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第34話

 「待てよ馬渕、逃げんな!」  一目散に逃げる学ランの背中を追いコンクリ敷きの犬走りを駆ける。  時計回りにぐるりと半周、校舎の反対側に出ると運動部の部室が入った二階建ての別棟に行き当たる。  なんで逃げるんだ?決まってる、やましいところがあるからだ。  相手に失速の気配がないのを察知、かくなるうえはと最終手段に訴える。  「聡史!」  応援を頼む。前方で馬渕がぎくりとする。  別棟の階段下にでかい図体をひそめ待ち伏せしていた聡史が「よしきた!」と発奮、とって食うぞと言わんばかりに両手を突き出し憤然と出陣。  階段下からぬぼっと現れたご立派な体格の不審者ー訂正、後輩を不審者呼ばわりはあんまりだー刺客に馬渕はきょどる。  「な、なんだよお前、こっち来んなデカっ!?」  人を見た目で判断するのはよくない。聡史は無駄にでかいが先輩の言う事をよく聞く可愛い後輩だ。  ほらこんなふうに  「確保っ!」  間髪いれず指示をとばす。聡史が動く。  鍛え抜いたバネを生かし地面を蹴り、抜群の瞬発力で馬渕にとびかかる。  「ーっ、」  地面に落下したスポーツバッグからぼすんと空気が抜ける。  奇襲大成功。逃走を視野に入れ計画的に追い込んだ機転の勝利。  抗う馬渕と激しく揉み合いつつ聡史が生き生き叫ぶ。  「捕獲しました、先輩!」  「でかした聡史、俺が行くまでそのまま捕まえとけ!」  膂力と上背を利し攻防を制した後輩のもとへ全速力で向かう。  追い付いた時、馬渕は既に抵抗をやめていた。  「お前の知り合いか。きったねーぞ、仲間がいたなんて聞いてねえ」  「へえ、お前らがよってたかって俺にしたことは汚くねーの?」  馬渕の顔がどす黒い怒りに染まり、さらに凶悪で醜悪な人相へと変わる。  馬渕こと馬渕修一。  名前の通り馬面ぎみな俺の同級生、ボルゾイの元とりまき。  「一学期は随分世話んなったな」  まともに話すのはこれが初めてだ。俺から声をかけなきゃこれからもずっと話す機会はなかっただろう。相手だって俺とのおしゃべりは歓迎してない。  二学期からこっち、馬渕を筆頭にしたボルゾイの元仲間はあからさまに俺を避けまくってる。  「………仕返しかよ、いまさら。もうすんだことだろ」  「……わあー、その台詞いじめっこの口から聞くとむかつきひとしお」  「悪かったよ、謝るよ。これでいいか?反省してる、許してくれよ」  勝手に勘違いした馬渕が、卑屈な笑みを顔全体に貼り付け詫びを入れてくる。  誠意のない謝罪をくりかえす馬渕を冷めた目で見返す。  こんなヤツにびびってたなんて、なんだか馬鹿らしくなってくる。  「聞きたいことがある」  正直、割り切れない思いはある。  ボルゾイ達にされたことは今でもはっきり覚えてる、毎晩のように夢でうなされる。  美術室で俺を嬲ったメンバーの中に馬渕もいた。俺の背中にのしかかり腕をひしぎ固めて、にやにや笑いながら嘲笑を浴びせていた。  当時の怒りと屈辱と嫌悪が一挙に甦り、口の中に絵の具の苦味が満ちる。  ひとつ深呼吸し、できるだけ平静を保ち、落ち着いた声を出す。  「馬渕。お前、ボルゾ……伊集院とはどんくらい親しかった?」  反応は顕著だった。  伊集院の名を出すなり馬渕の体がびくんと竦む。  挙動不審。傍らの聡史とちらり目を見交わす。心の中で呟く。ビンゴ。  「どんくらいって……」  「外でも遊ぶくらい仲良かったのか」  慎重に尋問を行い外堀を埋めていく。  馬渕が怪訝そうな表情を浮かべる。目には疑問の色。質問の意図が飲み込めてないみたいだ。  馬渕の前に立ち、高圧的に身を乗り出す。  「答えろ」  「親しくねーよ、全然。そりゃたまにはカラオケやらゲーセン行ったけどほかのヤツらも一緒だったし……伊集院が外でなにしてるかなんて知んねーよ」  弁解がましい口調。唾とばし必死にまくしたてる馬渕を制し、聞く。  「伊集院の噂、知ってるか」  「……………ああ」  「学校じゃ猫被ってるけど、外じゃ悪い連中と付き合ってるって。クスリも扱ってるって」  「ああ」  「それだけ?」  「…………」  手ごたえがあった。  馬渕が居心地悪そうに身じろぎしよそ見をする。  視線を避けて俯く馬渕を、厳しい声で現実に引き戻す。  「他には聞いてないか」  「他?」  「とぼけるな」  今は俺が責める側だ。