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第16話「実際はおっさん」
「彼女とセックスできない、?」
「うん、、」
2軒目になる頃には若手が帰って人数が減り、鷹夜、駒井、瑠璃、長谷川と羽瀬だけになった。
カラオケで流行りの曲やら古い曲やらを全員で歌いまくり、気が済む頃には羽瀬がべろんべろんになっていた。
全くもっていつも通りの華金だ。
動かなくなった羽瀬を駒井と鷹夜で肩を持ち上げて歩かせ、いつも通りに瑠璃が自宅から乗ってきた駒井家のマイカーに乗せる。
長谷川は笑いながら「風俗行くわー!!」と夜の闇に消えて行ってしまった。
長谷川からしたら羽瀬は同期だ。
少しは面倒を見てもらいたいものだったが、あまりにも優雅に手を振って「風俗」と口にしたので、もう誰も止める気が起きなかった。
今夜は鷹夜も含めて駒井家に泊まる事になり、4人は瑠璃の運転で彼らの家に向かった。
ちなみに、駒井達は築浅のメゾネットタイプのマンション住まいで、猫を1匹飼っている。
レッド、と言う名前の真っ白な毛の長い猫だ。
「今まで1回もしてないの?」
羽瀬を1階の和室に布団を敷いて寝かせ、3人は2階のリビングにある4人がけテーブルに座り、瑠璃が豆を挽いて淹れてくれたホットコーヒーを飲んでいる。
運転して帰る事もあり、瑠璃だけはずっとアルコールを飲まずにいてくれた。
これもいつもの事なのだが、何だか毎度やらせてしまって申し訳ない気がしてきていた。
「してない。ずっと、えーと、、前戯的なので終わってる」
そして今、鷹夜は2人に真正面から真っ赤な嘘をついていた。
先週末の芽依との一件ですっかり肩を落とし、鷹夜はそれ以来芽依と連絡を取り合うのが一方的に気まずくなっている。
そのせいで今週は月曜日から仕事でミスをしまくったのだ。
これはもう誰かに相談するしかない。
しかし決して芽依と付き合っているとは言えないし、ましてや、一応世間体を気にして自分が男と付き合っていると言うのも言えない。
自分を「彼女」に例え、今、鷹夜は芽依の立場に立って自分の事を2人に相談しているのだ。
「彼女の、その、ごめんね瑠璃ちゃん、ちょっとやな話しかもしんないんだけど、」
「全然大丈夫だよ。真剣な話しなんだからちゃんとしよう」
「うん、ありがとね。その、ようは彼女のアソコに俺のが入んないんだ」
違う。
本当は自分の後ろの穴に芽依のアレ(通称:凶器)が入らないのだ。
「彼女さんが嫌がってる訳じゃないんだよね?」
「うん」
「お前のってそんな大きかったっけ」
「直樹、やめな」
「はいスンマセン」
ゲラであり何でも笑う癖がある駒井が鷹夜を茶化そうとすると、流石は嫁、瑠璃がピシャリと黙らせる。
妻強し。
ここはいつもこんな感じだ。
パワーバランスで言えば圧倒的に瑠璃の方が強い。
「雨宮くんが萎えちゃうとかでもなく?」
瑠璃はテーブルに頬杖をつきながら、鷹夜の話しを真剣に聞いてくれている。
駒井は会社の同僚の性事情を聞く羽目になって少し恥ずかしそうではあるが、引いている訳ではないようだ。
淹れたてのコーヒーは温かく、豆を挽いた事もあってリビングにはコーヒーの香りが充満しており、心地が良かった。
鷹夜はマグカップを両手で包んで暖を取りながら、フッ、と肩を落として息をつく。
「違う。この間少し入ったんだけど痛くて、、あ、違う、痛がられちゃって、そんでダメだった。痛すぎてパニックになっちゃって」
「ん?、彼女さんは初体験?」
「あ、うーんと、、ほぼ?そんな感じ。ほぼね?あ、指はね、すんなり入んの。2本、、と、もう少しくらい」
((2本ともう少し、、??))
