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第7話

これってもしかして嫌がらせ?いや、でも嫌がらせすんのに、男のナニ握って扱ったり出来る…? 無理無理無理無理。そないな冒険したないし…って十分してるよな。 「…何?黙って…何か気に入らんか?」 今だに俺の上から退こうとせん風間が、片眉をクイッてあげて顔を近づけてくる。 気に入らんやと?当たり前や。 性欲に負けたんは認めるけど…!!さっきまで人殺しかけてたくせに、今は男のナニ扱いてるって何ですか? 「やっぱり…お前変態や」 そう吐き捨てた俺を見る風間の顔は変わらん。 変態で結構。他人にどない思われようが、関係あらへんって感じ。 「変態にイかされて喘いだん誰や」 ぐうの音も出んてこのことやわ。 半袖のシャツから伸びた、風間の細いくせに筋肉のしっかりついた腕。それに残る無数の引っ掻き傷。 リアル過ぎて反論出来ひん。数十分前の、快感に負けた俺を殺しに行きたい。 「…これでとーか交換、十分やろ」 身体の熱が冷めてきたら、やたらと太陽の熱さを感じる。俺の上でマウント取る風間を押し退けて、身体を起こした。 情事の後のけだるさが嫌い。変に虚しいのが嫌。 あ〜あ、やっちゃったみたいな。 今回のんは、ほんまに”あ〜あ、やっちゃった”って感じ。 「自分ばっかり良くなって終わりやないやろ」 「は?」 「抱かしてもらわな」 抱くってなに?ぎゅーっとやなくて…? このとき俺は、史上最高の間抜け面を風間に曝した。 このまま猛獣と一緒におったら、マジで掘られる。 身の危険を感じて“無理や、他当たれ。お前なら女でも男でも喜んで足開く”って言うたらオマエやないと意味ないって、真顔で告白。 全くもって、ときめかんわ。微塵も! そりゃ気持ちよかったよ、善がるほど。だからって、ケツで善がる訳ないやん。 ケツやでケツ。 掃除機で水撒きせぇ言われてるくらい、かなり無謀。役割間違ってんのが明らか。 風間残して屋上から出て、階段おりながら考える。 何で俺にそんな執着すんの。 昔からの知り合いやない。 あない目立つ奴知らん。遊んだこともない。知り合ってからも、まともな会話してない。 風間龍大。名前しか知らん。 あいつかて俺の名前しか知らんはず。 やのに、猛獣のくせに、縋りつく瞳。 俺に何望んでんねん。俺みたいなんに縋ってどないすんねん。 「あっ!威乃!」 訳判らんまま悶々と廊下歩いてたら、背中突き刺す声。 振り返ると、彰信がこっち向かって走ってきてた。 「何や、彰信。一人か?」 「オマエ授業、終わったで。ハルめちゃくちゃ怒ってたし。携帯シカトしてどこおったん」 「寝てたんやて」 言えるか。男に股開いて扱かれてたなんか。 「そー言えば威乃達、昼休みの乱闘見てたんやろ?」 「乱闘?ああ、見た見た。スプラッターな」 「やられた奴、みんな病院やて」 そりゃありゃ病院やろ。斎藤の手に負える範囲越した乱闘やわ。 「おい、秋山」 二人して仲良ぅ歩いてたら、それを邪魔する野太い声。振り返ってチッと舌打ち。 ヤバいのに会うた。三年のもう一人の頭。前山享。東条とてっぺん争いしとる奴や。 なんや、中学から柔道やってるとか…。なるほどな、ガタイもちょっとやそっとでもピクリともせん感じ。 彰信が誤解しよったみたいに、俺が東条ヤッたってコイツも誤解しとるんやないか? 東条おらん間に片っ端から片付けて、てっぺん取る気やろか。 最悪や…コイツとはヤるん避けてたのに。 ハルが一回ヤって、俺にやんなよって忠告してきた。かなりヤバいって事やと思う。 「威乃…」 彰信が、俺の制服の裾をギュッと握ってくる。ガキかオマエは。 「俺知ってるやろ」 何そのセリフ。知らん言うたらどうなるん。 「噂はかねがね」 「お前と名取が二年仕切って、好き勝手しよるらしいな」 ほらね、やっぱりね。人の噂信じたらあかんで。俺、仕切ってないし。 ハルは頭になってるけど、俺はハルと連れやってるだけで何もしてへんし。 いや、それは嘘なるな。したよ、暴れたよ、存分に。 その結果、腹が腐ったくだもんに変身や。 「何なん?喧嘩はイヤやで。今は不利なるやん。俺ボロボロやねん」 「…ほな、対等にせなあかんなぁ〜。なら、俺がお前の横の奴とガチでやろか」 ニヤリと笑って、俺の隣の彰信をロックした。それに彰信は壊れたオモチャみたいに、ひたすら首を振った。 当たり前や。彰信は喧嘩はギャラリー専門やねんから、こんな三年の大将なんかとヤッたら死ぬわ。 「そないな勝負、結果見えてるやないですか。コイツ喧嘩なんか出来ませんし」 グイッと、彰信を自分の後ろに隠す。