一学期とは立場が逆転した。  下克上の快感が全くないといえば嘘になるが、今はそれより真実を知りたい欲求と好奇心が先行する。  馬渕はちらちら俺の顔色をうかがう。  群れなきゃ何もできない奴は一人になると弱い、いくらでもつけこむ隙ができる。  俺はその隙をねらった。一番突き崩しやすいところをねらった。  馬渕が友達と別れ下駄箱で一人になったタイミングを見計らい「ちょっといいか」と声をかけた。  結果、追いかけっこを経て今の状況に至る。  虚勢から内心の怯えが透けて見える馬渕と対峙し、声をひそめ核心に踏みこむ。  「お前、本当は知ってたんじゃないか」  「何を」  「伊集院から聞いてるんじゃないか、廃工場で何があったか」  馬渕の顔色が豹変したのを見逃さない。  聡史を目配せで後退させ、高まる緊張に喉の渇きを感じ畳みかける。  「伊集院は何か話さなかったか。仲よかったんだろ?俺にちょっかい出す時いつもつるんでたし」  「だから謝るって」  「廃工場で何してたか、お前らにはしゃべったんじゃないか」  「詳しくは知らねえよ……前に伊集院が自慢してたの聞いただけで……関係ねーし」  「教えろ」  「大体お前の言った通りだよ。通学路の途中の廃工場、あそこに気に入らねーヤツ連れ込んでヤキ入れたって。うちのガッコのヤツも他校のヤツも………いろいろ拉致って遊んだみたいで」  「白いバンを使って?」  「復讐代行みてーな感じ。裏で金とって、依頼者の気に入らねえヤツを痛い目遭わせたりもしたとか」  ボルゾイ=伊集院が裏で悪事に手を染めてるのは一部で有名な噂だった。  ボルゾイは金と引き換えに地元の不良と徒党を組んで復讐代行を請け負い、被害者の輪姦シーンをビデオに撮って金を強請っていた。  そしてその悪行の数々を学校の仲間に吹聴していたのだ、自慢げに。  「……伊集院、やけに金回りがよくて。なんでそんなに金持ってるんだって聞いたら教えてくれた」  「警察には?」  「言うわけねーじゃん。俺ら関係ねえし」  金で繋がった友達はすぐ寝返る。ボルゾイも薄情な仲間を持ったもんだ。  罪悪感などかけらもなくボルゾイを売った馬渕は、自分の無実を証明したい一心で聞いてもねーのにべらべら捲くし立て始める。  「伊集院が廃工場で悪さしてるのは知ってた、クスリを売り買いしてるのも知ってた。アイツ、売人だったんだよ。お前だって知ってんだろ、図書館裏におちてるシンナーの袋、あまったるい匂いがする……伊集院、学校でもクスリを売ってたんだ。こっそりと、バレねーように。俺らはそのおこぼれに預かってただけで……俺、本当は嫌いだったんだよ、アイツ。いばってていけすかなくて。お前にもやりすぎたなって」  「カシャカシャ楽しそうに写メってたくせに?」  調子いい言い分を鼻で笑う。馬渕の胸ぐらをきつく掴み、急激に顔を近付ける。  「『あの人』って誰だ」  「は?」  「伊集院の黒幕」  ボルゾイの裏にはもっと頭の切れる黒幕が存在する。  ボルゾイの言動から俺は組織的犯罪の匂いを嗅ぎつけた。  廃工場でボルゾイは何度も「あの人」と口走った。  自分はただの使い走りに過ぎない、あの人の指示に従ってるだけだと言った。  今日馬渕を呼び止めたのは尋問が目的。  ボルゾイの裏にいる「あの人」の正体を知るためだ。  地元の不良の頭で考え付くのは廃工場でのリンチ、レイプ、それ位がせいぜいだ。しかしボルゾイとその一味は、輪姦シーンをビデオに撮って被害者を強請り、売春斡旋にも手を染めていた。  組織的な犯行と仮定するなら、連中を束ねる黒幕がいる。  結局ボルゾイは捕まらなかった。  廃工場は壁の一面が燃えただけで本格的な火災には至らなかった。  失火原因は煙草のポイ捨てとして処理された。現場には吸殻が沢山残されていたから単純にそう決め付けられてもむりはないが、事件は終わってない。  俺は間一髪危地を脱したがまだどこかで泣いてる人間がいる、ボルゾイの食いものにされてる被害者がいるのだ。  「あの人って誰だ」  「知、知らねえよ……」  よわよわしく首を振る。  困惑の表情でシラ切る馬渕の胸ぐらを容赦なく握力加え締め上げる。  「知らない関係ないは通らない。おしゃべりな伊集院が愉快な仲間たちに手柄を伏せるはずねー。あの人の正体についてぽろっと零したことが一度か二度あったはずだ。思い出せ」  指に力がこもる。  喉を絞められ、窒息の苦しみに下卑た顔が歪む。  