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第17話「スパダリへの道」

土曜日の昼過ぎ、芽依は鷹夜へ「今日も大好きだよ」と連絡を入れてから仕事場に来ていた。 「鷹夜くんの連絡頻度落ちた、、絶対嫌われた、、」 彼から返事が来ない事に焦り、泣きそうになりながらガクンと肩を落として脱力する。 しかし土曜日の昼過ぎまで鷹夜から返信がない事は割といつも通りなのだが、今の芽依にはそれにすら気が付かない程余裕がなかった。 「うっさいっすねー。まーた被害妄想ですかぁ?」 「ちょっと!!何でそう言うこと言うの!ホントに連絡頻度落ちちゃってんの!見てよこれ!!」 「はあーー、、」 松本遥香(まつもとはるか)は演技力が高い売れっ子若手女優で、芽依がスキャンダル後の復帰作として挑んだドラマ「僕たちはまだ人間のまま」のヒロイン・湖糸(こいと)役を演じた女性だ。 そのドラマの撮影中に鷹夜と出会った芽依の相談をよく聞いてくれた相手でもあり、同ドラマの中で芽依が演じた悠太郎(ゆうたろう)の恋敵・優作(ゆうさく)を演じた若手俳優・片菊凪(かたぎくなぎ)の現実の恋人でもある。 人懐こい性格と底抜けの明るさで周りの人を魅了する一方、芽依や泰清と言った一度仲良くなってしまった友人達相手には「〜っすか?」と言う口調を遣い、中々に砕けた印象を与えてくる。 片菊も同様だが、鷹夜とももう顔見知りで連絡先は交換しており、たまに「元気っすか?メイさんとケンカしてません?」等と連絡用アプリにメッセージを送ってくる程に彼を気に入ってもいる。 「んー、、いや、毎日通話してるじゃないっすか」 アプリのメッセージ欄には頻繁に「通話」が残っている。 「通話してるけどお!話しにくそうな雰囲気出されんの!」 「ふーん。今度は何したんすか?普通にケンカ?それとも浮気?許可取らずに家具でも買い替えました?」 「浮気とか普通にしない!!」 「じゃあ何すか」 「た、、鷹夜くんとね、」 「はい」 「えっちできてなくて、、」 芽依は松本に自分の携帯電話の画面を向け、鷹夜との連絡用アプリでのメッセージのやり取りを見せつけている。 それに視線を合わせつつ、彼女は芽依の話を聞いていて、しかし彼の放った割とシリアスで割と馬鹿っぽい発言に対して、ゆっくりと目の前に立っている190センチ超えの男を見上げた。 「、、ふーん?」 まったくの無表情で、愛想のかけらもない顔をされた。 「え。そんだけ?」 「鷹夜さんに愛想尽かされたって話しッスよね?」 「違うってば」 「メイさん相手だと仕方ない気も、、」 「何でそんなに俺に厳しいのよ。鷹夜くんが最高なのは分かるけど俺だって頑張ってんのに。と言うか違う話しになってる、ちゃんと聞いて」 芽依の楽屋に遊びに来ている松本は、相変わらず好物らしいコンビニの唐揚げを紙コップの中に入れており、爪楊枝で刺して食べている。 「僕たちはまだ人間のまま」の映画の制作が決まり、ドラマが終わった今、2人は主人公とヒロインらしく、2人揃って様々なバラエティ番組やインタビュー番組に出演する為、時たまこうしてテレビスタジオに来てはお互いの話しをしていた。 「こないだヤろうとしたら、俺のが鷹夜くんのお尻に入らなかったの」 「、、、何て??」 ブフッ、と思わず吹き出しかける松本に、「ぁあん?」とイラついた表情を浮かべる。 「ごめんなさい、ちゃんと聞きます。お2人ってまだそこまで行ってなかったんですね」 あまりにも芽依が表情を崩して睨んできたからか、流石にまずいと感じた松本はゴホンと一度咳払いをしてきちんと話題に乗る。 楽屋のソファセットに向かい合わせに座った2人。 一方的に姿勢を崩していた松本は、唐揚げのカップを向かい合ったソファの間にあるローテーブルに置いて背筋を伸ばし、前を向いた。 座っていても竹内メイとは図体の大きさがよく分かる男だった。 彼が脚を開いて座ると、松本にとって大きすぎると感じる楽屋の茶色の革のソファがちょうどいい大きさに見えた。 「男同士だからさ、結構壁があんの。