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エンドロール
「麻生センセ~~原稿の息抜きにホラームービー鑑賞会しようぜ~~」
「俺いま風呂あがって本読んでんだけど。貴重なプライベート時間邪魔するなよ」
「ポテチよし、サラミよし、缶ビールよし、クッションよし」
「聞いてねえ……」
「年に一度のハロウィンだぜ、このまま寝ちまうのツマンねーじゃん。俺は原稿三昧で仮装なんてする暇ねーし、お前は30分前に帰ってきたばっかだし。週末なんだしたまには付き合えよ、なっ?ダース買いした缶ビール冷蔵庫でキンキンに冷やしといたから」
「『気が利くだろ』ってドヤ顔やめろ、ぶん殴りたくなる」
「お前の好きな銘柄だぜ」
「……わかったよ」
「さっすがセンセ、話がわかるゥ~」
「端に詰めろって、足広げんな邪魔」
「再生前から口うるせーヤツ」
「俺の給料で俺が買った俺のソファーなもんで。占有権の主張は正義にかなってんだろ」
「はいはい詰めましたよこれで満足か、小姑かよ」
「で、なに観んの」
「『トゥルース・オブ・デア』」
「どんな話」
「見てのお楽しみ……って言いてェけど、さわりだけ説明するな。アメリカのバカな学生が春休みにメキシコ行って、最終日に訪れた廃墟の教会で『真実か挑戦か』ゲームをするんだ。その最中に学生たちをガイドしてきた男がトンズラして、アメリカに帰った学生たちにも異変がおきるってティーン向けB級ホラー」
「ホントそーゆーの好きだよなお前。たまには高尚なの観ろよ」
「原稿の息抜きに頭からっぽで観るならこーゆーのが一番いいんだよ」
「『真実か挑戦か』ってなに?聞いたことねーけど、あっちじゃメジャーなゲームなの」
「麻生センセにも知らねーことがあるんだ、なんか安心。俺も初耳だけど」
「お前って心からムカツクな」
「あらすじに書いてある。えーと、何人かで集まって順番決めて、1人が『真実か挑戦か』って質問する。聞かれた相手は必ずどっちかを選んで実行しなけりゃいけねー。真実だったら秘密をばらす、挑戦だったら無茶振りにこたえる」
「屋上のフェンスを目隠しして歩くとか?」
「鬼畜な発想」
「酔わせねーだけ優しいだろ」
「手ェ縛るーとか言い出さねーだけ善人なのかなんなのか……んじゃいくぞマウスポチ」
「へー、こーゆーゲームなのかおもしれー」
「疑心暗鬼渦巻く人間関係破壊ゲームだな」
「パーティーでやりゃ盛り上がりそうだけど慎重に選ばねーと致命傷負っちまうな、これまで何回浮気した?とか」
「浮気した前提なのか」
「言葉の綾ってヤツ。俺たちもやる?」
「……今?ここで?」
「いいじゃん年に一度のハロウィンだし。ちょっとした余興だよ余興」
「ガキかよ馬鹿馬鹿しい」
「なんか質問されると困ることでもあんの、ばらしたくねー秘密とか言えねーマニアックな性癖とか」
「は?ねえよ」
「じゃあいいじゃん俺もできるだけ正直に答えるから、フェアプレイ精神でいかなくちゃな。それともセンセは口先だけ?人の裏かくのに長けてるようで本当は」
「『できるだけ』じゃねえ、やるからにゃ『必ず』だ。いいな?それならのった」
「よっしゃ。先方後方かジャンケンでいいか?じゃーんけーん」
「「ぽん」」
「俺の負けーーーーーーーーーー!しかたねえ好きな方選べ」
「先」
「だと思った」
「このゲーム先方が絶対有利だろ、初速で無茶振りできる」
「ぐぬぬ」
「降参すんなら今のうちだぜ、土下座で謝りゃ許してやる」
「やだね」
「わかった。じゃあ……『真実か挑戦か?』」
「真実で」
「今まで経験したセックスでいちばん気持ちよかったのは誰と?どんなの?」
「だろうと思った畜生クールな顔してムッツリドスケベが!!」
「できるだけ正直に答えるって言ったよな。しょっぱな約束破るのか?がっかりだよ秋山、お前がそんな奴だったなんて。可愛い読者たちもさぞ幻滅するだろうな、秋山先生サイテー、こーゆーどんでん返しは求めてない望んでない、伏線回収しないで投げっぱなしとか作家として終わってる……」