「ほ、ほんとに知らね……伊集院はおしゃべりだけどあの人の話になると口が固くて、怒らせると怖いってマジびびってて……地元の有力者の血縁で、警察とも繋がりあって、だからあの人に付いてりゃ大丈夫だって自信満々」  「他には?」  「お、思い出した、先生、先生だよ!」  先生?  馬渕が俺の手を払い激しくせきこむ。  首をさすりながら涙目で俺を見上げ、呟く。  「ウチの先公のだれか……名前はとうとう言わずじまいだったけど」  「教師が黒幕だってのか?」  半信半疑の俺の前で体を起こしがてら鞄を拾い、馬渕がブツブツ愚痴る。  「関係ないんだ、俺は……伊集院の事なんか知らねーよ、もうほっといてくれよ、約束どおり二学期から手出ししてないんだから」  「約束?」  しまった、というふうに顔をしかめる。  鞄を掛けなおした馬渕が用は済んだ踵を返す。  校舎を回って校門に向かいかけたその背に追い縋る。  「待てよ、約束ってなんだよ」  「知らねえのか」  肩を掴み振り向かせる。  馬渕が驚愕に目を剥く。  自然、馬渕の手に目が行く。包帯がとれたばかりの手。  「お前、あの包帯」  気付けば口に出していた。  馬渕の表情が強張る。  力一杯俺を振り払い、癇癪をおこしたように怒鳴る。  「頼むから、俺に近付くな!ーッ、言われた通りにしてるのになにが不満なんだよ根掘り葉掘り変な事聞きやがって、俺ちゃんと約束守ってんだろ、写メだって全部破棄した、親にも警察にもだれにも漏らしてない、チクったらもっと酷いことになるっていうから……くそっ、包帯だってやっととれたのに、なんだよ、仕返しかよ、一学期の!?」  まるで自分こそが被害者だと言いたげな態度と支離滅裂な罵倒に堪忍袋の緒が切れる。  「!!ーこのっ、」  自分の事は棚に上げ支離滅裂意味不明な妄言を吐く同級生に対し、積もりに積もった鬱憤を突発的な暴力の形でぶちまける。  おもいきりぶん殴って、一学期の借りを返そうとした。  一学期中陰湿に陰険に俺をいたぶったくせに、美術室でズボンまで脱がしたくせに、コイツはなに被害者ぶってんだ?  怒声とともに拳を振り上げ振り下ろし、  「ひっ!!」  怯えきった悲鳴を発し、顔の前で腕を交差させる馬渕。腕の下から覗く戦慄の形相。  俺は見た。  手の爪が全部剥がされていた。  赤い肉の断面に、漸く新しい爪が生えかけたところだった。  腕から力が抜け軌道が狂う。馬渕が勝手にすっ転び尻餅をつく。  「ひっ、ひあ、ひぃああああ」  深々頭を抱え込み身を丸める。  爪の剥がれた手で頭を庇い、もう片方の手を無意味に宙で振りたくり、呆然と立ち尽くす俺を少しでも遠ざけようとスニーカーと両手で地面をかきむしって醜態を演じる。  「ごめん、秋山、ごめん、謝る、許せ、言わないで、もうしねえ、二度としねえ、近付かねえ、ごめんなさい!!」  やり場をなくした拳をひっこめる。  虚勢のメッキがはげたいじめっ子の醜態を目の当たりにし喉元に苦汁がこみあげる。  狂ったように許しを乞いつつスポーツバッグをかっさらい小石を蹴立て逃げ出す馬渕、動揺に足縺れさせ嗚咽混じりの濁った奇声を発し去っていく。  「………んだよ、あれ………」  一学期とはまるで別人だ。  気持ち悪い。胸がむかむかする。弱いものいじめなんてふりでもするもんじゃねえ。  後味の悪さを噛み締め、聡史のもとへ戻る。  「なんすか、あの人。めちゃくちゃびびってましたよ」  「知んねえよ、実際殴ったわけでもねえのに……一回部室に戻るか。お前の友達、もう待ってんだろ」  「麻生先輩も部室ですよね?」  馬渕の豹変に釈然としないものを感じながら旧校舎に足を向ける。  資料室兼部室の戸を開けると見慣れぬ一年が無言で待っていた。  「久保田」  聡史が名前を呼ぶ。  一年が顔を上げる。緊張と不安で強張った顔が安堵にゆるむ。  「沢田」  所在なげにパイプ椅子に腰掛け、首をうなだれていた一年の顔に控えめな笑みが浮かぶ。  一年の向かいには麻生がいた。パイプ椅子に腰掛け文庫をめくっている。  引き戸を開け入ってきた俺を一瞥もせず、退屈げに呟く。  「終わったか、追いかけっこ」  「見てたのか」   「窓から。校舎をぐるっと回ってたから嫌でも気付く」  「麻生先輩も来ればよかったのに。同級生でしょ?」  「お前の方が図体でかいし頼りになる。ちょうどいいところだったし」  読んでる本をちらり掲げてみせる。聡史が不満げにだまりこむ。