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第14話 無駄な抵抗だって

 星乃と食べた唐揚げのほう美味しかったけど、 製造飲み会のほうが、 女の子と飲むよりも楽しいような気がしたけど。  でも違うから。  ほら、考えてみろよ。 「そんなわけで今、ありがたいことに我が社は繁忙期を迎えています」  今、朝礼の中、目の前にいる製造部、入社五年目の先輩。 ちょうど眼鏡だし、 くせっ毛黒髪だし、 星乃と同じ感じに無口。この人で、ほら、いいか? まず、想像してみたらさ、 わかるじゃん。  例えば、この先輩をぎゅっと抱きしめて…………みない。 絶対にしない。 しないししたくない。むしろ想像しただけでちょっと気分が悪くなってきた。 ちょっと朝一から帰りたくなってくるくらいには無理だ。 全然無理。全然ナシ。  ありえない。  ほら、ほらな、やっぱ男は恋愛対象外だって。俺は女の子が好きなんです。ほわほわぁってしててて、可愛くて、 甘えてくれたりとかしたら最高。ほっぺたピンクで柔らかくて、 抱きしめたらキュウって感じの。 「間宮クン」 「!」  抱きしめたらキュウって感じの。  脳内で自分の好みの女の子をぎゅっとするところを、なぜか朝一、 朝礼の最中、 社長からの言葉も聞かずに想像していたとこだった。その想像することに必死すぎていつの間にか朝礼は終わってて、いつの間にか、 目の前に星乃がいた。 「あの、今日は朝から手伝い」 「お、おおお、 りょーかいっ」  眼鏡に黒髪の本物が出現して、 俺は直視できなくて。 「そ、したら、あーえっと、 やって欲しいことがあんだ」  パッと視線を逸らした。 「わかった」  また出たんだ。  出てきた。  俺の夢に星乃が。飲み会の後の夜は夢に出てこなかった。土曜日の夜にも出てこなくて。 やっぱりあれは気のせいだったし、仕事が忙しくて頭ん中がパーッとなっちゃったせいなんだろうって油断した。寝る前にさ、考えたんだ。明日は仕事じゃん。そしたら、星乃は製造のヘルプに来るのかなぁとか思ってさ。 星乃は腕ほっそいし、 腕力あんまないだろうから力仕事メインでやってもらうよりも他のことをお願いしようとか考えて。 腕細いし、 背中も華著だし、 腹だってペったんこなんだよなぁなんて考えながら、そのまま寝たもんだから。  見ちゃったじゃん。  星乃が俺の夢に再び登場しちゃったじゃん。  ――間宮クン。  白く華著な背中がくねるところか、白くてうっすい腹のへそのくぼみとか。 「間宮クン?」 「あ、あーえっと、それじゃ、 主任のとこ行ってみて」  顔、見らんねえ。  だからつい目を逸らしたくて。  だって、今朝、見たばっかだし。 星乃の細い腰とか薄っぺらい腹とか、実際に見たことなんてない白い背中とか。  夢に出てくるってどうにもなんなくね?  勝手に出て来ちゃうじゃん。けどさ、そう頻繁に夢で見るってどうなんだよ。俺、どうかしちゃったのか?  女の子好きですから。  俺は、 全然そっちじゃないですから。  そっちのほうじゃ。 「俺は、力仕事メインだからさ」 「あ……わかった」 「そ、そんじゃ、今日も宜しく」  それだけ言って、俺は急いで自分の仕事へ向かった。多分、星乃は主任に指示を仰ぐだろ。もう何度も話してるし、飲み会でもめちゃくちゃ話しかけられてたから、腹は痛くならないだろうからさ。 「俺、こっちやりますよ」 「おー、間宮、宜しく頼む」 「ういーっす」  だから、俺が指示しなくても大丈夫。  あれからちょっとだけ調べてみたりした。その、つまりは男同士でのやり方とか、そういうの。本当にそっち興味なんてなかったから知らないじゃん? やり方なんて。それで、そのやり方とか知って、いやいや難易度高いでしょってなったし、やっぱり男とそういうことをしたいかっつうと全然無理だろって思ったし、ただ、それを星乃に置き換えると……なくもないかもしれないけど、いやいやいやいや、やっぱり無理でしょってなったし。  男同士だぜ? 同じ職場で、どーすんの? 色々難しいっしょ。  告白とかすんの?  無理。  だろ? デートとか、女の子とするみたいになんてできないんだぜ?  俺、結構イチャイチャしたい派です。手は繋いで歩きたい派。腰は抱かないかな。歩きづらいし。  澤田たちにも話せないんだぜ?  そうそう、そうなんだよ。俺彼女できましたー、あはは、なんてノリで言えないっしょ。  親とかどーすんの?  ビビるだろうな。妹とか、反応怖ぇわ。  キスとかできんの?  ……ぁ、あー、あー、まぁ、無理だろ、多分。うん。  えっちとか、でき……。  いやいやいやいや、まず! 告白からして無理だろ! だからその先はありえない。ありえません。ないです。だから、その先のことなんて考える必要なし。って、そもそも告白するのを想像しないように。それじゃまるで今、俺って、あいつのこと、好――。 「?」  そんなことをもう何日目だろう、考えていた真っ最中だった。  知らない番号から連絡が来た。けど、このご時世、知らない番号からかかってきてもフツー出ないじゃん? だから、無視したらって、思ったのに。一回鳴って、数回振動して切れたのに、またかかってきたその電話にさ、なんでか、出たんだ。なんでだろ。普段ならきっと出ないのに、なんか知らない番号が二回もかけてきて、すごく話したそうだったから、出ちゃったんだ。もしかしたら……あいつかも、とか思ってさ。電話の通話ボタンを押した。 『あ、もしもし? ごめんねっ。あの、覚えてる?』  星乃かも、とか思ったんだ。 『私……この前の飲み会で』  けど、電話をかけてきたのはあの女の子で、俺は、少しだけ。 『ごめんね。急に電話なんてかけちゃって、澤田くんに、その連絡先訊いちゃったの』  あぁ、星乃じゃなかったなぁって思ったんだ。

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