約する事でユアが払う、大きな犠牲と献身に。 キースは涙ぐんでいる僕の頭を撫でて、小さくため息をつくと言った。 「あれはユアがお前のために頑張ってるのは確かだが、ユア自身のためにやってる事でもあるのさ。 リオンはただユアの頑張りを受け取って喜んでやればいい。 ユアにとって、それが1番の事だからな。」

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