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第6話 <ユクレシアの記憶01>

※※『ユクレシア』のことは、今後、回想形式で、続いていきます。もし、わかりづらかった場合は、目次から<ユクレシアの記憶>だけ、つないで下さい。   「し、信じられない。本当に?」 「これって、さっき中知さんが言ってたやつなんですか?」  僕と山田くんは、地球上で最後にそうしたように、再び顔を見合わせた。が、その瞬間、山田くんが僕の顔を見て、一瞬びっくりした顔をした。なんだろう、と、思ったけれど、それよりも、僕は周りを確認するのに忙しかった。  白い光が引いたと思ったとたん、僕たちの目の前には、まるで城の玉座の間のような場所が現れたのだ。いや、おそらく現れたのは、僕と山田くんだったのかもしれない。  玉座へと続く、えんじ色の絨毯、そして、白亜の壁、金で設られた数々の装飾に、見たこともないほど大きなシャンデリア。目の前の深紅の重厚なカーテンのドレープの中央に、王様と思わしき、人物が堂々と座していた。  そして、その王様が信じられないことを口にした。 「おお、その赤いペンダントはまさしく、勇者の証。ようこそ、ユクレシアへ、異世界の勇者殿。驚かないで聞いて欲しい。どうか、この世界を救ってはくれないだろうか」  僕は思わず、山田くんの持っているペンダントを二度見してしまった。  まさか本当にあのペンダントが勇者召喚に関わっているだなんて、思わなかったのだ。いよいよこれは本当にまずかった。羽里が本物の呪物に遭遇しはじめている。僕がこうして、本当に異世界に来てしまっている間に、彼女がどこか他の異世界に召喚されてしまうかもしれない。  僕は焦った。  だが、現状、僕は山田くんと一緒に異世界にきてしまっていて、羽里のことを守ることはできそうになかった。僕は、この状況を作り出したのが妹だということも忘れ、どうしようと、目の前が真っ暗になった。  僕がそうして何も考えられなくなっていた間に、王様と山田くんの話は進み、どうやら優しい山田くんは、この世界、ユクレシアを救うを約束したようだった。  その頃ようやく意識が戻ってきた僕は、ふと、王様の前に並んでいる人たちが目に入った。魔法使いのような黒いローブを来た青年、そして、戦士職かなと思わしきたくましい青年、そして、僧侶のような白いローブを着た青年が並んでいたのだ。おそらく、これは勇者パーティとして、王様が集めた人たちなのかもしれない、という予測は簡単にたった。そして、ここに、山田くんが加わるのか…と思ったとき、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。そんな、まさか、ありえない。まさか、山田くん… (ハーレムパーティ…だと…)  妹に汚染され、腐りきった僕の頭は、カシャンカシャンカシャンチーンと、昔のレジのような音を出し、一瞬で『総受け』という恐ろしい答えを叩き出した。僕の頭の中に、おそろしい絵面が浮かびかけたが、ぼやっとモザイクをかけて、なんとか踏みとどまった。僕は未成年なのだ。  いや、待て、ちゃんと考えてみよう。  そうだ。僕たちは未成年だ。総受けなんていう恐ろしく危険な状態にはならないはずだ。あって、ほのぼのとした総愛され、な、はずだ。若干、苦し紛れの、ただの僕の希望ではあった。R18の小説に、平気で高校生が出てくるという事実を、僕はなかったことにした。  僕は、ほっと胸を撫で下ろした。  そして、冷静になった僕は、同じような状況から始まる、昨日の妹のやっていたゲームを思い出して、再び恐ろしい事実に気がついた。 (待て。ユクレシアだって?!『煌星の勇者ーユクレシア物語ー』の?)  僕は改めて、そのパーティメンバーと思わしき人物を見返して見たのだ。そして、長い銀髪に水色の瞳の僧侶に目を止める。羽里が、言っていたのを思い出したのだ。  ーーー私は断然、僧侶派だなあーーー  そして、僕は目を丸くして、山田くんを見た。  