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第9話

目が覚めた時、見慣れん部屋でキョロキョロした。いつの間にか寝てもうたらしい。 薄暗い部屋。でも匂いは風間の匂い。動こうとしたら、腰と足に絡みつく何かに阻まれた。 ガッチリ風間に捕まえられた身体。腰に廻された手と、絡みついた足が俺の動きを封じる。 馴れた双眸が、ベッドルームやって事を認識した。 風間サイズのデカいベッド。それだけ。この部屋も、俺から見たら贅沢な広さ。やのにベッド一つ。 「…威乃?」 ゴソゴソ動く俺を宥める様に、風間が頭撫でてくる。 俺は猫か…。 「…起きたんか」 風間がゆっくり起き上がって俺を見下ろしてきて、思わず固まる。 「…何でお前、裸やねん」 ビビるやろ。 辛うじて下はズボン履いてるけど上は細い身体にガッチリついた筋肉で覆われとって、華奢な俺からしたら羨ましい限り。 「暑かってん…。威乃…飯食う?」 暑かったら、俺をそないに抱き締めて寝るなや。 突っ込みたかったが、寝起きにギャーギャー言えるほど俺の血圧は高くない。 「今…何時」 風間は枕元にあった携帯をとって、”あれ?九時やて”と呟いた。 九時って…。 「九時!?」 ガバッと起き上がって、風間の携帯奪い取る。 携帯のディスプレイに無機質に映し出された、21:03の文字。まさしく九時…。 「…って、どんだけ寝てんの…」 「腹減ったやろ、飯作るから風呂入れ」 そう言うと、風間はベッドから出て行った。 不覚にも、こないに寝てまうなんて悲しなってくるわ。 アイツ、コーヒーに何や、得体の知れんもん入れたんやないやろな。やなかったら、ベッドに運ばれてくる時に気がつくし…普通。 「威乃…忘れもん」 グダグダ考え巡らせてたら顎をクイッと上げられて、触れるだけのキス。 「ゆっくり風呂入れ」 一言残して立ち去る。 って、何?今の。堪忍して欲しい。 アイツが与えるもん、全部甘すぎて胸焼けする…。 教えられた場所に行って、またドン引き。アイツどこのボンボンやねん。 風呂入れってやたらフワフワのタオルと着替え渡されたけど、目の前に広がるんは銭湯か? 軽く10人は入れる。しかも、檜のええ香り漂っとるし。 広いバスルームに、これまたどえらいでかさの檜風呂。和風!って感じで、ドアまで格子戸。 「温泉気分やな」 ザッと服脱いだら、これまたデカい洗面所の鏡に細っこい身体が映し出された。 アイツの裸見た後、我がの身体見たらヘコむな。 「あ〜まだ腐ってる」 腹に蓄えた、どす黒く変色した場所。二度と色が普通にならんのやないか?って思ってまう。 「…入ろ」 誰に言うわけでもなく、檜風呂に飛び込んだ。 檜風呂は、今まで味わったことない気持ち良さ。身体の芯から癒されますって、こういう瞬間かな。 檜の浴槽は足延ばしても、どの壁にも足届かんくて思わず軽くばた足。ガキがはしゃぐみたいに、地味にはしゃぐ。 「贅沢やな……アイツ」 ボソッと呟いた言葉は、響くことなく、檜に飲み込まれた。 存分に堪能して、風呂あがった時にはのぼせてヘロヘロ。 やっとの思いでリビングに辿り着き、フワフワのソファにダイブした。 「何や長風呂やったな」 風間がミネラルウォーターの入ったペットボトルを、俺の火照りきった頬に当てる。 それが熱をそこだけ冷まして、また何とも言えん満足感。 「ええなぁ〜檜。長風呂にもなんで。檜やし」 「のぼせてたら意味ない」 うーん、ごもっとも。でも、のぼせる価値あるし。 「飯出来たぞ」 風間に言われて見ると、でっかい薄型テレビの前にあるガラスのテーブルに並べられた料理。 「…お前何もん?」 思わず漏れた問いに、風間は“風間龍大”と呟いた。アホか…知っとるわ、お前が風間龍大ってことくらい。 檜風呂であちこちギスギス痛んでた身体も癒され、目の前には空腹に染みる、ええ匂いさした料理。 とんかつ、春雨の中華サラダ、冷や奴、焼き魚。コンビニ弁当が主食の俺に、久々の手作り料理。 しかも風間龍大特製。…そこは微妙。 「お前、何でも出来んねんな…いただきます」 目の前の飯に我慢ならんくなって、一気に料理に箸つける。 「何でもやないけどな…いただきます」 いや、何でもやで。 喧嘩は強い、見た目もパーフェクト。中身は何やおかしいけど、料理まで出来て、こないなマンション一人暮らし。 羨ましい限りやのに、やっぱりコイツの目は目の前の贅沢な暮らしより俺にこだわっとる。 「お前…バイトとかしよるん?」 「俺?してへん」 やろうな。金にも困ってなさそうや。 「お前は?」 「してるに決まってるやろ。居酒屋や。昨日あんなんあったから、四日ほど休みもろうてんねん」 「……へぇ」 「おっ…これ美味い」 春雨の中華サラダ。夏にはええな、この酢ものみたいな味。こういう味好き。 って…ガツガツ飯食いながら、一瞬冷静。 俺、なんでコイツと飯食うてんの? 冷静なってもうたら、次々と餌付けされとるんやないかとか、あらぬ不安が蘇ってくる。 ソファで眠りこけた時かて、あない無防備になってまうなんて、一生の不覚。有り得ん失態。 「どないしてん?」 箸の止まった俺に、風間が問いかけてきて我に返った。 とにかく腹が先! 