64 / 72

新生活編 8 そっかそっか

 普段は、お泊まりはあんまりしない、かな。  たまにするけど、でも毎週じゃない。真面目な静が急に毎週どこかに泊まってたら、親がきっと心配するだろ。俺の場合は素行があまり……だったんで、毎週泊まり歩いてても全然大丈夫。むしろ、いつものことくらいだけどさ。  けど、今日は一緒にいたかった。  でも、そう思ってたのは俺だけじゃなかった。  泊まってく? そう尋ねたんだ。  前まで待ち合わせにしていたY字を右に一緒に曲がってそこから少し歩いて、そこから今度は左と右にまた分かれ道があるところで。右に行けば静んち。  左に行けば、俺の住んでるアパート。できるだけ静んちに近いところを選んだんだ。  そこで、俺が尋ねたら、コクンと頷いて、リュックの肩紐をキュッと握り締めた。  ――うん。今日、泊まる、つもりでもう用意してきた、から。  そう、静が小さな声で教えてくれた。 「ただいまー」 「……お、おかえり、なさい」 「お、お」  そっか。一緒に暮らしたら、そっか。 「あ、風呂、今、即沸かす」 「うん」  言いながら静がリュックの中から自分のパジャマを取り出している。俺は、別にちゃんとしたパジャマとかじゃなくて、適当にルームウエア。  それから十分ちょっとして風呂が沸きましたよ〜の楽しげな音声と音楽が流れて、やっぱり真面目な静は家主である俺を先に風呂を使えって。  ――俺、お風呂長い、からっ。  真っ赤になってそう言われて。  ――お、おぉ。  真っ赤になって俺もそう答えて。  風呂を速攻で済ませると、入れ替わりで静が風呂へ。  ちゃぷーんとか、ザー、とか、ゴシゴシとか、風呂から聞こえる音になんとなくソワソワしながら酔い覚ましに水飲んで。 「あ……お風呂、上がった、よ」 「お、おぉ」  湯上がりほかほかな静を見て、頬が赤くなるのを感じてる。  そっか。そうなんだよな。 「あ、静、腹減ってない? あんま食えなかっただろ? 幹事って忙しいからさ」 「平気、唐揚げとかサラダとか結構食べてたよ」 「あーそういや、唐揚げ山盛りで笑った。すげーって……あ」 「う、うん」  唐揚げ、好き? って訊かれことがあったっけ。静に。 「こういうの職権濫用っていうのかな」  電話で、夜に。 「あれって」 「穂沙クンの好きなものたくさん用意しようと、職権濫用……」 「っぷ、あは、そうだったんだ。でも、すげー美味かった。超食った」 「よかった。でも確かに美味しかったね。唐揚げ」 「おー」  そっか。  そっか。 「静」 「?」  そっかぁ。  一緒に暮らしたら、こんな感じの毎日なんだぁ。  なんて思いながら、キスをしたら、湯上がりでポカポカほわほわしていた静の頬がもっと赤くなった。 「な、なん……でしょうか、あ、あの」  ただいまーって言ったらおかえりが帰ってくる。お風呂に変わりばんこで入って、ご飯作って食って。好きな子と一緒にいられる時間が今よりずっと長くなる。 「なんでもなーい」  そして、あの静を家まで送り届けた後の十分がなくなるのか。  そっかそっか。  それはなんて。 「とりあえず、もう一回、キスしとこうぜ」  なんて幸せな感じなんだろうって、つい口元が緩んだまんまのおかしな顔でちょっと二人で眠るには狭いかもしれないベッドの上に静を押し倒した。  静はキスが好きっぽくて、深めなのをするとキュッと俺にしがみつきながら、頭を傾けてもっとってその舌先でせがむように絡ませてくれる。  無意識なのかな。  静って、けっこう意識せずにすることが全体的にエロくて。 「静、な……な……な、なん」  エロくて、俺の方が翻弄される。 「なんっ!」 「だ、だから、お風呂、先にどうぞって」  真面目だから! 家主さんお先にどうぞ、だと思ってたから! 「なっ」 「だって、早く……したい、かなぁっ」 「んなっ」  押し倒して、キスをして、湯上がりしっとり肌に唇で触れて、指先で肌を撫でて、愛撫をだんだん濃くしながら、半裸にした静の……奥を……。  奥が……柔らかくて。 「だから、解して……その」  はなぢ、でる、だろうが。 「すぐ、できる、よ」  チラチラと上目遣いで男を悩殺、とかどこで覚えてくるんだよ。  そんなえっちな子に育てた覚えはありませんって叫びたくなるっつうの。 「……穂沙……クン」 「やり直し」 「?」 「前戯はしっかり、やり直し!」 「へ? あっ……んんっ」  首筋にキスマークをくっつけるところからだから。 「あ、の……穂沙、クン?」 「早くしたいに決まってんじゃん」 「!」 「最初のとこ、静とキスするとこから、触りっこして、準備して、それからっていう全部を早くしたいに決まってんじゃん。だからさ」  コツンって額をくっつけて。静のお腹の辺りを撫でた。すこーし下の辺り。 「一人でしないで」 「……」 「全部、二人でしようよ」 「うん」  そこを撫でると、頬を赤くしながら頷いて、静の優しい腕が俺をぎゅっと引き寄せて、耳元で、小さく小さく囁いた。 「あの、なんか急に言いたくなったので」 「?」 「穂沙クンのこと、大……好き……です」 「あ、あぁっ……ン、あ……ん」  甘い静の甘い声。 「あぁっ、奥に来ちゃっ、あっ」  柔らかくてあったかくて、きつくて狭い静の中。 「静……」 「? 穂沙、クン」  気持ち良くて、覆い被さりながら、押し潰してしまわないように気をつけながら、そっとキスをした。 「クぅ……ン、そこっ、あっ」  中が気持ちいいってキュッと口を窄めて、奥が吸い付くように狭くなる感じ。 「あっ」  気持ちいー……。 「穂沙クン……気持ち良さそうな顔、してる」 「そ、りゃ」 「嬉し」  この気持ちいー中でそんな可愛い顔すんなって。もう。 「穂沙クン」 「?」 「あの」 「?」 「女の子のとこ、とか、行ったら、や……です」  もう。 「またヤキモチ、やくからっ、あ、あ、あ、なんで、急に、おっきくっくぅ……ン」 「今のは静が悪いから」 「あ、あぁっ」 「行くわけねぇじゃん」 「あぁぁっ、ぁダメ……ダメ、もう」 「いいよ、イッて」 「あ、あぁぁぁぁっ」  深く強く俺を捻じ込むと、静が背中を反らして達した。ピクンって身体を丸ごと心臓みたいに波立たせて、それから乱れた呼吸を手で抑えるように口元を隠す。 「ね、静」 「? な、に? 穂沙クン」  参った……ね。  なんか、今日はちょっと寝かせてあげられなくなりそうかも。 「明日、キーホルダー買いに行こうぜ」 「あ、ン」  だって、今日は可愛い静がたくさん見られた。  ヤキモチも、幹事で頑張るところも、それから照れた顔も、笑った顔も。たくさん。 「ここの部屋の鍵、つけるためにさ」 「いい……けど、でも」 「でも? 何?」 「あのっ、明日、俺、溶けちゃってる、かも」  そう言いながら、しがみついて耳元で甘い声をずっと零してくれる君をまだまだ寝かせてあげられないっぽいって、思わず笑うと。 「穂沙クン」  君ももっとってねがる自分に少し照れ笑いをしながら、俺に抱きついてくれた。

ともだちにシェアしよう!