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第41話
オートロックを解除してポンと中に入る。帰って来た場所。それは龍大のマンション。
俺はあの草臥れた塒を出た。地域的にもあんまりよぉないし、おかんがあんなんなって収入が激減したんもある。
俺のバイト代だけじゃ、暮らしていかれへん。で、挙げ句に取り壊しの話が出たからや。まあ、あの状態じゃな。
いつもの階のいつもの場所。鍵を差し込んで、おっとなった。ガチャっとドア開けたら、ええ匂い。
「ビーフシュー」
呟いて、るんるんで部屋に入ってリビンクのドア開けたら、ビーフシューの香りが更に濃くなる。
「おかえり」
オープンキッチンから龍大が顔出して、俺はそのまんま龍大に飛び付いた。
「仕事は?」
「今日は早よ終わった」
ぎゅーっと抱き付いて、龍大の匂いを堪能。新婚夫婦並みの抱擁。
龍大は学校を退学した。元々、通ったところでなんやあるような学校やない。
勉強らしい勉強もないようなとこや。言うてまえば、高校卒業っていう肩書きだけ。
やけど、俺らの学校いうだけで面接すらしてもらわれへんっていうんもあるとか。反対に、この高校卒業っていうんが就職の足枷になってもうたり。
龍大は、もともと高校に行くつもりはなかったらしい。でも、そのまんま家業に入るんも何かちゃうととりあえず入学したとか。それを聞いて俺は心底、入学してくれて良かったと思った。
もし龍大と逢うてへんかったら…そう考えただけで、ゾッとする。すべてに…。
まぁ結局、このまんま学校におっても時間の無駄やと判断した龍大は、今は梶原さんにくっついて仕事ってか、修行中。
毎日大量に家に持ち込まれる書類は、俺には何のことやら。ある意味、呪文みたいなそれ。
が、元々頭の出来が違うんか俺がアホすぎるんか、龍大はそれを読んでなにやら忙しない毎日。
えーっと…?年上の威厳って…。
「飯、食うやろ?あと3分煮込むから、着替えてこい」
「へーい」
龍大の飯はプロ級。ってかプロ。徒者やないくらいの美味さ。
ハルも美味いけど、そういう美味さとはちゃう。このまんま店とか出来そう。家庭の味とかじゃなく、店の味。でも俺専用。
龍大と飯食って、満腹、ご満悦の俺はそのままお気に入りの檜風呂入って。
あー、これって最上級の至福。
そう堪能する俺を、次は俺の番とばかりに龍大が襲ってきたんは、ふかふかベッドにダイブしてすぐのこと。猫が戯れ合うみたいに戯れながら、次々服を剥がれてく。
あれ?年上の威厳…。そんなもん服と一緒に捨てられて、すぐにぐにゃぐにゃにされる。テクニシャン龍大。
俺はお前が怖い。俺の身体をメス一つ使わずに改造。仮面ライダー真っ青よ?
「ぁあ…や、やだ」
「やだって、言いながら…腰振るんは、威乃」
仰る通りです。龍大の上で、後ろに龍大の熱感じながら、狂いそうな快感に腰振る獣。
はあはあ喘ぐんが止まらんくて、声も止まらんくて、ただひたすら酔いしれる。
「あ、ぅんーっ!!あっ、あっ、…龍大、龍、大、ぁ、好き。う…ぅ…あ、…龍大、好き、好き…あっ!!」
熱に魘されながら、中のぷっくり膨らんだ芽に龍大の雄が当たるように腰を回す。
ぐちゅって後ろが鳴いて、龍大をまだ足りんとばかりに飲み込む。その音に頭を振りながら、逃げられへん快感に震えた。
震えながら只管、快感を追い求める。卑猥な動きで飢えた雌犬の如く、龍大を求める。
「ぅ…っううん…あっ、龍、大…!」
スパークしそうな快感に喉が反る。はくはく、息が出来ひんくらいに辛いのに、腰の動きだけが止まらん。
「…威、乃」
龍大の熱っぽい声に、きゅっと爪先が丸まる。悲しくもないのにほろほろ涙流しながら、一番気持ちええ時を目指して腰を振る。
ぐちゃり、べたべたのぺニスを龍大のデカイ手に握られ悲鳴が上がった。背骨から脳みそまで、突き抜ける痺れに身体が痙攣する。
数回扱かれただけで、待ちわびたてっぺん。
「うぅ…んっ!イクっ!イクっ!!龍大!!もっと、…も、っとぉ…!!」
ビクッと身体が強ばって、びゅくびゅく熱が吐き出される。
うーって唸るみたいな声が出て、身体が強ばる。自分でもハッキリ分かるくらいに、俺の中は龍大を締め付けた。
「ぁ…はっ…威乃っ…」
ガクンと龍大の上に上体を落としたと同時に、龍大が小さい声上げて中に熱を吐き出した。
「…ぁあ…熱い」
灼熱。不快なはずのそれが、気持ちええ。ぎゅーっと搾って、龍大の細胞を一個でも多く飲み込もうと俺の細胞がうねる。
はあはあ荒い息吐きながら、啄むようなキスを繰り返した。
「好き…龍大、好き」
たがが外れたら言わずにおれん。好き。世界で一番好き。
ごろんと横になって、龍大の胸ん中。あー、幸せとか思う自分にちょっと引く。
俺の髪の毛を慈しむ様に、くりくり指に絡ませる龍大。
何も言わんでも分かる。俺の自惚れなんかやない。俺のこと、めっちゃ好きって顔。
それだけで、その顔見るだけで俺はめっちゃ幸せ。
「…龍大」
「ん?」
話掛ければ、チュッと髪の毛にキスが降る。
ちょっと前の俺なら、この状況を見ればショック死するやろうなと思いながら、龍大の鍛え上げられた身体にぎゅーっとへばりつく。
「龍大ってさ、俺に一目惚れなん?」
ずっと気になってた。龍大みたいな壮絶なイケメンが、男に走るくらいの一目惚れ?
