3 / 19
Trac01 Basket Case/Green Day 前編
『ーーーー俺の泣き言を聞く暇があるか?』
Basket Case/Green Day
※暴力表現注意
ーーーーーーーーー
茶色く逆立った短い髪、シャープな輪郭の中にはソバカスが散って、切れ長の目は刃物のようにギラついている。
ホテルに行って下着だけで風呂場から出てきた瞬間、腹に蹴りを入れられて夕飯を床ぶち撒けそうになって、見上げた顔がそれだった。
「何?こういうのが好きなの?」
込み上げる酸っぱいものを、唾と一緒に押し戻しながら言った。
そいつは、山田っていったっけ、髪と同じ色の眉をひそめた。
「やるなら最初に言っとけよ」
立ち上がるとまた殴られた。
「逃げんな」
少し上擦った声で言われた。
「殴らなくても逃げねえよ。セックスするなら相手してやるっつーの」
あ、顔に跡つけるのはナシで、と言ったら、山田はまた俺を殴って、うるせえよ、と床に叩きつける。
山田はズボンを下ろして
「しゃぶれよ」
とヤツのモノを顔に突きつけてくる。
今日はこんな感じか。本当は無理矢理とかあんま好きじゃないんだけど。
「いいからしゃぶれよ!」
怒鳴るなよ。だから言えばやってやるって。
俺がウンザリした顔を向ければビンタされた。だから顔はナシだっつってんだろうが。
仕方なく、俺は舌を伸ばした。
なんでこんな事になったのかっていうと、1時間くらい前のことだ。
ーーーーーーーーー
「え、無理矢理っぽいのが好きなの?」
「すいません、こんな事頼んで」
ホテルに向かって歩く途中、山田は髪と同じ色の眉を下げて言った。
「いやなら断ってくれていいっス」
スカジャンを着た身体を小さくする。
「普通にヤればいいじゃん」
「・・・そういう事しないと、ヤれなくて」
「ウリセンでやれよ」
「そこまで金無いんス。会社、クビになりそうだし」
ウリセンはゲイ専用の風俗みたいなもんで、嬢よりは安いけど相場は本番ナシでも15000から20000と決して安くはない。
「じゃセックスしてるヒマねえんじゃねえの」
「そういう時だから、余計にシたくて。
もう我慢できなくなっちゃって」
まあわからんでも無い。
山田の肩も声も震えている。泣くのを我慢しているみたいに。
「俺が嫌だって言ったらどうする?」
「・・・帰ります」
「どうすっかなぁ」
ホテルにはもう着いてしまった。
山田は捨てられた子犬と言う表現がぴったりな顔をしていた。むしろこっちが虐めたくなる。
というか、もうどうでもいいからセックスがしたくてしょうがない。
「わかった。行こ」
「えっ本当に?殴ったり蹴ったりとか、大丈夫ですか?」
「あー・・・」
俺は頭をかいた。
そういうのはやった事がない。最中に首絞められたり歯型つけられたりした事はあるけど。それに、ユウジに無傷で帰ってこいって言われてる。
「じゃあ、顔とかに跡つけるのはナシで」
まあバレなきゃいいだろ。
俺たちはホテルに入っていった。
そして今、口の中は生臭い匂いと血の味がする。精液を飲み込むのは正直吐きそうだった。
「水飲んでいい?」
そう聞いたら、山田はズボンを上げると俺の髪を引っ張って歩いて行った。風呂場に突っ込まれ頭からシャワーをジャンジャンかけられた。
ちょっと待て、パンツはいたままなんだけど。
山田も服を着たままのくせに御構いナシだ。
「飲めよ」
胸をつま先で蹴られる。気持ち悪さに負けて、顔を上げて少し口を開いて中を洗い流した。
でも山田は顎を掴んで、更に口を開かせてきた。苦しいよりも鼻に水が入ってきて痛い。
むせると喉に水が流れ込んで、呼吸ができなくて一瞬マジで死ぬんじゃないかと思った。
鼻からも口からも液体を垂れ流しながら、山田が拳で全身に跡をつけるのを必死に腕で塞いだ。
「おい、やめだ、やりす」
水が出たままのシャワーヘッドで頭をぶっ叩かれて目の前がチカチカした。
いやマジで?
ここまでやるとは思ってなかった。約束通り顔には手を出してこないから、殺す気はないらしい。
山田が手を挙げただけでビクッと身体が反応すると、ヤツはどこか安心したようにニヤリとした。
下着を剥ぎ取ると足を開かせてアナルにシャワーを当ててきた。指をグイグイ入れてくる。
「痛い。ローション使えよ。あっただろうが」
無視して指を増やされた。入り口が裂けそうで歯をくいしばる。
山田も全身びしょ濡れになって、野良犬のように目をギラつかせている。でも、服は着たままだ。
「オイ、やめろっつってんだろ!」
怒鳴って顎に蹴りを入れてやった。
クッソ外した。
山田は細い目を目一杯見開いて、物凄く驚いた顔をしていた。手を掴んで孔から指を引っこ抜く。起き上がると、山田はびくりと震えた。
「俺やっぱ帰るわ」
なんか萎えちまった。
今日はハズレだ。今度からこういうのは断ろう。普通にめちゃくちゃ痛いだけだ。
ヤツは腕を顔の前で交差させて震えている。
「なんだよ、お前、なんで、」
山田はブツブツ言ってて、片方の手をぐっしょり濡れた上着のポケットに入れる。
折り畳み式のナイフが、パチンと顔を出した。
待てまてまてまて。それはシャレにならないし聞いてもいない。
床に組み伏せられて、背中で飛沫が跳ねた。情けないことに声が出てこない。
「おい、待」
やっと声が出たのは、ヤツがナイフを振り下ろしてからだった。
ともだちにシェアしよう!