麻生が二択で本を選ぶのはいつものことなので別に気にしない。  念のため廊下を見回し人けがないのを確認後、厳重に戸を立てる。  新顔一年の隣に聡史が座る。  俺もパイプ椅子を引き出し、麻生と並んで座る。事情聴取の体勢は整った。  いざ  「じゃ、自己紹介から。聡史から聞いてるかとおもうけど、俺、二年の秋山。これでも伝統あるミステリー同好会の部長。隣の愛想ねーのが麻生。俺のクラスメイトで部員。一年の聡史を加えてメンバー紹介終わり」  「……一年B組の久保田です。沢田の友達の。秋山先輩のことは聞いてます」  「なんて?」  「面倒見がよくて、明るくて楽しいいい先輩だって。ちょっとばかだけど」  「久保田!」  ……コイツ、俺がいないとこじゃそんなこと言ってんのか。  久保田と名乗る一年はか細い声で言う。  「沢田とは幼馴染なんですよね。家が近所で、小学校から一緒だって。小さい頃からよく遊んでもらったって自慢してました」  「まあな。俺んちちょっとワケありで同じ学年にあんま友達いなかったから、いっつも聡史とつるんでて」  「沢田、先輩に憧れて同じ学校に入ったって言ってました。スポーツ推薦でもっといいとこ行けたのに」  「え、そうなの?」  軽く驚く。  「余計なこと言うな久保田!!」  聡史が怒る。  「待てよ聡史、聞いてないぜ。お前、俺がいるからここ来たの?スポーツ推薦蹴って?おじさんおばさんは知ってるのか」  「違います、いや違くないけど俺がここ選んだのは家が近くて通学に便利だったからで別に先輩がいるからとか不純な動機だけで選んだわけじゃ全然なくて、だってそんな理由で志望校決めたらぶっちゃけストーカーじゃないっすか、きもいっすよ!!ね、麻生先輩だってきもいっすよね、190の大台突破しそうな図体デカイのが先輩と一緒にいる時間が減るのいやさに決まりかけたスポーツ推薦蹴ってここ来たとか普通にどん引きっすよ!」  「きもい。引く」  聡史撃沈。  久保田君が提供した新事実のせいで話が妙な方向に行ったが、このままじゃいかんと軌道修正を図る。  「……えーと、なんか飲む?っても烏龍茶くらいしかねーけど」  前もって用意してあった紙コップにペットボトルの烏龍茶を注ぎ、手渡す。  久保田は「どうも」と会釈し、両手で包むようにして受け取る。礼儀正しい子だ。  「今日来てもらったのは他でもない。……聡史から聞いてるとおもうけど、俺の同級生の事で。知ってるかな?伊集院ってヤツ、」  久保田の手が震える。紙コップが揺れ中身がこぼれかける。  久保田に視線が集まる。  聡史が気遣わしげに見守る。麻生が冷ややかに眺める。  正面に陣取る俺は、生唾を呑み、舌の滑りをよくしてから殊更ゆっくり噛み砕いて話し始める。  「………2-Aの伊集院。一学期まで俺のクラスメイトだった。二学期に突然やめちまったけど……知ってるよな?」  「……………」  久保田が小さく頷く。顔色が心なし蒼ざめている。  「……伊集院先輩は同じ中学でした。その頃から評判悪くって……先生受けはよくて……でも、裏じゃ不良と付き合ってやりたい放題で」  言葉を切る。  言いにくそうな上目遣いで俺を見、ついで聡史を見る。  聡史が力強い首肯で励まし先を促す。  「秋山先輩なら大丈夫、相談に乗ってくれるから。遠慮なく話しちまえ」  肩を叩いて発破をかける。乗り気な聡史と対照的に久保田はおずおず目を伏せる。  優柔不断な様子にじれたのか、聡史がその肩を掴み、何か言おうと腰を浮かせる。  「聡史」  気弱な友達を叱咤しようと口を開きかけた聡史をやんわり制し、小首を傾げてお願いする。  「悪いんだけど、ちょっと出ててくれるか?すぐ終わるから」  「え……」  心外な申し出に聡史が目を丸くする。  聡史の気持ちはわかる。久保田を引率したのは自分なのに何故か追い払われようとしてるのだ、そりゃ腹も立つだろう。  「だって先輩、俺、コイツの友達なのに!」  「だからだろ」  久保田と俺を見比べ抗議する聡史にそっけない声がとぶ。  パイプ椅子に腰掛けた麻生が文庫のページを静かにめくりながら指摘する。  「友達だから聞かせたくない事もある」  怜悧な知性を宿す切れ長の目が、硬質なレンズ越しに久保田を一瞥。  「ちがうか?」  「……沢田、ごめん」  久保田が本当に申し訳なさそうに謝る。  今にも泣きそうにくしゃくしゃに顔を歪ませ、こみあげるものを抑えて唇を噛むさまに、こっちの胸まで痛くなる。  