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第19話 林檎と梨

「まだ、いてえの?」  一瞬、唇をキュッと結んで、それからすごくぎこちなくコクンと願いた。   星乃のこと見すぎだよな、俺。自覚するとすげぇ見てるなぁって思う。製造の飲み会とか、職場でもすっげぇ見てるから、変化にすぐに気が付くんだ。いつからそんな小さな変化でわかっちゃうくらいに見てたのかはわかんないけどさ。  今ずっと肩に力が入ってるから、たぶん、ずっと痛いんだろ? そうやって肩をすくめてる時は大体腹が痛い時だから。 「ああいう飲み会ってあんま行ったことないんだろ? だからじゃね? 不慣れだから、ハンパなく緊張したんだろ」 「そうかも」 「そ、したらさ」  ゴクンって息を香んだの、バレたかな。今、喉が鳴っちゃったかも。 「直接、触ってみたりする?」  酔ってるし。酒の勢いでさ、なんかふわぁってしてるアルコールのノリでさ。言ってみたんだ。 「そしたらすぐに治るかも、よ?」  星乃が引けば、あはは冗談に決まってんだろ? って言って手を離せばいいし。だから、ダメもとっつうか、勢いで言ってみただけなんだ。驚かれるだろうけど、今の状況なら酔っぱらってたって言い訳できるから。  だって、触りたいんだ。  好きな子とふたりっきりでいたら。そりゃ、ちょっと前まで女の子が好きで、男に触りたいなんて、これっぽっちも思ったことがなかったけど。  けど、触りたい。  自分でも、案外、抵抗とかなくすんなり 「触りたいなぁ」 って思っちゃったことに正直驚くけど。  でも触りたい。 「あ、うん」  引かれるだろうと手を引っ込めるつもりでいた俺はその答えにびっくりしたんだ。  でも、確かに星乃は頷いた。 「じゃ、じゃあ」  そして、自分から少しだけ星乃がさ、服をめくってくれて、腹がちらっと見えて。そんで、その白い肌に、ヘソんとこ、何にもない真っ白な肌にぽつんって、ほくろがあった。ヘソのすぐ近くに。  どこにも何もなさそうな真っ白な肌に。  普段は服着てて見えないヘソんとこに。  いっつも俺が手当てっつって触っていた腹ん所に。  それが無性にたまらなかった。 「ぁ……あったかい」  すげぇ、どうしても触りたくなった。  触ると、すごかった。 「あ」  よくわかんないけど、すごかった。 「っ……う」  撫でられて耳も首も真っ赤にしてるのとか、指先を動かすと小さく零れる溜め息? 吐息?  それからスベスベの肌とか。俺の手でピクピク反応するのとか、なんかもう色々すごくて。  俺の手があったかいって言ってたけど、むしろ星乃のお腹のほうがあったかくて、触り心地がすごく気持ちよくて。  どうしよ。  目、離せない。  ずっと撫でてたい。 「ぁ、間宮クン」  星乃もさ、彼女ができたら、すんのかな。触ったりとか。女の子に。  こういうこととかすんのかな。 「あの」  触りたいとか、思うのかな。女の子に。 「あの、もう、治っ」  反応したりすんのかな、触られたりとか、したら。 「あのっ」  男、だもんな。 「間宮ク」 「……ぁ」  わざとじゃないんだ。星乃が急に慌てて俺の手を避けようとしたから。引かれたら即手を離そうと思ってたし、だから急いで引っ込めようとした手に、わざとじゃなく、当たっちゃったんだ。  ちょっとだけ手に当たった。 「勃ってる」  小さく呟くと、星乃がキュッと唇を噛み締めて、真っ赤になった。 「あ、あの、これは、違くて、ごめっ、あの、あったかくて、そのっ、」  正直、自分の順応性の高さに驚くよ。だって、ついこの間まで男に触りたいなんて考える自分を想像もしてなかったんだ。なのにさ、今、星乃に触りたくて、触ったらさ、スべスベな肌にドキドキしてそんでーー。 「わり、俺も」 「え?」 「一緒」  手を取って、そのまま引っ張って、その白い指先にチョンって、俺のに、ちょっとだけ。  触れさせた。  けどそこで何触らせてんだってなれば、ちゃんとすぐに手を離すつもりだったよ。マジで。  あははは、わり、冗談って笑って誤魔化してスルーするつもりでいた。  けど、星乃は手を引っ込めることも、嫌がる感じも全然なかったから。 「あ」  小さくそう言って、ほっぺたも耳も首筋も真っ赤にしたままだったから。空いているほうの手の甲で溜め息が零れるロ元を隠すようにしただけだったから。また俺は喉を鳴らした。 「そ、したら、触りっことか、してみる?」 「え?」 「男子校とかだとけっこうするじゃん? そういうの」 「ぇ?」  本当に男同士でそんなことをするかどうかなんて知らない。 「男同士だし」  ただ、星乃に触りたくて、今、勝手に適当なこと意ってる。 「する、の? 男子校とか、だと」  触りたい。  星乃にすげえ触りたくて、領いた。 「じゃ、あ」  ヤッバイくらいに触りたくて。 「あっ」  触ったら、やばかった。 「あ、嘘っ」  ゾクゾクする。 「あ、あ、あ」  肩をすくめて、背中をキュッと丸めて、白いお腹のところに力を入れて、小さく小さく零れた声がたまらなく、可愛いくて、ゾクゾクする。 「あ、間宮クンっ」  同じ男で、同じもんがついてるのに、星乃のを直に手で握ってドキドキしてる。少しも嫌じゃない。 「こ、れっ」 「キモかったら言って」 「あ、キモくない、よ」  いっつも結んだままの唇が開いてて、その唇がパクパクって動く度に溢れて零れ落ちるような、普段よりも少し高い声。握った手ん中でビクンって跳ねる自分のとは違う形。 「間、宮クンは? 気持ち悪く、な」 「ヘーき」  むしろ、すごい。 「あ、あ、あ」  俺の返事に安堵したみたいに少し表情が緩んで、堪えがちだった声がまた零れる様子に見惚れてたんだ。俺  の手に反応してくれる星乃に夢中で。 「間宮クン、のも」  だから触れられて飛び上がった。感電した?ってくらい、星乃の手から何か出てんの? ってくらい、ビリビリって駆け抜けて、頭ン中がショートした。 「やば、星乃」 「あ。間宮ク、ンっ」  俺の名前を呼ぶ鼻にかかった甘えてるみたいな星乃の声。 「あ、あ、あ、あ」  強めに扱くと、気持ち良いみたいで、手の中で跳ねて、そんで星乃自身もびくびくってして。俺の手に反応しながら、星乃が一生懸命に俺のを撫でて握って、扱いて。俺は、星乃の全部が可愛くて、たまらなくて。たどたどしいその手を掴んで、無意識で細い腰を引き寄せた。 「やば」 「あ、あ」  一緒くたに俺らのそれを握って、手を繋いで、なにがなんだかわかんないけど、すげえやばいくらいに気持ち良い。 「っ」 「あっ、間宮クンっ」 「っ、星乃っ」  イったのはほぼ一緒だった。  星乃の白い腹にかかるくらい、二人して。 「は、ぁ」  頭の中が真っ白。 「あ」  けど、星乃がそうやって俺の名前を呼ぶたびに、星乃が飲んだ林檎の甘い香りがするから、醤り付きたいくらいにその声も赤い唇も美味そうで、じっと見つめてた。

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