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第24話 恋、じゃね?

 けどさ、男同士が全くなしだったら抜き合いもしないかもしんなくないか? 星乃だって、俺とそういうことができるのなら、俺が「アリ」だったりしないか?  だって、ほら、目の前のさ――。 「えーミーティングで各部長には通達しましたが、今週から製造部の応援に」  今、朝礼中、目の前にいる製造部、入社五年目の先輩。  日本人らしいよな。別に朝礼の時、学校みたいに並ぶ順番が決まってるわけじゃないのに、大体同じ順番、位置に並んでる。名前順じゃないし、背の順でもない。ただなんとなく、時間になるとわらわらと事務所に全社員が集まってきて、自然といつも同じように並ぶ。俺の前には入社五年目の同じ部署の先輩。 眼鏡で、 くせっ毛黒髪。例えば、例えばよ? この先輩と俺が酔った勢いで抜き………………。 「製造部にはこの繁忙期を乗り切ってもらえるように、応援人員を増やし、設計から二名を」  無理。全然、やっぱ無理だった。もう本当にない。 絶対にない。 ないし、まず反応しない。微動だに反応しそうにない。むしろ想像しただけでちょっと気分が悪くなってくる。ちょっと朝一から帰りたくなってくるくらいには無理だ。 全然無理。全然ナシ。  だからさ、つまりはそういうことだよ。  な? ほらな? 想像したら無理だっただろ?  つまりはそれをできちゃうレベルで俺のことも星乃の中ではアリってことだろ? ナシならまず勃たねぇし。反応しねぇし。あんな……。  ――あ、間宮クンっ。 「……」  バカ、そこは想像すんな。バカバカ。  慌てて、今思い出したこの前の星乃を脳内から畳んでキレイにしまった。脳内のタンスに。そんで――。 「おーい、間宮ぁ、行くぞぉ」 「う、ういっす」  いつの間にか朝礼は終わっていて、挨拶と共に俺らは急いで現場に向かう。今週からまた一段と忙しいんだ。 「あー、それじゃあ、今日と明日、設計から二名製造応援で来てもらいました。今週末納期のものを絶対に遅れさせることのないようにお願いします。はい、それじゃあ、宜しく」 「「「ういーっす」」」  全社の朝礼のあと、今日一日の指示と連絡共有、それと部署の朝礼で製造部長から応援メンバーが紹介された。いつも通り星乃。それから。  もう一人来るんだな。設計の? 俺、あんまわかんねぇんだ。自分の部署の人間以外の名前と顔。特に設計は私語厳禁なのか、ものすごい静かで「え? これマジで人間? AIロボットとかじゃなくて?」ってくらいに静かにマウスをクリックする音しかしないもんだから。すげぇ苦手。その息吸うのさえうるさがられそうな雰囲気がダメで、いまいち全員の顔がわかりにくい。皆、同じ無表情だし。 「あ! 間宮クン!」 「お、おぉ」 「あの、朝から二名、ずっと手伝うことに、今は、何を」 「あ、あぁ」 「朝は、いつも通りで機器チェックでいい?」 「お、おぉ」  今日は、少し冷え込んでる。もう十一月だから、朝とかが結構本格的に寒さが厳しくなってきた。そのせいか、星乃の鼻先と耳、頬が赤かった。朝、チャリだから冷たくて赤くなったのかもな、なんて思いながら、俺としてる時の真っ赤になる星乃とダブって。 「栗原さん。そしたら、朝は入荷した機器のチェックを」 「機器のチェック?」 「はい。月曜なので」 「なるほどね」  そう、月曜は週末に入ってきた機器類の仕様がちゃんと発注したものと合ってるかを確認するところから始まる。  栗原って。  明るい髪色にいっつもニコニコ笑っていて、設計でその明るい髪色と笑顔が目立っていたから知ってる。客との打ち合わせに星乃を同席させてたっけ……。 「えっと、発注したものと仕様が合ってるかを確認します」 「はいはい」 「ここに一覧があるので」 「うん」 「箱に貼られているラベルが合っているかを見て、合っていたら、このまま現場に持ってきます。たまに合ってないこともあるので」 「あるんだ?」 「あ、あります。俺も何度か合ってなかったことがあって」 「へぇ」  星乃がたくさん話してた。同じ部署の人だからなのか? なんか、いつもよりもよく喋るっつうか、緊張してなくて、リラックスしてて。 「じゃあ、お願いします」 「了解」  笑ったりなんかして。 「あぁ!」  二人が一緒に仕様チェックをし始めたその瞬間だった。星乃がでかい声を出した。  そんで、俺は内心声にならない叫び声を上げた。ぎゃあああああ、とか、うわああああ、とか、ひょえええええ、とか。 「あ、あのっ! これ、お客さんからの書類なので一切書き込んじゃだめなんです」 「そうなの?」 「は、はい」  星乃が慌てて、その栗原の手をぎゅっと握ったから。 「そうなんだぁ。それにしてもここでこの作業しんどいね。星乃、手冷た」 「あ、いえ、大丈夫、です」  真っ赤だ。  星乃の耳も鼻先も頬っぺたも真っ赤。  前に、現場の手伝いを始めた頃にこの作業を俺が星乃に頼んで、そん時、紙に確認したやつをマーカーでわかるように色付けしたんだ。けど、それはやっちゃいけなくて、だから星乃はその時すげぇ慌てて、落ち込んだ。 「ギリギリセーフです」 「あははは、だね」  星乃が、少し笑った。頬っぺた赤くして。  寒いからじゃね? 「そしたら、これ一緒にやりましょう」 「オッケー」  よく知ってる同じ部署の人だからじゃね? 「あ、ねぇ、星乃」 「はい。なんですか? 栗原さん」 「これは? 仕様違うんじゃない?」 「あ、本当だ」  近くない? いやいや、普通にあり得る距離、だろ? 俺がやたらと意識してんじゃね? 「こういうのがたまにあるらしいんです」 「なるほどねぇ」  また、笑った。 「あとで、確認してもらいましょう」 「オッケー」  なぁ、あれって、星乃って、あの人のこと。 「偉いなぁ。こんなことやってたんだねぇ」 「……いえ」  好き、なんじゃね?

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