そして、無意識に、不躾にも山田くんの尻も確認してしまった。腕の筋肉のつき方から、スポーツでもやっているのだろうと予測される、山田くんの引き締まった男らしい尻が、制服のパンツの下にあるのは明白だった。いや、当たり前だ。尻はある。そこにあるのだ。僕にもある。いや、違う。尻の話ではなかった。  羽里と一緒にやっていたのは、もちろん全年齢版であった。しかし、R18版も出ているゲームなのである。 (山田尻の危機!)  僕は異世界に来てしまったという驚愕の事実よりも、山田くんの尻が心配で震えた。  いや、だから、尻の話ではなかった。僧侶だ。僧侶のビジュアルを思い出し、ゲームの二次元の姿とそっくりの美しい顔を見とめ、今度こそ、本当に震えた。いや、僕は、山田くんの尻が心配なときも本気で震えていた。  よくよく見れば僧侶だけではないのだ。戦士も魔術師もビジュアルがそっくりだ。  嫌な汗がつーっと頬をつたった。  本当に、本当にここがユクレシア物語の舞台であるというのなら、このまま行くと、山田くんは、僧侶に大人の色気で迫られるか、戦士に優しく迫られるか、魔術師にツンデレ気味に迫られるか、後から出てくるシークに悪い感じで迫られるか、なんかして、その恐ろしい四択の後、ハッピーエンドを迎えてしまう。  全年齢版ではもちろん描写はない、だが、R18版では、ーーーと、そこまで考えて、僕はあまりの恐ろしさに、山田くんの顔が見れなくなった。だけど、心配すぎて、山田くんの方を向くのはやめられず。王様が話しているというのに、ただただそこにある、男らしい尻を凝視してしまった。 (この尻の危機!)  が、僕が震えている間に、その僧侶を含む、パーティーメンバーと思わしき人物たちが近づいてきた。どうやら、王様の話は終わり、実際に交流の段階になってしまったようだった。  そのとき、尻のことしか考えていなかった僕は、重大な事実に気がついた。いや、もちろん、尻も重大であるのだが、もっと根本的なことだった。そもそも、ーーー (あれ、|僕《・》|は《・》…どうなるんだ??)  ←↓←↑→↓←↑→↓←↑→ 「魔術師は、俺がいるからいらないって言っているんだ!」  とりあえず王城の一室に集められた僕たちの目の前で、薄茶色の髪に、薄紫の瞳の、魔術師の男が叫んだ。黙っていれば王子様のように見える彼が、今は、猫目をつり上げて怒っている。  あの後、ステータスを確認したところ、山田くんのステータスには、本当に『勇者』と表示されていて、僕は驚いてしまった。そして山田くんは、その薄紫の瞳の男、ーーー魔術師のヒューに、負けじと言い返した。 「魔王を倒す旅に出るのはいいけど、絶対に乃有さんも一緒じゃないとだめだ!」  山田くんはなんていい奴なんだろう、と、僕は思った。  僕は自分のステータスを見てみたのだ。そこには『巻き込まれた一般人』と書かれていたのだ。羽里がよく読んでいるBL小説やラノベでよくあるステータスに愕然とし、一緒にやっていたユクレシア物語のゲームを思い出し、これから本当に魔王を倒しに行くのかと、その奇想天外すぎる状況に、僕は、くらっと倒れそうになった。  そんな僕にも一応、よくある固有魔法みたいなものも、あるにはあったのだ。だが、全く使えそうにない魔法で、僕がもし勇者パーティを構成するんだとしたら、ペッと真っ先に置いていく人材だった。  それが今の僕の状態である。  そう、本来だったら、町にでもペッと置いて行ってもらったほうが、安心だとは思うのだ。  だが、このゲームのラストシーンで、バッドエンドを迎えた勇者が、地球に帰るという選択肢があったかもしれない、と思い出したのだ。ただ、それは羽里がそう言っているのを聞いただけで、僕は確認していない。  それでも、僕はその場にいて、もしも帰るという選択肢があるのなら、そうしたいと思うのだ。  なぜなら、一刻も早く、地球に戻り、妹の安否を確認しなければならないからだ。それに、正直、一緒に来た年長者として、山田くんの安否も気になる。なんの安否かは言うまい。