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第6話

スワローが凍り付いた一瞬を見計らって手を振りほどき、力任せに頬を叩く。 「お、まえに、無理矢理されるなんて絶対いやだ」 途切れ途切れしゃくりあげ、両手で喉とうなじを庇って立ち上がる。 「実の弟と番になんてなれるか。頭冷やせばか」 壁に遮られた手狭な路地にて、スワローを無慈悲に突き放す。 不意打ちで噛まれないようにうなじを手で隠したまま、火照った身体をひきずって出口へ赴くピジョンの背中に、苦りきった声が浴びせられる。 「なんでだよ」 ピジョンは振り向かない。 兄に無視された癇癪を爆発させ、バスケットボールを力一杯壁に投げ付けるスワロー。 「なんで俺じゃダメなんだよ!!」 「お前だからダメなんだよ」 鬱屈した独白が届いたのか否か、スワローはバウンドしてもどってきたボールを抱えて吐き捨てる。 「関係ねえじゃんそんなの。兄とか弟とかクソくだらねェ、おんなじ股から出たのはたまたまだろ」 「近親相姦だろ」 「だから?」 「血が繋がってるんだぞ」 「かたっぽがα、かたっぽがΩ。最初っから番になる組み合わせで生まれ落ちてラッキーって考えろ、スロットで777だすようなもんだ、金貨がじゃらじゃらバブリーで超ハッピー。ポーカーならフルハウス……はしょっぺえな、ロイヤルストレートフラッシュな確率だ」 「頭沸いてる。どうかしてるよホント」 「堅く考えすぎだぜピジョン」 「俺にお前の子を産めって?俺がお前より劣るから、なにやらせてもダメで二歳下の弟にかないっこないから黙って孕まされてろっていうのか」 怒りが沸点に達したピジョンが振り向きざま弟を睨み据える。 ピンクゴールドにばらけた前髪の下、セピアに澄んだ虹彩の照準を絞り、涙が冴え冴えと磨き抜いた意志を打ち込む。 「ふざけるなよ」 スワローがその気になればピジョンを従わせるなど簡単だ。喉元でもうなじでもとっとと噛んでマーキングしてしまえばい。 強情っぱりな兄と向き合い、サディスティックな笑みを口端に刻むスワロー。 「……いいさ。もうどうにもならなくなるギリギリまで、せいぜいそのツマンねーモラルとやらに絞められてろ」 スワローがそうしないのは力ずくで従わせるだけじゃ手に入らない物を欲しがっているからだ。 酷い顔色で出口をめざすピジョンの手を引き、耳元で囁く。 「教会までもたねーだろ。ビンビンに勃ってやがる」 「ほっとけ」 「噛まねーから」 兄を手懐けるのに慣れた囁き。兄を手懐けるのに慣れた愛撫。 スワローが後ろに立ち、ピジョンの首筋を挑発的に吸い立てる。 シャツの襟ぐりから覗く華奢な鎖に指を絡め、兄の太腿に猛りきった股間を擦り付ける。 「……冷ましてこうぜ」 じゃねーと先生に怪しまれる。

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