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第34話 いい感じデート
めちゃくちゃ楽しかったんだ。
デートってこんな感じだったっけ? なんここう、もっと気を使ったり、ここじゃね? この子のツボって、とか探ったりするんだけど、そんなの一つしなかった。話してると楽しくて、一緒にいると楽しくて、あいつのくれるリアクション一つ一つになんか浮かれてて。
あっという間の一日だった。だからかな。
あっという間に…………帰ってった。
まだ、キスしかしてな、いやいや、いいんだけど。別にそんなやりたいばっかのバカチンじゃねぇし。血気盛んなお年頃、ではあるけれど、でも、そんな野郎じゃないし。
じゃないんだけど。
そうじゃないんだけど。
でも、やっぱ、男なんで、色々としたいことはあったわけで。
夕飯食べ終わったら、うちで飲むものだとばかり思ってたわけで。
だって、今まで毎週金曜は仕事の後に一緒に酒飲む流れができてたじゃん? 会社出たとこで待ち合わせてさ。
俺のいる製造の方が現場仕事だから帰りが少し遅くなりやすくて。
「待った?」っつって。
もじもじしながら「ううん……だ、いじょうぶ」っつって。
「そんじゃ帰るか」っつって。
うちに……来てたから。今日もそうだと思ってた。そんで帰って、飲んで――。
間宮クン、あっそこっ、っつってさ。
ダメダメ、あの、俺っ、なんて感じで真っ赤になったりなんかしてさ。
間宮くぅんっ、なぁんて切なげに。
そうそう切なげっていう感じに言われて、燃えちゃったりとか。
するかなぁって思ってたんだ。
さすがに? 初デートで? 一線越えちゃう? のは早々かなぁとは思うよ?
いやいや、でももう抜き合いしてるんだし、俺のを触られたことあるし、俺が星乃のを触ったこともあるし、つまりは、順番はとりあえず置いておいて、キスが済んで、なんかその次の段階も済んで、そしたら、ほら、ほらほら、残るはここじゃん?
好きだ、星乃。
俺も……間宮くぅん。あ、あ、あ、あ、あ! イっちゃうぅ!
「間宮クン、行っちゃうよ?」
「あわああああああああ!」
「あ、あの……バス」
「……あ」
ブロロロ、とバスが独特のエンジン音をさせながら、バス停を離れ、俺たちを置いて走って行った。
「わ、わり」
今、ただいま二回目のデートの真っ最中だった…………っけ。
今日は二人で電車とバスに乗って、水族館に行こうって話してたっけ。
俺は前回の、つまりは先週のデートのことを脳内で振り返ってた。
今週からはもう製造のヘルプに星乃が来ることはなくて、そのことに多少なりとも寂しさと恋しさを抱えながら、歌の歌詞っぽいけど、現実にはそんなこともなく苦手な入荷した機器の仕様チェックから何から色々忙しくてさ。
「ど、どう? 製造」
「あー、まぁ、ピークはすぎたっつっても忙しいよ」
「そっか」
次のバスは、後十五分もすれば来るらしい。俺らはバス停の先頭を陣取った。
「星乃いねぇから、つまんねぇし」
「……ぇ」
真っ赤っか。
「そ、そんなこと、でも……」
二回目のデートでも変わらず星乃は星乃らしい。
「でも、俺も」
「?」
「間宮クンと一緒じゃないの……」
本日二回目のデート。
「さ、寂しい……」
そして、こんな大胆発言しちゃう星乃と、本日初の。
「お、おぉ」
初えちの日と。
「うん……」
「おぉ」
なることでしょう。
いい感じだったんだ。水族館デートなんてデート中のデートじゃん。キングオブデートじゃん。大人気イチャイチャスポットじゃん。いや、いかがわしい意味じゃなくて。いや、けど、いかがわしい期待を胸には抱いてましたけども。
でも、星乃のはにかみ笑顔は可愛かったし。
薄暗さに誤魔化して、手を繋いでたし。魚にはしゃぐ横顔には普通に見惚れたし。途中、夢中になりすぎてガラスに顔を近づけ過ぎてメガネがぶつかって、落っことして慌てた星乃が、マジで、俺は萌え転がるぞ! ってくらいに可愛かったし。
それ以外にも色々床に転がりたいシーン目白押しだったんだけど。
「……マジか」
今、一人、自室の床に転がってる。
かなりいい感じだと思ったんだけどなぁ。ほら、前回の初デートがあまりに健全過ぎたっしょ? って思って、あの健全なサイクリングデートからの、ムーディーな夜は流石に無理があったってことかなってさ。
途中までスポーツチャレンジ系映画だと思ってたから、なんか急にセクシー路線になりましたけどー! っていうのはちょっと違うかなとさ。
だから今回は最初からムーディー狙いの水族館だったんだ。
――ここの水族館、遠足で来たことある。
――マジで? 俺も。中にさ、すげえでかいペリカンが普通に歩いてなかった?
――い、いた!
そんな感じに会話も弾んだし。
――すごい、綺麗。
――あぁ……。
クラゲエリアは最高にいい雰囲気だったし。ここでキスしたら映画のワンシーンじゃん? みたいな感じでさ。まぁ、土曜の水族館でそんなことはできないけどさ。
――間宮クンと来れて嬉しい……。
そう言ってくれてたし、これは!
――間宮クン。
これは!
――それじゃあ。
これはぁ!
――おやすみなさい。
初えちに持ち込めるって…………思ったんだ。
「マージーかぁ」
けど、二回目デート終了後、自室の床に俺は一人で横たわって、そう呟いていた。
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