申し訳なさそうな久保田と申し訳そうな俺と全然申し訳なさそうじゃねー麻生の視線を受け、聡史がぐっと顎引き決断に至る。  「…………わかりました」  一礼し、未練を振り切るように踵を返し準備室を出る。  引き戸ががたぴしゃ桟を滑り、閉まる。  ダンボール箱が堆積する埃っぽく狭苦しい準備室に辛気くさい沈黙が落ちる。  ……あーもー、こういう雰囲気ホント苦手。  麻生はもとから無口だし後輩はだんまりで結局は俺が場を仕切るしかない。  くさっても部長だ、気をしっかりもて。二年の面目を保て。  「そー固くならずにリラックスして。な?」  気軽に砕けた口調とともにぽんと肩を叩こうと手をのばす。  「!ッ、」  手を伸ばすと同時に久保田の顔に紛れもない恐怖が走る。  即座に手を引っ込める。  「さわられんの怖い?」  勘が当たる。  苦笑いして手を膝におく。  久保田は一層警戒心を強め、猜疑と怯えに満ちた目で俺の手と顔を見比べる。  上唇をひとなめ、ちょっと考え横を向く。  文庫本から顔を上げた麻生が目だけでどうするか問うてくるのにほくそえむ。  正面に向き直り、久保田の目の高さに手首を翳し、袖口をさりげなくめくる。  「な?」  相手を安心させるにはまず自分から弱みや恥ずかしいところを見せなきゃいけない。  俺が安い弱みを見せることでこいつが少しでも救われるならささやかな露出は惜しまない。  俺の手首……外気に晒された手首の擦り傷と内出血の痣を目にし、久保田が絶句。  「俺も一緒。恥ずかしいことねーよ」  袖を戻し、照れたように笑う。  久保田が俯く。目のふちに透明な水が膨らむ。  目尻に浮かんだ水滴を拭い、堰を切ったようにしゃくりあげる久保田をしばらく黙って見守る。  麻生は周囲の状況と関係なく本を読んでいた。鉄の神経だ。  烏龍茶を一口含み、深く深く息を吸い、久保田が漸く顔をあげる。  「………沢田には言わないでください。全部は話してないんです」  赤く充血し、思い詰めた目でまっすぐ俺を見る。  「わかった」  どうやら信頼してもらえたようだ。  烏龍茶で喉を湿す。  目を閉じて内なる恐怖と葛藤し、惰弱な自分を抑圧して口を開く。  「俺、中学の頃、伊集院先輩にレイプされて。それからずっと使いパシリで。工場で何度もレイプされて……」  悪夢の再来に語尾が震える。  自傷行為に似た痛みを伴う告白の重圧で紙コップを包む手に力がこもる。  「……ビデオ撮られて。逆らえなくて。本当はいやだったけど、すごくいやだったけど、怖くて、親にも警察にも言い出せなくて。伊集院、アイツ、キレると手がつけられなくて。い、一度なんか、俺、ボールペンで目刺されて……失明しかけて……それで」  「いやいや呼び出しに従った」  勢いを得て何度も頷く。  紙コップが指圧でへこむ。  悲痛な顔に希望の薄日が射すもすぐに消え、出口のない絶望に取って代わる。  「だからやめたって聞いて、学校からいなくなって、すごく安心した。何があったか知らないけどこれで解放される、自由になれるって喜んだ。でも……よく考えたら伊集院が俺のビデオ持ってる事実に変わりなくて、アイツがその気になりゃすぐばらまかれて、そしたら俺、学校にいられなくなるし……家族に迷惑かかるし……沢田とも」  「他の被害者の事は知ってるか?」  「……名前は知らないです。でも、顔ならぼんやりと。何回か、その……混ぜられたことあるし」  「混ぜられた?」  ためらいがちに俯き、さざなみだつ紙コップの中をのぞきこむ。  「……そっちのが刺激あるからって……俺や他の人をまじえて複数で撮るんです、ビデオを。乱交とか。輪姦とか。そんなかんじで。中学生くらいの女の子もいて……制服でわかったけど、地元で有名な私立の。あの子、泣いてて……痛い、やめて、うち帰してって……耳についてはなれなくて」  胸が悪くなる話だ。  「そん時の状況、詳しく話してくれるか」  「伊集院と……唇ピアスの太ったのと、パンク系のと、痩せぎすのと、四人で。工場に機材もちこんで。犯る側は他にも何人か日替わりで出入りしてたけど……はたち前後で、ちゃらちゃらした不良っぽい奴らで……撮られた側は、俺と、その中学生くらいの女の子と……」  顔が紙のように白くなる。  フラッシュバックから来る吐き気に襲われ口を覆って突っ伏す。  「大丈夫か?」  