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第21話「お悩み相談」

(そうか、あのブログの管理人さんにコメント送ってみるのもありだな) 鷹夜がふとそんな事を思い立ったのは深夜になってからだった。 2人で夕飯を済ませてもう一度シャワーを浴びた後、仕事で疲れ、明日の午前中からまた仕事のある芽依は鷹夜との抜きあいっこが終わると満足してスヤスヤと寝てしまい、逆に昼間に寝過ぎた鷹夜は芽依の頭を撫でながら身体を起こして、暗い部屋の中で携帯電話の画面を睨んでいた。 焦る事はやめたけれど、後ろの穴に芽依のアレが入らない問題が消えた訳ではない。 どんな方法があるかな、ともう何度目かの「穴 トレーニング」「穴 入らない」等と言う単語を並べて検索エンジンにかけていたところ、よく読んでいるゲイ向けのブログの管理人・前田の事を思い出したのだ。 「確かあったよね、どっかの記事に質問とかお悩み受け付けます、みたいな」 下手したら何年か前の記事だが、可能性があるなら相談してみたい。 このブログは前に乳首が全く感じないと判明してから見つけたもので、管理人・前田と言う男性とそのパートナーであるKと言う男性の性事情や彼らの周りのゲイや他の様々な性別や性癖の人達の話しが載っていて、おすすめの男性用アダルトグッズの話し等も見れて中々に助かっているのだ。 「あ。あった」 ちょうど1年前の記事の中に、「お悩み相談受け付け」と言うタイトルがあった。 鷹夜はそのタイトルの文字を押して記事を開くと、一気に1番下まで画面をスクロールする。 「、、、お」 質問や相談事が書き込めるコメント欄には38人もの人のコメントが寄せてあり、更に、1番最近の相談は何と2ヶ月前に投稿されたものだった。 これならば、今のうちに書き込めば下手したら相談に乗ってもらえる。 (き、聞いてみよう。同じゲイ、なんだし) 自分の腰に抱きついて寝息を立てている芽依をチラリと横目で見下ろした。 (芽依とセックス、したいもんなあ) 昼間に見る色気たっぷりのえろえろしい顔と違い、眠っている芽依は何とも無防備で25歳だと言うのにあどけない。 こんなものだから、例え自分の布団に涎を垂らしていてもついつい許してしまう。 『だってこの先ずっと一緒にいんだから!俺は、鷹夜くんのぜーんぶ貰えるんなら、どんなに時間かかってもいいよ』 脳裏には先程の彼のそんな台詞が思い出された。 (まあ、これから長い訳だし、ゆっくりでいいけど。でも試しに同じ種類の人間から話しを聞いてみよう) 別段、下手に差別をしたり性癖や恋愛感情で人種を分ける気はないが、あえて鷹夜はそう思った。 鷹夜がどうにかしたいのはひとつだ。 パートナーである芽依とセックスをするにはどうしたらいいのか。 身体が強張っている瞬間が分からず、知らず知らずに全身に力が入ってしまうのを抜くにはどうしたら良いのか。 (えーと、) 明かりを消した部屋の中で、携帯電話の画面の光りに照らされて鷹夜の顔だけがボオッと白く浮かんでいる。 コメント欄の白い枠にタッチし、ポチポチと文字を入力し始める。 他の読者の投稿で長文になってしまっていても丁寧に答えているやりとりがあったので、変にはしょるよりも現状を出来るだけ書き込み、鷹夜はブログの管理人・前田へとメッセージを送った。 (送信、、うわあ、こう言うのって緊張するなあ) ふう、と力を抜いてまた芽依を見下ろす。 彼は何も知らないまま、安心し切った顔で眠り続けていた。 (可愛いなあ) 整髪料で固められていないサラサラな前髪は目が隠れるくらいの長さだ。 本人は短く切りたいし明るい色に染めたいと言っていたな、とぼんやりと思い出した。 (慣れちゃったけど、すごいことだよな。芽依がそばにいてくれるのって) 竹内メイがそばにいる。 確かにそれもすごい事だが、何より、自分よりもこんなに何もかも恵まれていて、格好良くて若い子が、自分のように三十路になって付き合っていた恋人にプロポーズを断られて、未だにパワハラをしてくる上司に少しも反論できない弱い人間に惚れたと言って、必死に告白してきて、こうまでそばにいてくれる事が、すごい事だと鷹夜は思っていた。 まだまだ付き合いはじめてからの月日は短くて、まだまだ話し合いが必要な事はたくさんある。 けれど、芽依が語るこれから先の話しの中に常に自分の存在がある事がどうにも嬉しく、そして何より鷹夜自身も、もう一度人を信じようと思えるのだ。 「好きだよ。芽依」 これから先、何があろうと、きっと。 「じゃあ、行ってきます」 「ん。気をつけて。無理すんなよ」 「はーい」 翌朝、最後にチュッ、と可愛らしくキスをして、芽依は鷹夜の家の玄関から外に出た。 昨日着てきた服ではなく、鷹夜の家に置きっぱなしにしていた黒いパンツに履き替え、トップスは鷹夜の着なくなったクリーム色のパーカーを借りた。 オーバーサイズをブカブカなまま着ると言うのが鷹夜の中で流行っていた時期に購入したものらしく、普段Mサイズの鷹夜が着るとダブつくXLサイズだ。 しかし芽依が着ると丁度いい大きさになる。 それから持ってきていた黒いキャップを被り、マスクをつけてフラリと出勤して行った。 (アイツ、今売れっ子なのにこんなに会ってて大丈夫なのかな。写真撮られたりしないかな) 鷹夜は彼を見送り終わると、ときたますごく不安になるそんな事を考えてしまった。 玄関のドアがガチャンと閉まるなり、部屋の中はシン、と静まり返る。 昨日の騒がしさは嘘のように、いつも通り、鷹夜1人きりの空間が広がっていた。 (まあ、上手くやるしかないか) 泰清や松本とも連絡を取り合い、家ではなく外で飲むときは大体酒処・霧谷に行っている。 もし週刊誌の記者等に目を付けられていても、鷹夜が仲の良い友人として映るように芽依も鷹夜自身も、彼らの関係を知っている周りの人間達も努力してはいる。 けれど、万が一のこともあるのだ。 (今度は泰清くんも入れて、芽依の家で泊まりで遊んだりして誤魔化すかあ。そういうのは頼って来いよって言ってくれたしなあ) こう言った事は芽依と話しつつ、泰清や周りの芸能人達はどうしているのかを聞いて相談した方が早そうだな、と思った。 相談とは何事も適材適所に限る。 (とりあえず、洗濯物やろ) 昨日洗い終わっていた筈の洗濯物はまだ洗濯機の中にある。 鷹夜はその前まで行くとため息をつき、フタを開けて洗剤と柔軟剤が入ったボールをヒョイと放り込むと、また洗濯機を回し始めた。 「ふぁ〜あ」 大きな欠伸が出た。 しかし今日は二度寝も昼寝もやめて、洗濯物を全部洗って干して、冷蔵庫の中と部屋の掃除をしよう。 「うわ、食器も溜まってんなあ、、ん?」 流しを見て嫌気がさしつつ携帯電話で昨日投稿したブログへの相談を確認する。 深夜に投稿したので誤字がないかが気になったのだ。 「え、はやっ」 確認したページには、既に管理人・前田からの返事が届いていた。

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