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第11話 唐揚げが、大好きだ!
あかん。
これは、あかん。
そして、とても気まずい。
だってつまりは俺、星乃のことをオカズにしちゃったわけで。会社の同僚をそういうふうにしちゃったわけで。
「へぇ、じゃあ、間宮とはクラスが一緒になったこともあるのか」
「はい」
「こいつ、わっるい生徒だったろぉ」
「そ、そんなことは……」
あはははは、って笑ってる先輩に星乃がつられて小さく笑った。
製造部飲み会二回目。元から酒も宴会も好きな製造部だから、閑散期とかはよく飲み会を開くんだけど、なんで今、この繁忙期に、しかもこの前やったばっかだっつうのに、また飲み会するんだよ。しかもあの時は、席が離れてたけど、今回隣だし。
いや、普通に一昨日までだったら、まぁ、別に。
けど今は罪悪感がものすごいんですけど。
だって、俺、今朝の夢で星乃と――。
「間宮クン」
「!」
「ごめん。お醤油を」
「お、おぉ」
びっしりテーブルの上に皿が乗っかっていて、所々にあるビール瓶の隙間を狙って俺の前にあった醤油を取ろうとした星乃に急いで手渡した。
「あの……ごめん。ここ」
「? 何が?」
「席、俺の隣」
「あぁ」
「つまらない、でしょ」
周りがどんちゃん騒がしい中、ぽつりと、雨雫みたいな、石ころが転がったみたいな、小さな小さな声で星乃がそう呟いた。無口な自分の隣じゃ退屈だろうって。
「つまんなくねぇよ」
本当、つまんなくない。全然、ちっとも。
「つかさ、星乃こそ、製造飲み会のノリ苦手だったりしねぇの?」
しないんだ。意外な感じ。けど、俺の質問に首を横に振ってる。
「ほら、設計の飲み会って静かそうじゃん。って前に話したっけ? オサレなイタリアンレストランとかでワイングラス片手にカンパーイ、とかしてそうじゃん」
今度は笑った。
えー? けど、そんな感じするっしょ。すっげぇ静かじゃん。ほら、今、斜め前方で行われております「一気飲み大会」なんての野蛮ですなフムフムって小難しそうな顔をして首を横に振りそうじゃん。設計部長とかさ。眼鏡の人。
「部長はそう、かも」
「ぶっ、あははははは」
マジで? マジでそうなんだ? イメージのまんまとか。そう言って俺が笑うと、星乃も笑って頷いた。
「でも、俺、製造の、楽しい」
「俺も」
別に退屈なんてしてねぇ。
「星乃と飲むの楽しいけど?」
今、普通に面白かったじゃん? 設計の暴露ネタ?
星乃が、つまらないだろう? と俺に訊いた答えを今会話で笑ったことが答えだって笑ってやると、じっと俺を見つめてから、ポッと頬を赤くした。そんで、手元にあった、サワーをぐびっと半分まで飲んだ。
そんでジョッキグラスをテーブルに置くともう真っ赤だ。はい、酔っ払いの完成。
いや、いいんだけど。酒飲んで酔っ払ったって、もう二十歳だろ?
「星乃って、誕生日いつだっけ?」
「え? あ、九月」
「九月かぁ。じゃあ、もう飲酒オッケーだもんな。って、いや、別に、本当は二十歳未満だったら飲んだらダメとか、そんなクソ真面目なことを言いたいわけじゃなくて。星乃が酒フツーに飲んでることが、その」
「間宮クンは誕生日、十二月じゃ」
「よく知って……」
なんで、俺の誕生日知ってるんだ? 俺、そんなの話したことあったっけ? ないよな。え? あ? まさか? の、まさか? もしかして、星乃って。
「一年の時、クラスで、クリスマスが誕生日に近くて、プレゼントが一緒くたになるって大きな声で話してたから」
「あ」
「それで」
なんだ……って、なんだ! なんだってなんなんだ! 何、今、少ししょんぼりしたんだ。星乃が俺の誕生日知っているってことに何を期待したんだ。期待ってなんのだ。
「だから、本当は、お酒」
「わー! おまっ! 声出すな! シー!」
星乃が俺の慌てる様子に目を丸くした。そんで。
「しー……」
だって。笑って、人差し指を口んとこに持っていって、「しー」だって。
「しゅ、主任に聞かれたら、もしかしたら、酒飲むの禁止ってなるだろ。あと、ちょっとの話なんだから」
「ん」
「案外、あんな感じの人だけど、すげぇ真面目なんだよ。主任」
まぁ、確かにバレたりすると大変なんだろうけど、うちの会社なんて別に大企業でもなんでもねぇし。ちっこい町工場だし、そこまで厳しくもないから、基本、うやぁむやぁってさ、その辺はぼかしてもらえてるかなって。
星乃が内緒なんだからな俺に言われて、コクンと頷いた。頷いた拍子に黒髪がさらりと揺れて、頬が赤くて、指なんて製造には全然向いてない華奢な感じで、真っ白で。だから、酒でもなんでも赤くなったりするとすげぇすぐにわかる。
可愛……。
そんで、また首を横に振った。
故意じゃないんです。マジで。なんで、あんな夢を見たんだか不明なんです。多分、お腹を撫でたのが原因じゃないかなぁとは思ってるんです。なんか柔らかい腹筋のない腹だったもので、最近、彼女がいないもので。
そうだ。
彼女だ。
俺の好きなのは女の子だ。
「あ、間宮クン、唐揚げ」
俺は女の子がさ。
「間宮クン、あの、唐揚げの大皿を……」
「大好きなんだ!」
そのタイミングで大皿の唐揚げを受け取ると。星乃がほわりと頬を染めながら微笑んだ。それが、どえらい……その、やっぱり本当ぶっちゃけてしまえば、マジで、あかんけど、可愛……いかった。
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