「大丈夫、です」  「ビデオは誰が持ってるんだ」  「わかりません……連中の話しぶりからすると、ビデオ、裏に流れてるみたいで」  「裏?」  「そういうのが好きな連中の間に。伊集院が言ってたんです、自慢げに。客にビデオ見せて、気に入ったヤツを指名させるんだって。そういう商売なんだって」  商売。客。指名。物騒な単語が脳裏でぐるぐる回る。  「それ……ひょっとして、売春って事か」  組織的な。大掛かりの。  実行犯はボルゾイと地元の不良からなるその一味。  目をつけた標的を廃工場に拉致監禁輪姦、一部始終をビデオに撮って強請り、飼い殺しにする。  のみならず顧客の間にビデオを流し、気に入った相手を指名させる。売春斡旋も同時に行える極めて効率的なシステムだ。  「まさかお前も」  「沢田には言わないで」  椅子ががしゃんと鳴る。久保田が腰を浮かせ縋り付く。傾いだ紙コップから零れた烏龍茶が床をぬらす。  「………嫌われたくないんです」  「こんな事で嫌ったりしねーよ」  「知られたくない!」  「わかった、言わない」   「絶対?」  「ゼッタイ」  「ほんとに?」  「ホント。嘘だったら部長の座を麻生に譲る」  「いらねえ」  野郎、本から顔も上げずに答えやがった。  取り乱す久保田の腕を軽く叩き落ち着かせ、再び椅子に座らせる。  椅子に深く沈んだ久保田は、ギザギザのあとが付いた爪を神経質に噛み血走った目で続ける。  「……一回だけ……伊集院に呼び出されてホテルに行ったら、知らない男がいて……ちゃんと背広着た、サラリーマン風の、普通の人に見えたけど……全部終わった後に俺を指名した客だって聞かされて。お前の事気に入ったみたいだからこれからも頼むって、あのクソ野郎笑いながら」  深爪が気がかりだ。  激しい貧乏揺すりとともにボルゾイへの呪詛を吐く久保田に、用心深く訊ねる。  「伊集院の黒幕知ってるか?」  「知りません、会ったこともありません」  久保田が驚く。演技じゃなくて本当に知らなかったようだ。  「聡史!」  廊下に控えていた聡史が即座に戸を開け放ち再入室、久保田の顔に救われたような表情が浮かぶ。  「送ってやってくれ」  聡史が何か言いたげに俺を見るのに無言で頷く。  素直な後輩は久保田を促し部室を出て行く。  引き戸が閉まる。靴音がふたつ遠ざかっていく。  急にがらんとした準備室に取り残され、正面に位置するからっぽの椅子を見詰める。  「…………満足?」  頭をかきむしり隣を見る。  読み終えた本を閉じて鞄にしまいこみながら、麻生がうっそり口を開く。  「何が」  「探偵ごっこ」  胸の内で反発がふくらむ。  席を立った麻生に何か言おうとして、眼鏡の向こうの冷徹な眼差しに息を呑む。   「同級生を力尽くで問い詰めて、後輩を事情聴取して。それで、どうする気だ」  「どうするって……ほっとけっていうのかよ?このまま見て見ぬふりしろって?」  「余計な事に首突っ込むな。推理小説の読みすぎだ」  無神経な暴言に怒りが湧く。  席を立った麻生に憤然と詰め寄りかけ、途端立ちくらみを覚える。  「-っ、」  まずい。  「学校出てこれる状態なのか。体、辛いんじゃないか」  「丸一日寝たらだいぶラクになった」  嘘吐け、無理してるくせに。  片手で机を掴み転倒を防ぐ。しゃがみこんだ俺にあっさり背を向け、麻生が退出する。  「待てよ!」  その背を呼び止め、無理を押して立ち上がる。  「じゃあお前はほっとけってのか、廃工場で見たろ、ボルゾイたちのやりたい放題!俺はたまたま助かったけど久保田みたいにボルゾイ達に脅迫されてるヤツは沢山いる、自分が助かったら他は見殺しにすんのが正しいのか、ボルゾイ達がやってること忘れろっていうのかよ!?」  「お前には関係ない」  「関係ある!!」  俺はたまたま偶然助かった、タイミングよく麻生が来てくれたから。けど、他のヤツらは?手遅れの被害者は?廃工場でボルゾイ達に輪姦されビデオを撮られ脅迫され客の相手をさせられてる被害者は、久保田は、女子中学生はどうなる?  『うちに帰して!!』  顔も知らない女の子は暗く汚い廃工場で男たちに襲われ泣き叫んだ。  俺は無事うちに帰れた。一方で帰れない人間がいる。  警察にも家族にも相談できず一人苦しみ続ける人間がいると知りながら、自分さえ無事ならそれでいいと見て見ぬふりするのが正しいはずない。  俺はボルゾイの犯罪を知ってる。  ボルゾイの裏で糸引く「あの人」がこの学校の教師であることも突き止めた。  