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第3話
「渉」
俺の声に気づき、振り返る渉
俺の顔を見た途端、嬉しそうに駆け寄ってきた
「…渉?」
「サーシャ」
「うん?」
「彼女、出来たんだ」
「…え、」
渉の言葉に頭を殴られた様な衝撃を受けた
渉に、彼女
あの事件をきっかけに、女を抱かなくなった渉
女のことなんて嫌いになったと思ったのに
「百合、こいつがサーシャ。アレクサンドルって言うんだ」
渉に隠れて見えていなかったが、その彼女を連れてきていたらしい
渉に紹介されて渉の後ろから姿を見せた女は、小柄で可愛らしい顔をしていた
「百合です。サーシャくんの話はよく聞いてます。渉と、仲良いんですよね」
女は人の良さそうな顔をして笑ったが、俺は笑い返すことはできなかった
お前がサーシャと呼ぶな
その愛称は、渉だけに許したものだ
醜い嫉妬が心を渦巻いていくのが分かる
一緒に帰ろうという渉に断ることもできず、呆然と2人の後ろを歩いて帰った
時折振られる会話に慌てて頷く俺に今日変だな、って渉が笑っていた
家の前に着き、渉の家に入る2人を見ていられず自分の家に駆け込んだ
渉の部屋は俺の部屋の隣
耳を塞いでも2人の笑い声が聞こえてくる気がして、爆音で音楽を掛けて誤魔化した
泣いて喚く気にもなれず、ぼーっと天井を見上げる
3年間、渉に抱かれてきた
性欲の捌け口でしかないことは重々理解していたが、それだけ長い間体を重ねていれば自ずと情が湧くものだと思っていた
だから渉は俺に痕を残すし、後処理をして送り迎えをしてくれるのだと
自惚れていたのだ
本当に馬鹿でどうしようもない奴だ、俺は
俺はもう、用済みになってしまった
渉は彼女と順調なようで俺の部屋に忍び込むことがパタリと止んだ
その分昼間会いに来て、遊びに誘われることがあったがその度に嘘をついて断った
渉は非情にも俺に幼馴染の関係に戻ることを要求しているのだ
渉への恋心を断ち切れない俺にはそれがひどく辛かった
だから、自棄になった
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