初めてしようとしたときは鷹夜くんが吐いちゃったりしたから、2人で時間掛けようねって約束した。そんでこの間の金曜日にいい雰囲気になって、鷹夜くんもしようかって言ってくれたからヤろうとしたら、、こう、先っぽがさ、明らかにメリメリッて入っちゃって」 「あ、先っぽはいけたんだ」 「でも入れた瞬間、いてぇー!!って泣き叫ばれて急いで抜いて、そっからもう訳分からん言い合い。あ、ケンカとかではなくお互いパニクってね」 「はあ、思ったより深刻」 芽依はまたしょぼくれながら、履いていたサンダルを脱いでソファの上に足を上げ、体育座りをする。 縮こまったところで大きさは変わらないのに。 「そんで、まあ、結局諦めて寝て、休み一緒に過ごして、、そのまま気まずくなった」 「鷹夜さんは何て?」 「ごめん、としか」 『芽依は悪くないからね』 頭の中に鷹夜の弱りきった笑みが蘇る。 あの顔は完全に自分を責めて、芽依に申し訳ないと思っているときの顔だ。 「そこから会ってない?」 「今週は俺が忙しいから時間取れないし、多分、家来てない。連絡ないし」 いつもなら、芽依が休みを取れなくても土日休みの鷹夜が体力の残っているときは家まで来てくれるのだが、そのときは「行くね」と連絡が入るのだ。 しかし、今週は何度寝落ち通話をしても下らない連絡を取り合っても「今週末行くね」とはひと言も言われなった。 それだけではなく、どことなく芽依と話したくなさそうな雰囲気を醸し出されており、何とも気まずいのだ。 「んー、まあ鷹夜さんのことだから、メイさんに愛想尽かしたうんぬんじゃなくて罪悪感でメイさん避けてるんでしょうね」 「だからって、連絡、、寂しい、、」 「鷹夜さんにちゃんと言いました?気にしないでまたゆっくりしよう、とか」 「言える空気じゃなくて何も言ってない」 「そういうとこな」 呆れた、と言いたげに松本がテーブルの上の唐揚げのカップを手に取り、爪楊枝の先の最後の一個をパクンと口に入れる。 ジュワッと脂が出てなんとも香ばしく、美味い。 「鷹夜くん、、会いたい、、」 「会いに来させるばっかじゃダメっすよ。鷹夜さんだって週5でフルに働いてんすから、たまにはメイさんが向こうの家に行くべき」 「そうだよね!?やっぱり今日は会いに行こっかな、、」 ぐすん、ぐすん、と言いながら芽依は抱え込んだ膝に顔を埋めた。 「会いたいなら、来てじゃなくて行くっしょ、普通」 「はい、、」 半ベソをかきつつ、顔を上げた芽依は素直に返事をした。 向かい側に座って唐揚げを食べ終えた松本は中に爪楊枝を入れて紙コップをベコッと潰すと、容赦なく芽依の楽屋のテーブルの横に置かれたゴミ箱にポイとそれを捨ててしまった。 おかげで撮影が始まるまでに唐揚げくさい部屋が出来上がるだろう。 「メイさんまだまだっすね」 そして、あえて女性の立場から物申してやろうと腕組みをしてソファにふんぞり返る。 インタビュー番組の撮影まではあと2時間近くあり、2人のマネージャー達が今後のスケジュールについて会議がしたいと言うので早めにスタジオに入って待機しているところだ。 とは言っても、あと30分もすればメイク等が始まる。 「今のままじゃスパダリの真似事っす。相手は鷹夜さんですよ?いっ、ぱ、ん、じ、ん!しかも鷹夜さんの方がスパダリ気質!そんな人相手にしてんだから本当に覚悟してケツの穴締めて挑むべき!」 「その顔でケツの穴締めろって言わないで」 清楚で健康そうな、目がクリッとして大きい松本なのだが、親しい人間と喋ると中々に毒を吐き、そして言葉が汚くなりがちだ。 たまにギョッとするような言葉も吐く。 「私の顔と心は別物と思って下さい。私はこの顔を親に借りてると思ってるんで」 「これが今日本で1番売れてる若手女優かよ、、」 「うるさいな。そうじゃなくてメイさんの話しっすよ。いいから、今日は絶対鷹夜さんに会いに行くこと」 「はい」 「手土産も持ってくこと」 「はい」 いくつか歳下の松本に怒られつつ、芽依は今一度、鷹夜への気を引き締めた。

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