そこまでわかっていながら、いまさら見て見ぬふりができるか。  「久保田の話聞いて、お前、まだそんなこと言えるのか。アイツ、本気で悩んでたろ。初めて会った俺たちの前でぼろぼろ泣いちまうくらい追い詰められてたんだよ」  「本気で悩んでるんなら警察に被害届を出せばいい、お前が首突っ込む事じゃない」  「~わっかんねーヤツだな、だから脅されてるんだって、ビデオで!口封じ!相談したくてもできないんだって!被害者除けば俺が唯一の証人なんだ、だってそうだろ、俺はあの時廃工場にいたんだ、ボルゾイ達の話全部聞いてるんだよ。そうだよ、聞いちまったんだ、いまさらなかったことになんてできるか」  忘れようったって忘れられない邪悪な哄笑が耳に響く。  廃工場の悪夢が炎の色彩を伴い鮮明に甦る。  「警察にも親にも頼れずひとりぼっちで泣き寝入りしてる連中がいるのに、俺だけ無事に帰れたからとっとと忘れちまえって?」  それができたら苦労しない。現に久保田はボロボロになるまで追い詰められている。  「お前は何がしたいんだ?」  引き戸の前で立ち止まり、麻生が振り向かずに聞く。  「ボルゾイを破滅させるのが望みか」  「黒幕を引っ張り出す」  即答する。  「馬渕が言ったんだ、ボルゾイの黒幕はうちの教師だって。多分そいつがビデオを持ってるんだ。そいつを警察に突き出す」  「警察に突き出して?それで?司法にさばいてもらうのか。被害者がそれを望むとでも?」  麻生の声が挑発的に変化する。  正直、俺だって何が正しくて正しくないか分からない。廃工場の体験は一日経ても生々しく体のだるさとして残っている。ボルゾイの顔なんか二度と見たくないのが本音だ。  だけど、だからって、このまま平凡な日々に紛れて忘れちまってそれでいいのか?  いいはずねえ。  俺は事件の被害者で目撃者だ。  なら俺のやりかたで、とことん事件にかかわってやる。  推理小説の読みすぎと非難されてもいい、とことん首突っ込んで意地でも黒幕を引っ張り出してやる。  「俺だって一歩間違えりゃ今頃ボルゾイに飼われてたんだよ。久保田と同じドレイの身の上だ、他人事じゃねえ」  口にするのも忌まわしい想像を苦りきって吐き捨てる。  「他の連中が今でも苦しんでるのに自分さえよけりゃいいって納得できるか!!」  癇癪が爆発する。  背を向けた麻生に追い縋り、肩を掴み振り向かせようとしてー  あれ?  俺、何か、重要な事忘れてないか。  丸一日熱を出して寝込んで、記憶が一部ぽっかり欠落してるー  『忘れちまえ』  心地よい振動に揺られまどろむ耳元で繰り返し暗示をかける声、初歩的な催眠術、無意識の忘却。  麻生がタイミング良く廃工場に現れたのは  衝撃。  「……探偵ごっこ?」  顔の横、戸棚のガラスに平手が激突。  振り返り際腕を振りかぶり、戸棚を背にした俺を周到に追い込む。  平手が炸裂したガラスが微弱に振動する。  上背を利し麻生が目の前に立つ。  長身の麻生が前傾すると、真っ直ぐな前髪と眼鏡に隠れた表情の希薄さも相まって得体の知れぬ威圧感を醸す。  俺にのしかかるような体勢で目を細め、口角を皮肉げに吊り上げる。  「………そのザマでか」  眼鏡越しの視線が侮蔑を孕み、体にそって滑る。  膝がかすかに震え出す。  麻生が手を振り上げた瞬間虐待の予感に身が竦み、眼鏡をかけた理知的な顔にボルゾイがだぶった。  「好奇心猫を殺す。英語の諺にもあるだろ。少しは懲りろよ」  低く落ち着いた声音と無慈悲な眼差しで、淡々と諭す。  「無防備だからいけないんだ。無防備だから付け込まれる。いい加減学習しろ。危険には近付くな、見て見ぬふりだ。他の連中がどんな目に遭ってようがお前には関係ない、赤の他人がいちいち気にかけてやる必要ない。本当に困ってるなら被害者本人が警察に駆け込むなりなんなりするさ。いいか?素人探偵気取って事態をややこしくするな。それとも何か、お前が関わる事で事態が好転するとでも?被害者が救われるとでも?自信をもってそう言えるか、断言できるか。お前が首突っ込んであちこち嗅ぎまわることで被害者の立場がもっと悪くなるかもしれないのに」  「っ………」  「自分に何かできるかもなんておめでたい頭で思いあがるな」  「……………」  「迷惑なんだよ。無力で無能な人間の思いやりは思いあがりと同義だ」  麻生の顔が近付く。  鼻先に顔が来て、湿った吐息が絡む。  