「わかったよわかったってひと思いにぶっちゃけりゃいいんだろ!?はあ……」
「どうぞ」
「………その、最中は毎回よすぎて途中でわけわかんなくなっちまうからちゃんと覚えてねーんだけど………全部っていや全部だし。お前の責め方ねちっこいから。一番気持ちよかったのはしいていうなら一昨年のアレか、喧嘩のあとお互いむきんなって変に燃えちまったの。玄関で服着たまんま……皺んなるって言ったのに強情張って脱ぎやがらねーし」
「燃えたろ?」
「不覚にも」
「声すげーデカかった。隣に聞かれるんじゃねーかヒヤヒヤした」
「うるせえばか。聞こえたならお前のせいだ、壁に手ェ付かせてガンガン責めっから……あ゛―――――あ゛――――――――言ったぞ満足かよ、じゃあ次俺の番な!『真実か挑戦か?』」
「挑戦」
「砂吐くほど甘いセリフ」
「そうきたか」
「クールでドライな監察医で売ってる麻生センセにゃ刺激が強ェか?潔く降参認めりゃ許してやっても」
「お前が書いた本なら『愛してる。』が何ページに何回か出てきたか、全部言える」
「~~~~~~~~~~~~~~それは反則だろ……」
「耳まで赤いぞ」
「るっせ、次々。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「『真実か挑戦か』」
「挑戦」
「人生最高の殺し文句」
「すっかり読めたわパターンが。トイレいい?」
「逃げんな」
「おまっ、いきなり足ひっかけんなコケんだろあぶねーな!?わかったわかったって、ちゃんと言うから耳かっぽじってよーく聞け」
「どうぞ」
「スクワット十回していい?」
「蹴るぞ腰」
「あーーー……んん゛ッ、よし」
「どーせまた呼び捨てだろ、俺の機嫌とるときゃ絶対に」
「お前がいてよかった」
「……だけ?」
「お前がいて……ダチでいてくれて」
「惜しい」
「っ、お前のこと下の名前で呼んでいいの俺と聡史と後藤さんと唯ちゃんだけだから!」
「結構いるじゃねーか。あと、手ぇだすの反則」
「眼鏡がずれてたから直してやろうとしたんだよ有り難く思え。……これでいいか、俺的にはめちゃくちゃ頑張ったんだけど」
「人生最高っていうにはな」
「行間を読んでくれ」
「しかたねえ、及第点くれてやる」
「待て!待って!もう一回チャンスくれ、まだ編集にも言ってねーとっときのネタバレかますから!まかり間違ってもネットに書き込むなよぜってえ秘密で頼むぞ!」
「?お前が選んだのは挑戦」
「……新作の主人公の名前、ユズルに決めた。ユズルにはダチがいて……高校時代に出会って大学で付き合い始めて、今は一緒に住んでる」
「……続けろ」
「パートナーの名前はトヲル。物語はハッピーエンド、誰も不幸にならねえよ」
「……今のはちょっとぐっときた」
「ってもプロットに手ェ付けた段階だから最後まで突っ走れっかわかんねーし、途中で息切れしちまうかもしんねーしで目途が就くまで言いたくなかったんだけど、お前は好きとか愛してるじゃOKださねえし、切り札使うしかなくなった」
「ミステリー作家の秋山透センセが恋愛小説に初挑戦、イチ読者として楽しみが増えたな。ネットに書きこんだら話題になる。で、トヲルの性別はどっちだ」
「内緒」
「わかった、次で聞く」
「ずりいぞ!?てかお前さっきから挑戦一択じゃん、ゲーム面白くなんねー。そんなに言いたくねェことでもあんの」
「さあな」
「ここ数年限定でも……一緒に住み始めてから持った秘密でも」
「聞いたら後悔する」
「わかんねーじゃん……後悔するかもしんねーけど。とにかく次は真実な」
「強制したらゲームじゃねえだろ」
「どうすんだよ続行不可能でゲームオーバーじゃん!!」
「しかたねえ、次はお前が選べ」
「それじゃ主旨が」
「いいよ。従う」
「じゃあ……真実を頼む」
「どんな真実が欲しいの」
「ガマンしてる?」
「…………は?」
