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第22話「それぞれの進捗」

ブログには、鷹夜の質問から始まり、こう綴られていた。 A[管理人さん初めまして、こんばんは。Aと申します。突然なのですが、お悩み相談をお願い致します。私は男性なのですが、今現在歳下の男性とお付き合いしています。元々は女性と付き合っていて、彼が初めての同性の恋人です。付き合ってまだ2ヶ月も経っていないのですが、先日初めてセックスをしようと言う事になりました。前戯のような事はたくさんしてきたのですが、本番をするのは初めてです。私が下なのですが、経験不足と彼のものの大きさもあり、行為自体することができませんでした。彼と私は身長差が20センチ程あり、彼は体つきも含めて外人のように大きい作りの人です。彼の手の指なら入れる事ができたのですが、彼のものが入りません。上手く体をほぐしたつもりだったのですが彼のものを入れるとなると緊張してしまったようです。どうしたら彼とできるようになるでしょうか。私ができる努力として、どんなものがあるでしょうか?色々調べたりもしているのですが同じ男性の恋人をお持ちの管理人さんにもご意見いただけたらと思い投稿させていただきました。長文失礼致しました。] 管理人[Aさんこんにちは。初めまして。お悩みの投稿ありがとうございます。初めて、と言うこともあって緊張されたと思います。私の恋人も最初はとても抵抗があって嫌がり、めちゃくちゃに暴れられたこともありました。] ブログを読んでいた鷹夜には分かるが、確かにこの管理人はたまにサイコパスかと疑う程に強引にパートナーであるKさんを巻き込み、少し行き過ぎでいるのではないかと言うプレイもしている。 ちなみにパートナー・Kの方が挿れられる側、ネコ役であり、高校生の頃からの付き合いという事もあり最終的にはKの方が色々と折れて管理人・前田を受け入れてくれるのだそうだ。 管理人[私達の初体験の場合、緊張しいで中々私のことを好きだと認めてくれなかったKの抵抗感も気になったので、まずは私に体を触られることに慣れてもらうところから始めました。私に触られると気持ち良い、安心して身を託せると教え込む為にオモチャを使ったり、快感に素直になっていいのだと教える為に野外で自慰行為をしてもらったりしました] (コア過ぎるだろ) 管理人・前田の返信は中々に長く、そして恐ろしいものでもあった。 Kの身が少し心配にもなる。 しかしここまではできないにしろ、確かに鷹夜も快感に素直になると言う点においては抵抗があるにはある。 自分ばかり気持ち良くされると芽依の事を満たせていないような気がして不安になるし、させてばかりだなと思われていないか心配になるのだ。 管理人[もちろん、ここまでをAさんに実践してみて下さいとは言いません。私とKがおかしい部分もありますので] (あ、自覚あるんだ) 管理人が面白いからこそこのブログを読んでいたのは事実だが、実際にやりとりしてみると、なるほど、彼の書く記事に惹かれるのはやはり納得だった。 単調ではなく面白く、それでいて気遣いと、鷹夜や芽依と同じように男性の恋人がいると言う点があるからか、端々に理解が見える。 話しやすいし、聞きやすいのだ。 管理人[オモチャを使って慣らしてみる気はありませんか?Kも最初から私とセックスをしたわけではなく、彼の中に指を入れたときに狭いなと感じていたのでオモチャで体を慣らしてもらっていました。バイブやディルドをお持ちでないなら、おすすめのものを紹介している記事を参考にしてみて下さい。あれは全部Kに試したもので、反応の良かったものを選りすぐってアップしています。歳下の恋人さんとは同棲されていますか?1番は貴方が落ち着ける環境下で、貴方がリラックスした状態で行為をすることです。あとは楽しんで、幸せを感じることが大切です。私は奉仕するのが好きなのですが、Kは奉仕されるのが苦手でいつも気持ち良いか、とか楽しいか、とか聞いてきます。私としては体に負担をかけてしまうKの方が気持ち良いかどうかが重要なので、その点も恋人さんと話し合ってみるのもいいかもしれません] (あ、) 最後まで返信を読み切ると、この管理人のパートナーであるKと鷹夜に似ている点が多い事を知った。 身体の緊張や慣れなさも同様だが、何より気持ちの面だ。 鷹夜もKと同じで奉仕される事に抵抗を感じる。 