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第23話 ミステイク

 二度あることは、三度ある、って言葉通り、俺たちはその後から、ちょくちょく家飲みをするようになった。 「あっ! ンっ」  もちろん、抜き合い付きの家飲み。大体、金曜の仕事後が多いんだ。他の曜日は俺たち製造だけ残業だから一緒には帰れないし。けど、製造の人たちも金曜日くらいは定時で上がりたいわけで、その日だけは現場の掃除を終えて、十分遅れで俺も帰るから。途中で待ち合わせて、そこから一緒に帰って、途中のコンビニで酎ハイを数本買って、うちへ来て、飲んで、目が合ったら……って感じ。  先端を親指でほじくるようにされるのが星乃のピンクは好きらしくて。 「ぁ、ぁ、ぁ」 「すげ、濡れてきた」  たちまちカウパーが溢れて、手の中が余計エロくて、気持ちいいことになっていく。正直――。 「ふぅっンっ……ん」  たまんない。  普段ほとんど喋らない口から絶え間なく溢れる喘ぎ声も、服で隠れるおへそが先っぽをほじくられる度にヒクヒクって震えて、気持ち良さそうなとことか。 「あ、俺、もうっ」 「星乃も?」  辿々しく俺の手の中で一生懸命、俺のガチで固くなってるそれをぎゅっと握る白い手も。 「な、星乃」 「は、ひ」  気持ちいいと、ちょっとひっくり返っちゃう声も。 「眼鏡取ってもいい?」 「え? でもそしたら、見えな」  君の眼鏡なしの素顔が見たいんだっつったら、ドン引きされるよな。 「大丈夫。こんくらい近くに行けば見えるだろ?」 「あっ!」  キス、してぇ。  眼鏡を取ったら、美少女、っていう古典的漫画展開がマジなんだ。普段はすげぇ重たそうに見える黒縁眼鏡の方が目立ってて、真っ黒で長めの前髪が邪魔をして、あんまよく見えないけど。 「はぁ、やば……」 「あ、あ、あ、あ」  潤んだ瞳に長い睫毛、っていうあの展開。 「あ、間宮クンっ」 「っ」  あれがマジなんだ。 「星乃」  何かの間違いで、ふと動いた拍子に、唇が触れちゃいそうな距離で俺の名前とか切なげに呼ぶんだ。すげぇ、ゾクゾクする。  キス、しちゃえないから。 「は、む……ン、ん」  指じゃなくてさ、ちゃんとしたキスしちゃったらダメかな。そう思いながら、俺の指を咥える無口な唇をじっと見つめてた。見つめながら、手を動かして、甘い声につられるように扱いて。 「ンー、んんんんっ」 「星乃」 「ン、ん、ンんっ」 「はっ、あっ」  やっばいくらいに興奮しながら、二人の繋いでる手の中に一緒に吐き出した。 「それじゃあ、俺、ここで大丈夫だから」 「そうか?」 「うん……ありがと」  ナチュラルにこのくらいの会話ならするようになったんだ。前までなら、家飲みする前とかなら、俺ばっかが話して、そんで「あ……の」くらい、それで、あぁここで大丈夫なのねっつって、バイバイしてた感じ。  けど、慣れたんだろうな。  それなりに話をするようになった。 「じゃあ……お疲れ様でした」 「お、おぉ」  けど、そうなんだよな。星乃にしてみたら、俺は職場の同僚で、同級生で、男で、男子校でよく行われている抜き合いスキンシップをする「トモダチ」なんだ。 「…………はぁ」  墓穴、ってやつ? 「?」  ポケットに突っ込んでおいたスマホが小さく振動した。なんだろうって見れば、澤田だった。  ――おーい、元気かぁ? また飲み会すんぞー。 「……」  抜き合いとか適当なこと言って、誤魔化さなきゃよかった。ビビってこんなふうに始めようとしなければよかった。  抜き合いつっちゃったから、キスできねぇじゃん。キスもその先も、あの華奢な身体を抱き締めるのもできないじゃん。  でも、それがしたいからと正直に告白したら断られるだろ?  でも、わかんねぇかもしんねぇだろ。あいつ、めちゃくちゃ真面目じゃん? だから正直に告ったら、ちゃんと返事してくれたんじゃね?  でもその返事はやっぱりNOだろ?  だって、女子のいる飲み会に参加したってことは女の子好きなんだろうし、彼女が欲しかったんだろうし。  だからきっと告白したら断られてさ、そしたら、もう抜き合いとかもできないじゃん? 「はぁぁぁ」  そんな堂々巡り。  触っちゃったから、触れなくなるのはすっげぇやだ。  あの眼鏡なしの星乃を見られなくなるのはすっげぇやだ。  けど、告白しなくちゃこの先は無理だろ? キスはできないし、その先もないし、デートとかももちろんできない。けど、告白したら、絶対に断られるだろ? そしたら結局、キスはできないし、その先もやっぱりないし、デートもなし。 「…………」  そんで結果、今が最善。  どーにもなんねぇじゃん、って溜め息を一つ零して、その場にしゃがみ込んで、ぽちりとぽちりと文字を打った。  ――わり。俺、好きな子できた。  澤田にそれだけ返信して、スマホをポケットにしまった。ブブブブってまたすぐに振動したから、即返信してきたんだろ。「は? 誰よ? え? 会社の?」とかそんな感じに慌てた返信。  そう、会社の。  眼鏡で黒髪で、真面目な子。  無口で無愛想で、けど、眼鏡外したら絶世の可愛い子。  そんな漫画みたいな展開だけど、でも始め方を間違えた。  また溜め息ついて、そんで、星乃が去っていった方を見つめる。こんなふうに始めなきゃよかったなぁって思いながら、けど、また来週の家飲みはしたくて、なんだよ俺はぁ、って自分の中途半端で、身動き取れないバカさに、また一つ溜め息をついた。

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