それを前山と一緒に来てた奴らが笑った。 「威乃…」 震えながら、彰信が俺のシャツの裾を引っ張る。 どんだけ情けないねんとは思うけど、彰信はヘタレやからしゃーないし、連れは死んでも守るんがモットーや。 が、今は正直しんどい。身体かて普通やないし、腹なんか殴られたら間違いなく死ぬ。 「日ぃ改めません?今日はやめときましょ」 「逃げんのか、腰抜け」 「あぁ?」 人が下手に出てたらこれかよ。 東条おらん間にてっぺん取ろうって奴が、どんだけエラいねん。 「威乃…あかんて!」 彰信が腕をグッと引っ張って、必死に止めてきよる。 沸点の低い俺がブチッと行くのを、必死こいて阻止。 「彰信…お前逃げろ」 「え?」 と彰信を見た瞬間、俺の身体は彰信から離された。 あっちゅー間。 「威乃!!」 「っ!離さんかい!!」 盾を失った彰信が、慌てふためいとる。 俺も戻ろうとしてんのに前山の仲間が、がっちり後ろから俺を捕らえて離さん。 「彰信!逃げろ!」 ヤられてまう!逃げろって言うのに、彰信の前に前山が立ちはだかって、彰信の行く手を遮った。 彰信は、今にも腰が抜けんばかりに怯えて、前山を見上げる。 「彰信!!」 守らなあかん! 家族なんかより、女なんかより、何も言わんで一緒にアホな事してくれる連れを…。 守らなあかんのに!!! ゴツッて鈍い音して、彰信の身体が壁に叩きつけられた。 彰信がゲホゲホ咽せながら立ち上がろうとするんを、前山が蹴り上げる。 「やめろぉぉお!!!やめんか!!ふざけんな!!てめぇ!絶対にぶっ殺してやる!絶対に殺してやる!!」 やめてくれっ…!! 廊下には、初めから人払いしてたんか誰もおらん。 おったとしても、こんないざこざ、誰も巻き込まれたいなんて思わん。 このままじゃ、彰信が…!!! フッと視界の端に見慣れた影。廊下の向こう、だいぶ遠くにおった奴。 俺はそれを捉えると、迷うことなく叫んだ。 「風間ァ!!彰信助けぇ!とーか交換じゃぁぁあ!!」 「はぁ?何助っ人呼んでんねん」 俺を捕らえてる奴が、呆れた声あげて腹に膝蹴り入れてきよった。 だから腹はやめぇ…。うずくまる俺の視界に、見慣れた男。 すでに、前山と向き合ってた。 犬みたいに早い奴。呼ばれたら、飛んでくる見たいな。 「何やお前」 「等価交換…交渉成立やな」 風間がそう言って、前山を見る。 その目はやっぱり牙剥いた猛獣で、前山がビクッとしたん俺は見逃さんかった。 「彰信の…敵とれ、せやないと…交渉不成立や」 そう言った俺の言葉を聞いてか聞かずか、風間の拳は前山を捕らえてた。 半端ない強さ。荒さもない、隙もない拳。 前山の拳なんか掠りもせん。前山の仲間が俺を捕まえんの止めて、加勢に入っても風間優勢。 こないな喧嘩見たことない。退屈そうに牙剥いた猛獣が、次々と向かって来る奴を殴り飛ばす。 何人おんの?前山の柔道してるなんて嘘ちゃうの?っていう位、技らしいもんすらかける隙がない。風間は一人やで。 誰も、一切歯が立たん。 コイツ……何者!? あっという間に、前山達は呻きながら廊下の床と仲良うなっとった。 人気ない校舎で良かったわ。 「彰信!」 慌てて彰信に駆け寄ったらズクッて鈍い痛みが腹に走って、倒れる…!と思ったら、風間の胸ん中。 マジで人気ない校舎で良かった!!! 「また腹か」 また言うな!また! 「コイツ、気ぃ失のうてんで」 風間の言う通り、喧嘩の“け”の字も知らん彰信が、ガチでいきなり三年の大将。 無謀すぎる。ライオンと子犬が闘えるか? 今日は彰信が厄日やな。 風間は彰信を背中に負ぶると、そのまま、また保健室に連れて行った。俺ももちろん同伴。 救急隊みたいな奴や。 斎藤は俺ら見て、またか…と疲れたように呟いた。 ちゃうで、まだあの廊下にはゴロゴロしてんねんで。これからやで、斎藤。 結局、彰信はただビビって気ぃ失っただけで、大したことないらしい。 斎藤が彰信は帰りは送るからと俺らは保健室を放り出されて、ほな帰ろうか思ったら風間の腕に捕まった。 「忘れたんか」 「……え?いますぐ?」 逃げたろう思ったのに、”とうかこうかん”。 「逃げるやろ」 バレてるやん…やっぱりそないに甘ないってことか。 「何すんの?」 「言うんか?ここで」 「アホか…ええわ、オマエん家行こ」 男に二言はない。 何やかんや言うても、彰信を助けてくれた貸しがある。貸しは返さなあかん。 何でも借りたら、即返ししとかな。これ、常識。 またハルとかに捕まって、色々言われるんウザいから、風間と学校抜け出した。

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