いや、全て含めてである。山田くんの安否だ。  しかし、魔王討伐の旅である。僕が足手まといになる可能性は高かった。  ただ、魔法適性があるようで、練習すれば使えそうな感じなのだ。それに、もしもこの異世界が、羽里が読んでいるラノベのように、ゲームの世界観と酷似していることがあるのだとすれば、僕の知識は役に立つかもしれない。魔王の弱点だって知っているのだ。様々な事象の真偽は、旅の途中に確認しながら進まないといけないということは、重々承知の上だが。  だから魔術師として同行するのはどうかと、思ったのだ。  だが、勇者パーティとして、僕たちを召喚した王国が準備していたメンバー、先ほどの魔術師のヒューの大反対を受けている。僧侶のシルヴァンと、戦士のオーランドは、困った顔で笑っているだけだ。本来ゲームなら、このパーティに、途中からシーフのクレイが加わるのだが、それはまだわからない。  とにかく、今はヒューである。  先ほどから、山田くんとものすごい勢いで言い合っているが、一向に折れてくれる気配がない。このままでは、勇者パーティが出発することもできないのだ。僕はおろおろしながら、どうしようと思っていると、僕のことをキッと睨みながら、ヒューが言った。 「お前のことだぞ!なんか言ったらどうなんだ。」  僕の体がビクッと震えた。  もとより、友達がほぼゼロな、コミュ障である。家族と以外、ろくに話したこともない僕は、人の悪意に正直弱い。前髪を伸ばしているのだって、昔、そばかすを笑われたことがあるからなのだ。  たかがそばかすと思うかもしれない。だが、それがあるものにとっては、されどそばかすなのだ。大体その『そばかす』という言われようを考えて欲しい。蕎麦のカスである。せめて何故、『蕎麦殻』と言うのではいけないのか。一応、枕にだってできる。想像してみて欲しい。カスを顔に散りばめている人の気持ちを。  いや、今は僕の気持ちを語っている場合ではなかった。  そう、とにかく僕は、そのせいで、顔の半分ほどを前髪で隠すほどのコミュ障なのだ。いつもなら、尻尾をくるくるくるっと勢いよく巻いて、とっとと逃げ出してしまいたいところだ。しかし、僕も今回ばかりは、譲れなかった。  僕は覚悟を決めた。  そして、ヒューに近づいていく。ヒューが「なんだよ」と、若干焦ったような声を出したが、構わず近づく。そして、耳元でこっそり囁いた。 「女の子とドーナツ」  ヒューは目を見開いて、バッと僕を振り返った。僕はできるだけ、余裕があるように見えるといいな、と思いながら、ふふんと笑ってみせたのだ。どうやら、ゲームのキャラクターとプロフィールは同じだと、思ってもいいかもしれない。  ヒューは、勇者パーティーの中で、一番、勇者と歳が近い、ーーーと考えて、あ、僕と同じ歳だ、と気がついた。シルヴァンは二十一歳、オーランドは十九歳だったはずなのだ。他の二人に比べても、若干顔立ちに、幼なさが残っている。  魔術師一家に生まれ、幼い頃から天才魔術師の名前を恣にしてきた。そのせいで、小さい頃から、女の子にキャーキャー囲まれていたせいで、女の子が苦手なのだ。  そして、ドーナツを見ると、燃やしてしまうほど、大嫌いという設定だった。  ドーナツを見ると、何故穴が空いているんだということを、小一時間考え、最終的に恐怖するらしい。どういう思考回路なのかは、甚だ疑問だ。だとすると、ちくわも嫌いなんじゃないかと僕は思う。おそらく、異世界には、ちくわはないんだろう。  プライドが高く、いじっぱりで、気が強いため、その弱点は誰にもバレないように、ふるまっている。  だから、僕の一言は効いたはずだった。ぱちぱちと、気の強そうな瞳をまあるくして瞬かせているヒューに、僕は、尋ねずに、断言した。 「僕も、一緒に行くからね」  こうして、怒りにぷるぷる震えているヒューをなんとか丸めこみ、山田くんと僕たちの旅は始まることになったのだった。

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