鷹夜の誤魔化しと真実を混ぜた微妙な物言いに「?」と首を傾げつつ、駒井夫婦は彼の為に解決策を考え始める。
確かに、鷹夜を女性に例えるのなら処女と言ってしまっても良かったかもしれないが、指は本当にすんなり入るのだ。
ガッチガチに固まってしまう初心な身体と言う訳ではない。
それに、身体も手も大きい芽依の指を2本も咥えられるのだ。
鷹夜の指2本分よりもう少しある筈で、本来そこまでの幅のものが中に入っているのなら、一般人の性器ぐらいヒョイと入るに違いない。
相手は処女か、と悩ませて、「初めてだから仕方ない」に答えを持っていかれるよりも、ある程度は受け入れられるけれどどうしても芽依の性器だけはダメだったと言う事実に近付けて相談したかった。
「そっかー、うーん。普通に痛いんだろうねそれは。元からアソコが狭い子なのかも。ホントに人によるし」
「その、どうやったらいいかな?拡げると言うか、痛くなくするの。ぜ、、ローション?は、使ったんだけど無理でさ」
潤滑ゼリーのゼリーと言いかけて口を閉じ、わざわざローションと言い直しておく。
ここで間違えると結構危ないような気がしたのだ。
「あー、そう言うのは使ったんだね。えー?んー、何だろ。どうすれば良いのかなあ」
「まず彼女さん、、、なあ、名前くらい聞いちゃダメ?」
「彼女さん」呼びが面倒なのか、駒井は悪びれもせずふざけている様子もなく鷹夜に聞いた。
「あ。あー、、め、メイ。メイって言う子」
「メイちゃん?可愛い名前じゃん」
「何か若そうな感じする」
「あ、うん、25歳」
「何だよ、ちゃっかり歳下じゃん」
「うん、まあ」
まあ実際には、その5つ歳下のメイちゃんは身長190センチ超えの長身で、ガッシリムッチリ筋肉のついたやたらとエロい顔をした男であり、いつも嬉しそうに鷹夜の尻を追い回しているのだが、そんな事は口が裂けても言えない。
「いいね。雨宮くんしっかりしてるし、似合うと思う」
瑠璃は嬉々として笑んでそう言ってくれた。
「そおかあ?お前たまに感情ぶっちぎっちゃって死ぬじゃん」
「それは今言わなくてもいいだろ」
相変わらず駒井は変なところで現実の治したい所などをヒョイと貶してくる。
悪い奴ではないのだが、鷹夜自身が感情ジェットコースターをしてしまうのは直したいと思っているので、あまりその欠点を突かないで欲しかった。
「オモチャ的なのは?」
「あー、そーじゃん。バイブとかそういうのは?」
「買うの恥ずかしい」
「おいおい」
「んーじゃ、もう慣れでしかないんじゃないかな」
「慣れ、、そうだよね」
コク、と瑠璃がコーヒーを飲む。
色白で細く、ボブヘアの彼女は落ち着いた雰囲気があり、信頼のおける人間だ。
彼女がそう言うのなら、今まで通り芽依にペースを合わせてもらって、ゆっくりじっくり自分の後ろの穴を拡げていくしかないのかもしれない。
「うん。友達でも、彼氏のが大きくて入らないって子いたけど、すっごい時間かけてたよ。毎回入るとこまで挿れたらやめて、後はくっついて寝るだけ、みたいな。その子達どのくらいだったかなあ、、半年?1年?くらいそんなだったかな。で、ある日突然、できたのー!って報告された」
「あー、三ノ輪さんの話し?」
何かを思い出したように天井を介してから、駒井が隣に座る瑠璃に視線を向けた。
知っている女の子の話しらしい。
「そーそー、美紗。その子ね、すっごい背の低い子でさ。脚が短いとかじゃなくて、身体ごと小さいの。コンパクトな感じ」
「ふうん」
「それに対して彼氏さんがすごい背が高くてさあ。美紗が150あるかなーくらいで、彼氏が180センチ後半?だったかな。だから40センチくらい違う」
「おお、、」
鷹夜は170センチ前半。対して、芽依は190センチ前半。
彼らの身長差は約20センチだ。
身体の大きさで性器の大きさが決まるかどうかは知らないが、確かに芽依のあれは大きい。
何せXLサイズだ。
急ぎたくても焦っても、瑠璃が言う彼らのようにゆっくりじっくり事を進めていくしかないのかもしれない。
何せ相手はXLだ。
(好きだから、ホントならすぐにでも繋がって、ちゃんとセックスしたいなって思ってたけど)
道は遠いのかもしれない。
何と言っても、鷹夜と芽依は実際にお互いの顔を見て笑い合うまでにも時間がかかって、付き合うまでにも時間がかかったのだから。
もうそう言う星の下に生まれたと思って、腹を括ってゆっくり歩いて行ってもいいな、と、鷹夜はぼんやりと考えた。
「あとアレね、どうしてもメイちゃんは緊張してるだろうから、挿れるってことに重きを置かないようにしてあげなよ」
「んー、でも前戯的なのはずっとしてきたから、緊張も何もないと思うんだけど」
「んは〜、甘いね雨宮くん。甘いと書いて甘宮くんかな君は」
「え、どゆこと??」
ズズ、とまたひと口コーヒーを飲む瑠璃。
それに吊られて、彼女を見ていた鷹夜と駒井も後に続くようにコーヒーを口にした。
「好きな人に裸見せて、好きな人に触られるんだもん。何回したって緊張するときゃするのよ」
「へえ」
「直樹」
「はいごめんなさい」
ジロリと瑠璃の身体を上から下まで見たせいか、彼女に睨まれてまた駒井が黙り込んだ。
「だからね、雰囲気作りよ。女の子なんて甘〜い雰囲気作られてめちゃくちゃ優しくされて、愛されてるなあ、求められてるなあって感じればいくらでも濡れるんだから。何より、挿れるのが重要!って雰囲気をなくして、メイちゃんと一緒にいられるだけで幸せだよって分からせてあげて、リラックスさせてあげれば、身体もほぐれて挿れやすくなるよ、きっと」
にこ、と瑠璃に微笑まれ、鷹夜はどこかぎこちなく笑い返した。
(俺なんだよなあ、、挿れられる側は俺なんだよなあ、、まず尻の穴は濡れないからゼリー必須だし、どんだけ芽依に甘やかされて好き好き言われても入んなかったんだよなあ、、)
ならばどうしたらいいんだ。
瑠璃が言っている事も勿論で、参考にできるものではある。
けれどひとつだけ圧倒的に困るのは、これが本当は女の子の話しではないと言う事実だった。
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