インスピレーション、びんびん?いやー、照れるし。
「…あ?」
俺の思いとは裏腹に、何言うてんねんみたいな一言。
あ?とは何や。あ?とは。そこは即答で“そう”やろ。
「いや、だって、龍大さぁ。初め俺のこと聞きたがらんかったやんか」
俺のこと聞きたくないって、意味不明なこと散々言うてたよな?照れやろ?照れ。
「ああ、深入りしすぎたら拐いたなるからな」
「…は?」
何か、物騒な言葉を聞きましたよ?今、めっちゃ物騒なこと言うたよね?
犯罪的な言葉、言うたよね?
「…え?あの、」
「昔から知ってたけど、知りすぎたら欲しなるやん」
は……??
「…ちょ、ちょっと待てー!!!」
ガバッと起き上がり、ごろんと寝たまんまの龍大を見下ろす。
今、聞き逃したらあかん言葉をサラリと言いやがったな?おい。
「昔から?」
知ってる?
「え?誰を?」
「…威乃」
「え?誰が?」
「俺が」
え?俺がアホすぎるん?それとも、コイツがアホすぎる?
「…は?ちょっと、意味分からん」
「なんで?…あっこやん、どんぐり児童施設」
「ええ!?」
どんぐり児童施設。それは名の通り、児童福祉施設や。
俺が小学校に上がったばっかりかなんかの頃。いや、上がる前か、そんくらいに記憶が曖昧。
その頃に、おかんがぶっ倒れた。夜の仕事で結構な無理が身体にきてたみたいで、勤務中にぶっ倒れた。
そのまま救急車で運ばれて、検査の結果は即入院。子供がおるから入院出来んと喚くおかんの言葉を聞き入れてくれるわけもなく、それくらいに重症やったようで強制入院。
貴子ママと知り合う前で身内も頼れる人間がおらん中、病院から知らせを受けた児童相談所の人間が家にやって来た。
で、俺は強制的に児童福祉施設へ。そんな長ない。知れたある。一月、二月ほど。
いや、もっと短い?それくらいに曖昧。それがどんぐり児童施設やけど…。
「え?…え?」
「おったやん、俺も」
は?…どこに?いや、お前みたいに厳ちぃ人間、おらんかったよ?
いや、記憶力は悪いけど、いや、ないない。いやいやいや。おらんおらん。
「いやいや」
「殴られたで」
「ん?誰が?」
「俺が」
「誰に?」
「威乃に」
……は?
「な、殴ってないよ」
何言っちゃってんの、言いがかりでしょう。俺は、殴ってないもんね!
小さい頃は目もでっかくって可愛い可愛いって評判で、やさぐれてもおらんかった!
「あの頃、仁流会が内紛でも抗争でも大荒れで、車も事務所も襲撃されまくって。俺の警護もままならんから、ちょっと離れた施設に入れられてん」
あ、それでどんぐり。それだけじゃないの?何で、殴ったとかなっちゃってんの?
「まぁ、それで…」
龍大が起き上がり、サイドボードの煙草を取ると銜えて火ぃ点ける。
薄暗い部屋に、ふんわり点る火種。彫刻みたいな龍大の輪郭を、綺麗に浮かび上がらした。
「俺もアホやから、極道の跡取りっていう後ろ楯に粋がって、施設のガキを片っ端から殴ってた」
「…はぁ」
え?俺は殴られた人?俺が、殴られたの?オマエに?ん?段々、わからんよ。
「じゃあ、威乃が現れた」
「あ、俺が後か」
「ガキ殴る俺の後ろから、いきなり飛び蹴りされた」
あー、それ俺。絶対そう。今も昔も蹴りは十八番ってか。
見た目は可愛いのに…というのが小さい頃の評判のおまけ。
「ほら」
龍大が前髪をあげる。綺麗なデコですね…。そのデコにうっすら残る傷痕。
「…え?」
「三針縫うた」
ドラえもーん!!タイムマシ—ン!!!!!
あの頃の俺を殺しに行くから!!龍大やなく、俺が俺に飛び蹴りしに行くから!
ちょっと!!風間組の跡取り、傷物にしてるよ!!俺!!!
「…あ、あの」
「貴様は俺の奴隷じゃ」
「は?」
「血塗れの俺に言うた言葉」
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