もっともっと楽しめば良いのだろうが、色んなところを舐められたり、自分だけ気持ち良くされたときに少なからず罪悪感を感じていた。 (そうか。そう言うのも話せば良いのか) 思ってみれば、芽依は何でも口にするのに鷹夜はセックスやそう言った行為に関してはそうでもない。 行為の途中にやっと「〜して」と言えるくらいのもので、「フェラして」「後ろ舐めて」なんて言った試しがない。 芽依の勢いにやられてされるがままで、主導権を握った事もない。 (もっと、、お願いしていいのかな) 罪悪感を感じるなら、先に彼に奉仕して少しでもそれを減らしたい。 この間まで女性を抱いていた男の身である限り、どうしてもついて回る抵抗感をなくす為に協力して欲しい。 (そう言えばこの前、えっちなパンツ履かせたいとか言ってたな) そう言う事にもっと積極的になりたいとも、ほんの少しは思うのだ。 ただ、こんなおっさんがいいのか?似合うわけないのに、と言う疑問や不安が付き纏うだけで。 (いや、いやいやいや、やってみよう。話してみよう。1人で悩んでもどうにもなんないよな!) 管理人・前田からの返信を読み切り、今度は感謝の気持ちを書き綴って投稿する事にした。 そして、おすすめのアダルトグッズの記事をもう一度読んで、実際何か買って自分の身体を慣らそうと決意した。 鷹夜がそんな、真剣で少しアホらしい問題で悩み、苦しみ、色んな方法で解決しようと試みていた頃。 「荘次郎くんのことが事務所で問題になってるの」 「え?」 芽依の目の前には、元恋人にして友人の真城七菜香がいて、そして2人は何とも言えない不安な表情を突き合わせていた。 「何で?お母さんのことで休んでんでしょ?」 テレビ局内にある小さなカフェの2人掛けの席に座り、彼らは向き合っている。 七菜香から連絡が来たのは今朝、芽依が鷹夜の家から出勤して、新宿駅で中谷に車で拾ってもらい、テレビ局についてからだった。 たまたま同じ局でバラエティ番組の撮影をしている七菜香に「話したいことがあるんだけど会えない?」と言われ、居場所を確認したところ同じ建物内にいたので時間を合わせてカフェで合流した。 どちらかの楽屋で話した方がいいような気もしたが、元々付き合っていた事が業界人には知れ渡っている2人が別の番組に出るのにわざわざどちらかの楽屋に集まるのはまたそう言う噂を生みかねないと言う事で、芽依が拒絶し、この形になった。 「んー、それが、そうなんだけど他にも問題があって」 「ん?」 小声で話す2人の声は、同じカフェにいる離れた席に座っている何処かのプロデューサーのような男性や、その近くにいるテレビで何度か見たことのある若手芸人には聞こえないだろう。 しかし関係を疑われたくない2人は節度を持った距離感を保ち、無表情を作って話していた。 「メイくん、森沢幸穂って女優、覚えてる?」 カフェはスタジオの4階の南側にあり、一面ガラス張りの壁沿いに横長に広がっている。 席数で言えば200席近くあり、注文カウンターが西と東に別れて2つ設置された大型の休憩スペースのような作りだ。 「もりさわゆきほ、、何か聞いたことあるような、ないような」 マネージャーの中谷は楽屋にいる。 芽依が彼女からもらえた時間は30分で、今が午前9時6分。 あと24分経ったら、早足で楽屋に戻らないといけない。 聞き覚えのある名前に首を傾げながら腕時計で時間を確認してまた七菜香へ向き直ると、彼女は唇をキュッと引き結んでから再び話し始めた。 「何年か前に、細田翔(ほそだかける)って言う自分より30歳も歳下の俳優と熱愛報道された人。岡田宇治彦(おかだうじひこ)って大御所の時代劇俳優の奥さんだった」 「あ、岡田さんは分かる。めっちゃファンだった。でも亡くなってるよね?」 「だろうね、時代劇好きだもんね。うん、亡くなってるから死別してることになる。分かんない?森沢さんの方は」 「ちょっと検索していい?」 「ああ、うん。検索しながら聞いて」 「ん」 芽依は着ているジャケットのポケットから携帯電話を取り出し、検索エンジンの検索欄に「もりさまゆきほ」と打ち込む。 打ち込んだ瞬間、検索欄の下に「森沢幸穂 細田翔」「森沢幸穂 熱愛」と予測変換が出た。 そしてその下に、「森沢幸穂 洗脳」と言う文字が出て、芽依は一瞬、訝しげな顔をした。 (洗脳、?) 何か、嫌な予感がしている。 胸の奥がザワザワと煩いのだ。

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