「監察医の仕事、しんどいのガマンしてんのかって聞いてんの。監察医って少ねえんだろ?前取材させてもらった時に調べたから、都内で稼働してる人数はおおかた把握してる。解剖するの……キレイな死体ばっかじゃねーだろ、見てるだけでも辛くなるようなのも中にゃあるだろうし……余計なお世話ならいいけどベランダ出て独りで煙草喫ってるときとか夜中に起きてため息吐いてる時とか時々辛そうに見えっから、ホントんとこ一回ちゃんと聞いときたくて」
「そんなんでいいのかよ、てっきり浮気の有無聞かれるかと身構えたのに」
「俺だって知りたくねー事あるよ、だから今すぐ知りてーほうを優先した。で、どっち?今しんどいか、俺にぶちまけて楽になりてえ秘密はあるか」
「…………そうだな。少しだけしんどい、かもな」
「やっぱり」
「今度は俺。『真実か挑戦か』」
「真実」
「……俺がうそつきでもいい?」
「ああ」
「うそつきでも好きか」
「正直ぶん殴りてーけど今さら嫌いになんの難しいし、今んとこお前と飲むビールが一番うまくて、うちでお前と観る映画が一番楽しいからチャラにしてやる。B級ホラー観てる時に何でコイツらわざわざ独りになりたがるんだとか白けるツッコミすんのは勘弁だけど、様式美の概念を尊重してくれ」
「お前と幸せになってみても、いいか」
「人生最高の殺し文句、隠し玉残ってたのか」
「残弾はたくさんある、それを全部見せるわけにゃいかねえ。どんなに好きで信じたいヤツでも、だからこそ言えねーことは沢山ある。なんでも言い合える親友だとか恋人同士だとかみんな嘘がねーのを喜ぶけど、自分の心臓にメス入れて、ドロドロした真っ黒い血のかたまりを見せて、相手に全肯定強制するようなまねできねえよ。ずっと好きで好きでいたくたって、馬鹿正直な相手が俺の分まできっちり被ってしんどい思いすんのわかってて心臓の膿をだしきっちまえるヤツばっかりじゃねえんだよ。残念だけど、開き直っちまうけど、これが俺なんだよ秋山。俺は間違っても清廉潔白な人間じゃねえし性善説を全肯定する聖人君子でもねえ、セックスを憂さ晴らしに使うような最低野郎なんだ」
「最低なのは今に始まったことじゃねーだろ」
「……結構な回数絶交されよな」
「最低年一回」
「今は本音で話してる。俺が惚れてるのは……この先ずっと一緒にいたいのはお前だけだ、秋山」
「んじゃ話はきまり、次は二人で挑戦な」
「何に?」
「幸せになってみること」
「…………」
「お前勘違いしてるよ。俺だって、俺のほうこそお前が思ってくれてるような善人じゃねし聖人君子でもねェ。今だってわざと違う質問ふってためしたのかもしんねーじゃん。したら策士だよな、推理小説に出てくる犯人の思考トレースだ。実際お前が気付かねーんだから上手くやった、お前の反応知りたくて名演技でカマかけたんだ。直球ぶん投げたらかわされるから変化球でいくしかねえって」
「秋山」
「一緒に汚れてやってもいいけど、死ぬほど痛てえのガマンして心臓切り開いて見せてほしいなんて思わねー。お前のペースでいい、嫌なら全部は見せなくたっていい。大事なヤツにまるごと曝け出すのが誠意なら、大事なヤツを傷付けんのがイヤで、それで自分が傷付くのも嫌で、痛くて恥ずかしいこと隠そうとすんのも対岸の誠意だろ」
「ただ単に嫌われたくねー安っぽい保身だよ」
「いいよそれでも、清く正しく美しく生きられねーお前がそっちを選ぶなら付き合うさ。長くて短い人生、一緒に歩くってのは泥を踏むことだろ?泥ハネを笑って跳ね返せる位ぇしぶとくなることだろ」
「…………」
「……あーーくそ、柄にもなくシリアスにキメちまった。マジ語りは性分じゃねえのに……映画終わったしもー寝るか、結構楽しかったな」
「秋山」
「なんだよ」
「お前カウンセラーの才能あるぜ、転職しないか」
「小説家が天職なもんで慎んで辞退します。勧誘サンキューセンセ、さっさとベッドいこうぜ」
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