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第45話 欲しい物

 昔は誕生日が十二月なのが嫌いだった。損だなぁって思ったよ。誰もがその理由なんて分かりきってるから、言っても大して驚かれないのがまた癪っつうかさ。分かりきってるけど、やっぱ、えぇ? それはかわいそうに……って言ってもらいたいじゃん。そうだよねぇ……じゃなくてさ。  十二月が誕生日だとプレゼントがもらえるチャンスがこの十二月に集結しちゃってつまらないんだ、って主張したいじゃん。  欲しいものが十二月にだけ集結するとは限らないだろ?  夏にだって欲しいものって出てくるじゃん。けど俺の誕生日にはまだまだ遠くて、半年先にはきっと別のものが欲しくなってたり、もうその時は旬じゃなかったり。ゲームだって、半年先にはまた別の新しくてワクワクするものが出てる。で、結局、そっちを買うから夏に欲しかったゲームはそのまま……さようなら。  だから、十二月の誕生日は損で、嫌いだった。 「あ、何が、欲しい、ですか?」 「っぷ、なんで敬語?」  今日は買い物デート。  あれじゃなくて、二人っきりになったら困るからとかじゃなくて、この後は夜にはえっちい感じのそういう展開もあるけれども、昼間はお外で買い物デート。 「な、なんとなく……」  俺の誕生日が来週だから。  そのための今日はプレゼント選び。 「ごめんなさい……その、普通は自分で考えて渡すのに」  静が、センスが本当にないから、だから、とても申し訳ないんだけれど一緒に探したいって言ってきた。 「なんで? 一緒に選ぶのもいいじゃん」 「……」 「俺はデートもできて嬉しいし」  だって、静が一人で選ぶってことはどっかで、会えない日が出て来るってことだろ? 仕事してるし、仕事終わった後って行っても寄っていけそうな店はコンビニくらいで、他にはなぁんにもない田舎だからさ。 「ありがとう……ございます」 「いえいえ、あ、そーだ、昼飯食いたい店があるんだ」 「あ、はいっ」  さすがに寒くなってきたから萌え袖カーディガンってわけにもいかなくて、もっこもこのマフラーにダッフルコートっていう、なんとも可愛い男子な格好の静が、俺のリクエストに応えようと一生懸命頷いた。 「ここ、行きたいなぁって思ってさ」 「わ……」 「リサーチしておいたんだ。仕事の休憩中に」 「すごい、お洒落」 「だろ? めっちゃ、美味そうだったし」 「は、はいっ」  だから、なんで敬語なのって笑いながら、静の手を引っ張った。 「ほら、ぶつかる」 「! す、すみませんっ」  ぶっちゃけ、欲しいものならたくさんある。  子どもの頃から十二月の誕生日とクリスマス、ここでしかもらえるチャンスがないから、常に欲しいものは記憶しておく癖がついたせいで。  今、欲しいものは、この前見つけたすげぇかっこいいシルバーのペンダントヘッド。後、鞄。それからマフラーも欲しいかな。なんか静がいっつもマフラーしててあったかそうだったから。それから欲しいジャケットもあるし、セールになってたら黒いパンツも欲しいんだ。合わせやすい感じで。  色々欲しいものならあるけど。でも――。 「あ、あの、穂沙クン、手」 「えー?」 「手を」 「またぶつかって、そのまま静は迷子になりそうだから」  でも、どれもこれも旬じゃなくなった。 「手、繋いで歩こうぜ」 「……」 「べっつにこのご時世、男同士で手を繋いでたからって、なんも言われないって。男同士でデートしてたって、こんな都会じゃ、きゃーっつって、叫ばれたりしないから」 「でも」  今、欲しいものはそれじゃなくなった。 「それに、なんか、変かも」 「? 何が」 「だって、穂沙君、かっこいいから、俺みたいなダサいのと……」  そう呟くと俯いて、その拍子に重たそうな黒縁メガネがずるりとずり下がった。 「メガネケースって持ってる?」 「?」 「持ってたら貸して?」 「? は、はい」  メガネってそのままポケットとかに入れちゃあかんでしょ? うちのじーちゃんがいっつもその辺にポイって置いて、ばーちゃんに傷がついても知らんって怒られてるから。ケースに入れとかないと、なんでしょ?  だから、いそいそと鞄の中から出してくれたメガネケースを受け取って、静の眼鏡をちょっと取った。 「え! あのっ」 「これでも歩ける? よね?」 「あ、歩けるけど、細かい道路標識とかはっ」 「いや、そこは別に読まなくていいっしょ。歩けるなら」 「あ、あの、でも」 「怖かったら言って? 手は繋いでるし」 「あのっ」 「そしたら見えないっしょ?」  静が目をパチパチと瞬かせた。まるで写真のシャッターみたいに素早く。写真に切り取って、俺よりもずっと賢い脳みそで画像解析でもするんじゃないかっなんて思うくらい、パチパチって素早く。 「周りの目とかさ」  欲しいものはたくさん、あったんだ。  けど、今は、一つだけになった。欲しいもの。  困った顔も可愛いって思うし、一生懸命に何かしてると手伝いたくなるけど。どれもいい感じなんだけど。 「さて、そしたら……買い物は」  静の。 「そうだ、じゃあ、あそこ行こう」 「あ、あの、どこへ」 「手袋!」 「……」 「前に静が欲しいって言ってたじゃん」 「え? でも、あれはっ違うって」  笑った顔が、欲しかったり、してるんだ。

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