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第54話 真っ赤っか
「……ふぅ」
ひと回り小さな浴槽。シャンプーの時、ついいつもみたいに手探りで手を伸ばしたけど見つからなかった棚。高さの違うシャワーヘッド。
「……」
狭くなった洗面台に、今まで使ってたのと違う風呂。
「……ぁ、穂沙クン」
新しい風呂に、新しい食器、新しい俺の部屋に、それから――。
「あの……何か……」
「……んーん」
これから、一緒に……。
「っぷ」
「! あ、あのっ、何っ、あのっ」
「ごめ、笑ったのは、えっと、なんつうかさ……これからこうして一緒に暮らすんだなぁって思ったんだけど。ちげーだろって。静は家、実家じゃんって」
つい、もう二人暮らしのつもりでいたけど、考えたら、俺はここに一人暮らしのはずだった。なのにもう脳内か勝手に浮かれて先走って、静との二人暮らしを想定して色々思いに耽っちゃってたのが、なんか面白くて。
「……ぁ」
そう言いながら、解体は楽ちんだったくせに組み直すのにはけっこう時間がかかったベッドに俺も座ると、静が眉毛を跳ねる様に上げて、それから、キュッと肩を小さくしながら背中を丸めた。
俺は、いつかこれも少し大きいサイズにするか、もういっそのことベッドをやめて布団にするか、なんてことも考えてた気の早い自分に笑った。
「あの、でも……」
「?」
「もし、大丈夫なら、俺……毎週末」
「うん」
「来たい……」
色々、浮かれてる。
「もちろん」
「!」
「大丈夫も何も」
風呂上がり、今までよりも小さな洗面台に置いた歯ブラシは二本。青と、オレンジ。オレンジが俺で、青が静ので、それを並べたブラシ立てのとこに挿してあって。それを見ただけで少し笑ったりするくらいにはさ。
「合鍵あるんだから、好きなだけ、どーぞ」
「……ン……」
君との時間が増えるだろう新生活に浮かれてるんだ。
ゆっくり丁寧に、そっと触れるキスをすると、ふわりと溢れた君の優しい吐息一つに大喜びするくらいに、浮かれているんだ。
「腹、痛い?」
「うううん」
「っぷ、う、が多い」
「!」
ベッドのマットが二人分の重さに僅かに沈んだ。
そっと、すぐに痛くなって主を困らせるおへそんとこを撫でると、ピクンって静が反応してくれる。
「あ……」
当たり前だけど、肌から同じボディーシャンプーの香りがする。これは、一通り部屋に家具が全部揃ったあと、夕方に薬局へ二人で行って買ってきたんだ。特売で安かったから、三つあった香りの種類から二人で良さそうなのを買ってきた。
「あっ……ン」
ベッドに寝転がって湯上がりでしっとりした肌に歯を立てた。
おへそんとこ。
「んっ」
小さな黒い星にキスをすると静が背中を反らして、小さな声を溢す。
「あっ」
買ったばっかの家着を捲り上げて、おへそから、ぺったんこで白い腹にキスをして、ゆっくり、捲り上げる度にちらりと見える肌に口づけて。
「んんっ」
胸のところまで服を捲って、ピンク色をした乳首に唇で触れた。感度の良い小さなそれを唇で挟むようにすると、静のたまらなそうな切ない吐息が溢れてくる。
「ふっ」
触ると嬉しそうに、指先に答えるように、硬くなって。
「んんっ」
反対側を指先で摘みながら、もう片方を口に含んで、舌で濡らした。
「あっ……ン」
今度は反対側の指でだけ硬く尖った乳首を口に含みながら、手を下へ――。
「……」
上下でお揃いの家着のパンツの中へ。
「……なぁ、静」
「! っ」
パンツの中へ手を伸ばしただけなのに、素肌に触れた。
「っ」
真っ赤っか。
「パンツは?」
ズボンのパンツじゃなくて、下着のパンツ。
「そ、その」
「待っててくれた?」
真っ赤っかな頬っぺたにキスをすると大慌てで隠れようと亀みたいに首を縮めた。もちろん、亀じゃないから顔は隠せなくて、真っ赤な耳を喰まれて、またこれ以上は無理なんじゃない? ってくらいに縮こまる。
「だ、だって……」
「うん」
「その……」
「うん」
するつもりで履かずにいたんだ。
「静って、けっこう積極的だよね」
俺と一緒に飲める機会が増えるからって、見知らぬ女の子もいる飲み会に飛び入りで参加してみたり、なぁんも、だーれともしたことないのに、好きな男子とできるチャンスだからって、「抜き合い」なんていきなりしてみたり。
無口な分、行動に出るのかな。
案外、アクティブっていうかさ。
「だって、俺、女の子じゃない……よ」
待ってるばかりのお姫様じゃない。
可愛いふわふわ柔らかな女の子でも、ない。
「その、俺……」
「知ってるよ」
「……」
わかってるさ。
「静が女の子じゃないってちゃーんとわかってる」
薄っぺらい身体で、細くて、華奢で、おっぱいはないし、女の子にはないものがくっついてるし、骨っぽくて、抱き締めると。
「わかってる」
抱き締めると、こっちがふわふわした気持ちになれるって。
「静が男だって、ちゃんとわかってる」
「……」
「むしろ、わかってないのは多分静だよ」
「?」
女の子が大好きだった奴が、恋愛対象外だった、っていうか今だって全然、恋愛対象外のまんまの男なのに、こんなに好きになったんだ。
それがどういう意味か。
どんだけ好きか。
どれだけ嵌ってて、もう他に好きな子なんてできないんじゃね? ってくらいなのか。
今、真っ赤っかになりながら俺を見上げる、君のことをどんだけ。
「本気なのか」
「……」
「わかってないのは」
好きなのか。
「だから、教えてあげる」
今日がどれだけ楽しみだったかを――。
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