何もあらへんと言葉返して、またガツガツ飯を食うことに専念した。 たらふく頂いた。 出されたもんは残すなが、ばばあからの教え。律儀に守るあたりが、情けない。 飯食い終わって、風間は手際良く片付けをしだした。それ見て、一人暮らしが長いとすぐ分かった。 俺はテレビ見ながら、すっかり寛いでる。何これ…。 昨日逢ったばっかりの年下の奴に助けられ、キスされ、手コキでイかされ、また助けられ、今は家で寛いでる。 おかしいぞ…。 何でこんなまったりしよるんやろ。 何や居心地悪なってきて帰ろうかと立ち上がったら、フワリと身体が浮いた。 あれ?飛んでる?んな訳あらへん! 「何さらすんじゃ!離さんかい!」 いつの間にか片付けの終わった風間が、俺の身体を持ち上げとった。 「逃げようとするやん」 「帰んねん!」 「帰ってええなんか言うてへん」 何でオマエの許可がいんねん!と怒鳴ろうとした口を、風間が人差し指を当てて制する。 「大声出さんでも聞こえる」 「っ〜〜ムカつく!」 子供か俺はっ! 風間は片手で悠々と俺を抱いたまま、ソファに腰をおろした。 華奢や、ガリや、だからってこんな扱い。何でいっつもコイツのペース。気がついたら主導権コイツ。 年下のくせにっ! 「さっきは気許してたのにな。餌やったらもうこれか。やっぱり猫やな」 言いながら髪にキス。コイツ、ほんまにすること全部甘い! 「帰りたい」 「帰せへん」 何でやねん!言う間もなく、風間は当たり前のように俺の唇に吸い付いた。滅茶苦茶や。 でも、ただ重なっただけやのに、ゾクッてする。 「すぐエロい顔なる」 「…お前が、させんねん」 好きでエロい顔しとるんやない。お前がさせんねん。 また重ねられた唇の隙間から、ニュルッて舌が入ってきた。咥内を弄る舌に、腰が震える。 絶妙…ってかテクニシャン。 「…あ!」 風間のでっかい手が服の中に入ってきて、胸についてる無意味な飾りを指先で弾いた。 「……いやっ」 いやって…俺キモイで……。 縦横無尽に許可なく人の身体貪って、何さらすねん!って殴りたい。殴りたいのに、腰のあたりにじわじわくるゾクッとする快感に、身を捩るのが精一杯。 「…か、風間ぁ……!」 両手で風間の身体を押してみても、ピクリともせん。俺が力を全く出せてないんもある。 でも、その間も風間は首に舌這わして、軽く吸いついてくる。息が荒なる。 下半身に熱が集まるんが、嫌って位判る。 「威乃……」 名前囁かれて、耳に直接キスされて、耳朶をやわやわ甘噛み。 もうええ。 やめてほしい。 壊れそう。 借りたスウェットも捲り上げられて、胸でどう風間の指が動いてんのか視界の端に入ってきて、ギュッと瞳瞑った。 見たない。 拷問みたいな羞恥心しか出ん。拷問や思ってんのに、快感には勝たれへん自分。 はあはあ女みたいに喘いで風間にしがみついて、離れたいのに離してほしないみたいな。 「抱きたい…威乃」 耳元で囁いてるけど、胸の飾り弄る手は休めんで攻められてる。 「…嫌や…ケツは嫌」 「痛ないから」 やったことあるんか!どんな確証持ってのその答え!? 「イヤや……!」 イヤイヤ子供みたいに言うけど、言うに決まってる。 マウント取られてケツまで差し出したら、プライドズタズタ。ちんけなプライドでも、俺なりの意地がある。 「エロい顔してるくせに、わがまま」 エロい顔とどんな関係あんねんっ!そんな俺の抗議もねじ伏せるみたいに、風間は俺のズボンに手をかけた。 「風間!」 焦った俺なんか、すでにフル無視。風間は躊躇うことなく、一気にズボンとボクサーパンツを脱がした。 照明を落とすわけでもない明るい部屋で下半身剥き出し、上は捲り上げられて、とんでもない痴態。 「…やだ」 目瞑るしか出来んかった。 熱が集まった中心が、頭擡げてヒクついてんのも分かる。 そんな自分を見たなかったし、そんな自分を見る、風間の目を見るのが怖かった。 色香漂う雄の目で、射抜くみたいに見てるんや。…絶対。 あの目に射抜かれたら、猛獣に睨みきかされた獲物みたいに動けんようなって、何もかもよーなりそうで…怖かった。 「威乃、目開けて」 「あ、開けれるか!ボケ」 アホか!こんな醜態曝さして、まだ何させんねん! 「威乃…」 「……嫌や」 威乃、威乃と人の名前呼びながら、それでも指先は胸の飾りを指の腹で撫で回し身体のラインを辿るように、下へと下りていく。 ツーッと降りた指が腰骨をなぞれば、中心の熱の塊が反応してピクリとした。 もうイヤや…。 気持ちええより、めちゃくちゃ居心地悪い。どないしたらいいか分からんし、抵抗せん自分に困惑。 何、勝手に身体触らしてんの。 何、服脱がされてんの。 聞いても答えなんか出ーへん。ソファーに寝かせられて、ソファーからだらしなく落ちた片足。 もう片方の足は背凭れにかけられ、間には風間。股までこないに開かされて、情けななる。 「反応してんな」 そう言って、腰骨辺りで焦らしてた指が幹を撫であげ、先端の割れ目を潰すようにする。 ゾクゾクと背中に電気が走り、ぷくっと溢れ出す蜜まで見てもないのにリアルにわかる。 それに屋上での絶頂を思い出し、期待にか恐怖にか腰が揺れた。

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