距離をとろうと身を引けば、戸棚に背中が当たり逃げ場をなくす。  視界が暗く翳る。  校舎の外から運動部のかけ声が響く。  日が暮れ始めて準備室が薄暗がりに沈む。俺の吐く息の音ばかりが荒い。  俺の行動は間違いなのか?  脳裏に疑問が浮かぶ。違うと強く首を振って打ち消す。俺は単なる好奇心で事件に首を突っ込んだわけじゃない、黒幕捜しを始めたわけじゃない、絶対ちがう。だって俺はもう事件に関わってる、巻き込まれてる、警察には言えない、家族に心配かけたくない、だったら自分で何とかするしかない……  降りかかる火の粉は自分で払う。   「制服に擦れて痛いんじゃないか?」  一瞬、何を言われたかわからなかった。  理解と同時に体が発火、耐え難い羞恥に思考が鈍る。  麻生がじっと俺を見る。  学ランを透かして直接裸を見るような冷たい熱を孕む視線に晒され、物欲しげに喉が鳴る。  「助けてくれなんて頼んでねえよ」   安全ピンを刺された場所が熱を帯びて疼く。体全体が恥辱と快楽の余韻で疼く。  怒りと反発と情けなさと、それらが一緒くたに煮えた激情に突き動かされ、気付けば怒鳴っていた。  「呼んでもねーのに勝手に来たくせに、あとになってあれこれ勝手に指図して、思いあがってんのはどっちだよ。首突っ込む突っ込まないは俺が決める、何が『お前には関係ない』だ、大ありだよ、当事者だよ、被害者で目撃者だよ、俺はもう最初から否応なく巻き込まれてんだよ!!ボルゾイに目え付けられた時からこうなるのは決まってたんだ、だったら腹括ってとことん踏み込んでやるさ自分の意志で、もう引き下がれないよそうだろ、部長の意地とプライド賭けて黒幕引っ張り出してやる、それが俺のけじめの付け方なんだよ!!」  偉そうに偉そうにお前になにがわかる冷静沈着な優等生に俺の何がわかる俺の気持ちを勝手に騙って語るな  いじめられた事もねーくせに  理不尽に踏みにじられた経験もねーくせに  「命令すんな指図すんな偉そうに、いつ助けに来てくれなんて頼んだ、余計な事してんのはどっちだ!!久保田の話聞いたろ、なのになんでそんな冷静でいられるんだ、心ないのかよ!?関係ないとか言うなよ、お前はすぐそうやって関係ない関係ないって線の外側に突き放して知らんぷりで俺の事だって本当は」  「……勝手にしろ」  不毛な口論に終止符を打ち、黙って部室を出て行く。引き戸が乱暴に閉まる。  麻生を追いかけようとして、しかし腰が抜け、その場に膝からへたりこむ。    『制服に擦れて痛いんじゃないか』  あんな事言うから  あんな    「………卑怯だ………」  耳朶までカッと熱くなる。  疼く胸を庇い、拗ねて膝を抱え込む。   俺は、たぶん、麻生は無条件で協力してくれる応援してくれると信じて疑わなかったのだ。  同級生だから。同好会の仲間だから。友達だから。二度も助けにきてくれたから。だから今度もいちいち確認なんかとれなくても、黒幕捜しに乗り出した俺を助けてくれると信じて疑わなかったのだ。  「……はは。ひとり思いあがって馬鹿みてえ」  一人前に探偵気取りで。  探偵には助手が付き物だから。  麻生ならはまり役だと、そう思って。  「……………ゼッコーしてやる」  体の火照りはまだ引かない。  器用に安全ピンを取り外す指の残像と感触が消えず、学ランが包む肌をじれったく苛む。   戸棚に追い詰められた時、恐怖と一緒に不可思議な高揚と動悸を覚えた。   麻生の顔が近くて。顔が熱くなって。視線と吐息が密接に絡んで。  目が、放せなくて。    めちゃくちゃに頭をかきむしり悶々と膨れ上がる妄想と煩悩を払拭、とっくに立ち去った麻生に罵詈雑言を浴びせる。  「ーーーーーあーいいさいいさ、そっちがそのつもりなら上等だ勝手にするさ、お前の協力なんかあてにしねーよ、俺一人で黒幕突き止めてとっちめてやる!!古今東西の推理小説読み漁った部長をなめんなばーか、お前なんかいなくても俺にはポアロとホームズと明智と金田一と十津川と浅見と火村と江神と犀川と京極堂と猫丸先輩が憑いてる、名付けて一人JDCだ!!」  この時は気付かなかった。  麻生との間に生じた軋轢が、後になって、あんなふうに俺たちの関係を変えてしまうだなんて。      そして運命の日がやってくる。  俺は最悪の形で、「あの人」の正体と麻生の本性を知る事になる。

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